第19話 契約の履行と更新と
結局、この契約はこのあと数百年の時を越えて受け継がれた。カルスが死亡しても有効な契約など結んでしまったがために、いつまでも縛られ続ける羽目になったわけである。しかも、魔人が世界に顕現する為には契約者が生きていることが絶対条件である。そのため、カルスが死亡してからは姿がこの世界から消滅し、もとの透明人間状態に戻ってしまったにも関わらず、王家のまわりでちょろちょろしながら暗殺者退治などしなければならなくなった。その上、カルスが捧げるものをその血などにしてしまうから、私はその在り方まで変容させられて吸血衝動を持つ魔人となってしまったのである。カルスと契約したことは本当に悔やんでも悔やみきれない。あの契約さえなければ、私は自由に世界をかけまわっていたはずなのである。若気の至り、とはこういうことをいうのだろう。いつもこのころのことを思い出すと、そう思う。
*
カルスが亡くなってから、私はひたすら王家の人間の後ろで彼らを守ると言う生活をし続けた。特に危険なのが謁見の間で、今にも切りかからんとする者は枚挙に暇がなかった。だから国王が玉座に座っている時は特に気を張って見守ったものである。もしも私がいなかったなら、ミスト王国国王は何度暗殺されていたか分からない。
ところで、最近面白いことが起きた。
カルスから十五代かそこらのことだ。国王の息子、つまり第一王子がある日私にこう言ったのだ。
「お姉さん、誰?」
私は心底驚いた。何せカルスから数百年、私のことを視認できる人間など一人も出会わなかったのだから。しかもそれが王家のものになるとは思ってもみなかった。しかし、これは私にとって僥倖だった。あれからどれくらい経ったか。そろそろ私はこの退屈な守護生活から解放されたいと思っていた。にもかかわらずカルスの付けた条件のせいでいつまでもこんなことを続けなければならなかったのだ。そろそろ、いいだろう。私が解放されても。契約の更改は戴冠式の時にのみできる。あの条項は、つまりは王家の者以外が契約をすることができないということを裏から言ったものだ。魔人との契約はそもそも魔人が視認できる者にしか適正がないものだから、私が契約を更改できるチャンスは、今回の第一皇子を逃すと、今後数百年は来ない可能性が高い。私はどうしてもこのチャンスを逃す訳には行かなかった。




