第17話 誘いと旅立ちと
村長――アミルというらしい――の語った話によれば、魔人と言うのは人間が勝手に決めた呼称であり、魔人は本来ただの人間らしい。ところが、魔人は明らかに人間と異なる。つまりは、アミルや私を見れば分かることだが、寿命と言う概念がなく、特定の場合を除いて人間から視認されない、などの特性を持っているのだ。
「どうしてそんなことになった」
「分かりませんか? あなたは異世界人でしょう?」
出し抜けに言われた単語に私は驚く。
しかしそのことを知っていてもおかしくない理由に一つ思い当たった。
「……もしかして、魔人とは皆そうなのか?」
「その通りです。魔人とは、異世界人のことなのです」
「なぜそれが魔人などと……」
「簡単なことです。この世界の人間が使う異世界人召喚術にはいくつか系統や魔法陣がありますが、その組み合わせた理論的な間違いで失敗することがあります。その失敗作が、つまり我々なのです」
「失敗作……」
「ええ。代表的なのは言語能力不全ですね。本来召喚魔法陣には翻訳魔法も含めて組み込まれているはずなのですが、それが抜けている魔法陣が近年、多くなっています。それで召喚されると言葉が通じなくなり、結果として召喚に失敗します」
「失敗か。だが私はこちらに召喚されているのだが…」
「すみません。少々語弊がありました。召喚には成功しますが、召喚者との意思疎通に失敗する、ということです」
「なるほど。しかしそれならば時間をかけて言語教育を施せばいいのではないか?」
「それが出来ない事情が実はあります。召喚した後、一定時間を過ぎると召喚者はこの世界の法則から弾かれ、その存在を不可視なものへと変容してしまうのです」
「変容……」
「ええ。おそらく体験なさったのでは? この魔人領にいる者は全て、この世界の人間には視認されることがありません。しかし我々の側から彼らに干渉することは出来る」
「そうか、それで……」
「魔人と呼ばれる所以は、不可視になった我々が犯罪的行為に走りやすいと言う事情にあります。実質透明人間ですから。泥棒も殺人もし放題な訳です。それが我々の仕業だと、召喚魔法を理解している者は分かっているものですから、魔人と呼んで蔑み恐れるわけですね」
「話は分かった。この集落は何のためにある?」
「互助組合でしょうか。誰にも視認されないと言うのはとても堪えるものです。ただ、魔人には魔人が見えるのですよ。ですから、そういう普通の生活をしたい、という者が集まって村を作ったのが始まりです」
「ここに住むにはなにか特別な資格はいるのか?」
「いりません。住みたいなら、それが資格です。どうですか?あなたも」
「すこし考えさせてくれ」
そう言って、私は村長の家を辞去した。
集落は20分もかければ全て見て回れるほど小さく、こじんまりとしている。けれどどこか懐かしく、幸福な空気が流れていて住んでいる者は皆、とても幸せそうに見えた。
ここに住めばきっと実りある日々が遅れることだろう。
私は考えた。
*
「本当にいいのですか?」
眉を寄せてそう聞く村長に私は言った。
「ここに住むのもいいが、私の人生はどうにも長いらしい。少なくともあと700年はあるのだろう? ならば世界を見て回るのも悪くないと思ってな」
私の台詞に村長が笑った。
「年、言わなければよかったです。寂しくなったらいつでもここに帰ってきてください。魔人領はいつでも、あなたを出迎えますよ。それと……ここを去る前に伝えなければならないことがいくつかあります」
村長がそう言って、色々な常識や魔人に必要な知識などを説明してくれた。そんなに一気に覚えるのは無理だと思ったが、勉学に20年浸かりきったためなのか、それとも魔人になったが故なのか、記憶力がかなり高くなっていることに今さらながら気づいた。そう言えば中々物忘れしないなと思っていたら、こういうことだったのか……。
私は手を振って、集落を後にした。




