第16話 サファリパークと魔人と
学校で学んだことの一つに、魔人領というものがあった。これは人ならざるもの、目に見えぬ契約の魔物の住む人の到達できない大陸の中央部に存在する場所であるらしい。目に見えぬ、というところを聞くとまるで私のことではないか、と思った。契約の魔物、という部分にひっかかりを覚えないでもなかったが、とりあえず飲まず食わずでもなんとかなる体である。あれから全く年をとっていない体を見ても、旅行の一つや二つしても問題ないだろうと思った。
私は一路魔人領に向かった。
魔人領への道のりは、凶悪そうな生き物が大量にいて、毎日弱肉強食を繰り返している阿鼻叫喚の様相を呈していた。なるほど確かに人には到達出来そうもない空間である。よほど人間離れした強さを持っていない限りは、ここを生きて進むことはできないだろう。私はと言えば、誰にも視認されないためにゆったりとお散歩気分で進むことができた。なんともたのしい道のりである。絶対安全なサファリパークを歩いているような気持ちで、非常に面白かった。
*
どこまでも果てしなく続きそうだと思った道は、意外にも早めに終わった。弱肉強食サファリパークを抜けて、しばらくすると森があり、その森を数日ほど歩いた先に、集落のようなものがあったのだ。
警戒しながらもそこに入ると、意外な事に声をかけられた。
「おう! もしかして新入りか!」
現れたのは中年の男性である。比較的細身で引き締まった体をしている彼はしっかりと私の姿を見据えて言葉を発していた。どうみても私の事が視認出来ている。
「ああ。いましがた、ここに辿り着いた。ここが魔人領、というやつか?」
「なんだ、お前……」
しまった、なにかまずいことを言ったか、と思った瞬間、男は笑いだす。
「見た目の割に、随分硬い言葉遣いをするやつだな?」
一気に力が抜ける。
「見た目は関係ないだろう……それよりも、どうなんだ?」
「あぁ?」
「魔人領かと聞いている」
「ああ、それか。そうだ、ここは魔人領だよ。分かってて来たんじゃないのか?お前も魔人のようだが……」
「ん? そうなのか?」
「あぁ、良く分からずに辿り着いた口か。運がいいな、お前。こっちこいよ。別に取って食いやしないから。村長に紹介してやる」
そう言って男は歩き出す。
向かった先にはその集落で一番大きい――と言っても一回り大きい程度だが――ログハウスがあった。
中に入るとそれなりに住み心地が良いように家具の配置が考えられていて、しっかりとした生活感がある。
迎えてくれたのは十五六歳、といった感じの少年だ。
村長というにはいささか若過ぎる気がした。私の視線の意味を理解したのかその少年は微かに微笑んで話し出した。
「分かります。僕のことを若い、と思ったのでしょう?」
「ああ、まぁ」
「しかしそれは気のせいです」
「それはどういう……?」
「その前に、あなたはおいくつですか?」
「……30前後と言ったところか」
「それはお若いですね。けれど、その見た目にしては、少し年が行き過ぎている……」
「まぁ、そうだな。なるほど、それと同じことか」
「ええ。ご理解いただけてよかったです」
「失礼だが、年はいくつか?」
「ついこの間、700を越えたところです」
「……700?」
「はい。700歳、ですよ?」
「それは……確かにいいお年だ」
「ええ。まぁそれはともかく、魔人領には初めてお越しのようですね?」
「ああ。正直なところ、私も魔人の一員と言うことらしいが、それがよく…」
「わからない?」
「ああ」
「では、ご説明しましょうか……」




