第13話 不安と溺愛と決戦と
なにはともあれ、戴冠式は一波乱あったにしろ、一応全プログラムをきっちりとこなして終わった。
これで俺は名実ともにミスト王国国王となる。
「国王か…」
「なんだ? 不安か?」
クーが面白そうに笑う。
「不安だな。父王があんまりにも平然と執務をこなしてらしたから、楽な商売だと思っていたが、いざ自分がなってみるとな。まず何をやるべきか、から自分で決めなければならない。不安でたまらないよ」
「正直だな。ただ一応言っておく。正直は美徳だがそれを言うのは私の前でだけにしておけ。お前に着いていく者がそれを聞いたらお前の資質を疑う」
「分かっている。……お前もしかして心配なのか?」
「なっ! そんなことなど……いや、やはり心配か。お前がこんな小さい時からずっと見てきたのだからな。なるほどこれが親心と言う奴か……」
こんな小さい、の辺りで地上一センチくらいまで掌を下げて、ふむふむと頷くクー。
確かにその通り、彼女がずっと王家を見てきたのだから、俺の赤ん坊の時も知っていることだろう。実際、俺の一番初めの記憶には、父と母の顔と共に、クーの顔がある。
「まぁ、とにかくだ」
「ん?」
「これからよろしくな」
「ああ」
クーの声にどこかほっとしている自分がいた。
*
執務室で書類仕事をしていると、突然部屋の扉が開いた。
「アル様!!」
どうやら入ってきたのはミハ嬢のようである。どうしたのか首を傾げて見ると、
「クー様はどちらに!」
と言う。実際のところ俺の横の出窓の定位置で本を読んでいるのだが、見えていないらしい。どうやらクーはあの契約以来、自分の姿を他人に見えるようにも見えないようにも調整できるようになったようだ。
そして今は姿を見せてない。ということは見つけてほしくないのだろう。
「どうして探しているんです?」
「一緒にお茶が飲みたいからです!あの可愛らしい御姿……あぁ!」
目が爛々と輝いていた。どうやら、ミハ嬢の中でクーはお人形さんと化したようだった。
「まぁ、どこかにはいるでしょう。私は居場所を存じ上げませんので、他の場所をお探しになっては?」
「そう致します。お仕事中、失礼いたしました!」
だだだ、と効果音が付きそうなくらい高速で部屋を出ていくミハ嬢。
俺はクーを見て言う。
「なんだあれは」
「なんだか姿を見せたあの日から、気に入られたらしい。出会うたび、抱きしめられて撫でまわされる」
「だから避けてる訳か」
「その通りだ」
「……別にちょっとくらいはいいんじゃないか?」
「そのちょっとが徐々に増えていくのが人間だろう? 節度を守った付き合いが一番だ」
「なんだかプレイボーイのような物言いだな」
「似たような状況になっていて困る」
「なってるのか」
「ああ。侍女のお姉さま方も似たようなものでな」
「……まぁ、がんばれ」
「しばらくはここで姿を消して過ごすさ」
そう言ってクーはまた本を読みだした。
穏やかな時間が流れていく。いつまでもこういうときが進めばいいと思った。
しかし決してそんなことにはならないということは分かっていた。
*
聖国が侵攻を始めた。前王が亡くなり、一月が過ぎた今、喪に服す必要もなくなったと言いたいのだろう。せめて一年は止まるべきだと思うが、それが通じるような国ならここまで戦争が長引く筈がない。
「決戦だな」
俺が言うと、クーは笑う。
「教皇さえ潰せばお前の勝ちだ」
「……なぁ」
「なんだ」
「俺は教皇と戦えるのか」
「私は信じられないか?」
「……いや。他の誰よりも信じている」
「なら、迷わず進め」
「力強い言葉だな」
「私は口だけだ。お前は行動で示せる。お前の方が強いさ」
「そう言われると、なんでも出来るような気がしてくるから不思議だ」
「では、いくか?」
「ああ」
ミスト王国国軍はその戦力の半分を聖国領に向けて侵攻を開始した。その先頭にはミスト国王、そしてその契約の魔人であるクープランがいたという。




