第11話 疲弊と狂気と
聖国との戦争が激化し始めている。父王が言うには、前線が押され始めているとのことだ。ついこの間までは拮抗していたのだが、教皇が積極的に前線に出始めたために、またたく間に陣を占領されているのだという。
「このままではまずいかもしれん……」
そう言った父王の顔には疲労が浮かんでいた。ついこの間もかつてからの盟友と言っていた将軍職の男が一人、戦死したばかりだ。だというのに上がって来る報告書には気がめいるほどの数の死者の数が書かれている。父王でなくても、目の前が真っ暗になるような気分がするだろう。
「アルよ、契約の魔人には、教皇と同じ事はできないのか?」
すがるような目でそう聞く父王に、俺は首を振ることしか出来ない。
「そんなに簡単にはいかん、か……」
「教皇には魔人ではなく、聖人、という者が契約しているようです」
「聖人? ふむ……聞いたことがないな……」
それから考え込むように顔を伏せってしまい、俺はいたたまれなくなって部屋を後にした。
*
父王が大量の資材を集めるように国内全土に布令を出したと言う。
冷静でいつも国民のことを考えている父王にしては珍しい事だと思ったが、これも何か意味のあることだろうと俺は当初は気にしなかった。
しかし、それは間違いだった。
どうやら父王は資材と共に奴隷まで買い集めているのだと言う。奴隷制度が存在する国はいくつかあるが、我がミスト王国はそのような制度とは決別したはずだった。
にもかかわらず、それを集めているとなると、外聞も悪い上に、父王の支持基盤にも関わって来る。中央集権体制をある程度まで整えているとは言え、それは万全なものではない。譜代の貴族が裏切ってしまえば、そのシステムも一瞬にして崩れ去る可能性すらあるのだ。そんなことすらわからない父王ではない筈だったが、その行動から見るに、もはや期待するのは間違いなのかもしれなかった。
「父上。奴隷を買い集めていると聞きました」
「それがどうした?」
「奴隷は、法に反します」
「法? そんなものはついこの間改正した。この国でも条件付きで奴隷は合法だ」
「馬鹿な……」
「何とでも言うがいい。私はこの国を守らねばならない。そのためには鬼にでも悪魔にでもなろう。さぁ、我が息子よ。出て行くがいい」
「父上っ……!」
何かを言う暇もなく、衛兵に押し出されてしまった。部屋の前では屈強な衛兵が二人、俺を睨みつけている。どうやらどうあっても通す気がないらしい。
俺は諦めて自室に戻った。
*
「父上は何を考えているんだ!」
そう叫ぶと、クーが平坦な声で言った。
「それはお前の父本人にしか分かるまい」
「それはそうだが……だからと言って奴隷など……」
「いくら考えてもそれしか方法がなかったのだろうよ。父を許してやれ」
それは天啓だったのかもしれない。どうしてそんな考えに至ったのか、その道筋は分からない。けれど俺はそのとき思った。クーは何か知っていると。
「クー……、お前、何か知っているのか?」
「……」
「クー!!!」
「私は、何も知らん……ただお前の父が、国を守りたいと言うこと以外はな」
「クー……」
それからクーは黙り込んだ。何を聞いても答えてくれなかった。




