↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、愚かな旦那様? 本当の私を知らないようですね。  作者: 滝里シエル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

4

 馬車から降り、侯爵邸の玄関ホールに歩いて行くと、腕組みをして柱に寄りかかっているエドガー様と鉢合わせる。


「アナスタシア、黙ってどこに行っていた?」

 エドガー様は鋭い視線をこちらに向けた。


「……騎士団の駐屯所ですわ。ヴィクトル様にお伝えしたい用件がございましたので」


「……なっ!? 俺に無断でそのような場所に!」


「無断ではありませんわ。お義父様から許可は得ております」


「く……っ」


 私がはっきりと伝えると、エドガー様は押し黙った。


 エドガー様は苛立った様子で、ぶつぶつと呟きながら髪を掻きむしっている。

「……な、なぜ父上が……っ、もしや、あいつに……家督をっ」


「それでは失礼いたします」


 私がエドガー様の前を横切ろうとすると、手首を掴まれた。


「待て、アナスタシア! 勝手な行動は許さないぞ! お前は俺の妻なんだぞ!!」


 私は掴まれた手首を振り払う。


「でしたらエドガー様も、勝手な行動は慎んでくださいませ! 私やお義父様に内緒で、バルツ男爵と会っているのでございましょう!?」


 私に言い返されると思っていなかったのか、エドガー様は驚いたように目を見開いた。


「そ、それはお前には関係ないことだ! 男の仕事に口を出すな、お前は黙って俺に従っていればいいんだ!!」


 そう私に罵声を浴びせると、荒々しく足音を立てながら去っていく。

 私はその後ろ姿を黙って見送った。


 


 ――それから数日後、事態は起こった。


 廊下を歩いていると、お義父様の執務室で言い争う声が聞こえる。


「グラハム侯爵家に泥を塗りおって、この無能が! お前は勘当だ! ここから出ていけ!」


 お義父様の怒声が廊下まで漏れ聞こえてきた。

 バンッと乱暴にドアが開き、エドガー様が飛び出して来る。


「……きゃっ!?」

 肩がぶつかったが、彼はそのまま走り去っていく。


「エドガー様!?」


 私が呆然と立ちすくんでいると、執務室から頭を抱えながらお義父様が出てきた。


「まったく、仕方のない奴だ。バルツ男爵の胡乱な事業に手を出し、自分の財産のほとんどをつぎ込んでしまったんだ。しかも、男爵は行方知れずに」


「え!? そんな……っ」


(やはり、バルツ男爵の噂は本当だったんだわ)


 お義父様は周囲を窺うと声を潜め、そっと私に告げる。


「事は順調だ。……あとは頼む」


 私が弾かれたように顔を上げると、お義父様はふっと小さく微笑んだ。

  

 お義父様は私に、彼のこれからを託してくれたのだ。

 彼を救えるのは、妻の私だけ。


 私は頷き、エドガー様の後を追いかけた。




 私はエドガー様を探しに屋敷内を回ったが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。


 その時、ふとお義母様の言葉を思い出す。


『子供の頃、よく裏庭のナラの木の下で、一人で隠れて泣いていたの』


(もしかしたら……)


 私は裏庭に向かって歩き出した。



 木々が生い茂る裏庭の奥に歩みを進めると、周りより一際大きい木が目に留まった。その大木の幹の後ろに、影のようなものが微かに見える。


「……エドガー様……?」


 私が静かに呼びかけると、その影は一瞬揺れ、隠れてしまう。


 どう声をかけたらいいのか考えを巡らせていると、ボソッと低い声が聞こえてきた。


「……お前も……俺を馬鹿だと、呆れているんだろっ」


「そんなことありません……。私は……っ」


 私の言葉を遮るように、エドガー様は話を続ける。


「嘘だっ! お、俺は……全財産を男爵に持ち逃げされた挙句、父上からは……勘当を言い渡されて……俺は全てを失って……しまっ……く……っ」


 エドガー様の声が段々と震え、言葉を詰まらせる。


「……お、俺は……っ、自分が……情けない……、嫌いだ。何をやっても、あいつ、ヴィクトルには敵わない。だから、見返したかった……。俺だって、出来るんだって、俺だって……っ、くそ……っ、うっ……」


 エドガー様のすすり泣くような声が聞こえてくる。

 幼い頃からここで一人、幾度となく涙を流したんだろう。


 何をやっても報われないエドガー様。自業自得とはいえ、彼の心情を思うと胸が締め付けられる。



「……アナスタシア、行っていいぞ。俺と……離縁して……、ヴィクトルの元でも、どこへでも、行け……」



 次の瞬間、ざぁっとエドガー様の声を消すかのように風が吹く。


(……え?)

 

 私は耳を疑った。

 プライドの塊だった彼が、全てを失ったというのに、この私の行く末を案じているというのか。


 その声は、いつものエドガー様とはまるで違う弱々しい声だった。



「……わかりました、エドガー様のおっしゃるとおりにいたします。……ヴィクトル様の元へ行きますわ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。