黒衣
森の奥から、金属音が響いた。
レオンたちは駆ける。
木々を抜けた瞬間、視界が開けた。
討伐隊の兵士たちが倒れている。
動かない者もいる。
まだ息のある者もいるが、深い傷を負っている。
その中央に、一人の男が立っていた。
黒い外套を纏った青年。
年はレオンより少し上だろうか。
無駄のない体つき。
長くも短くもない黒髪が、額にかかっている。
装飾のない剣。
目立つ紋章もない。
ただ――その瞳だけが印象に残った。
冷たいわけではない。
怒っているわけでもない。
何かを背負い、決めてしまった者の目。
レオンの胸がざわつく。
「……お前か」
青年がゆっくりと振り向く。
一人の兵士が、最後の力で立ち上がる。
「まだ……終わってない……!」
叫びと共に斬りかかる。
交錯は一瞬だった。
青年の剣が閃く。
兵士は崩れ落ち、動かなくなる。
静寂。
エリスが小さく息を呑む。
ガルドが大剣を構える。
「やるしかねぇな」
レオンは剣を抜いた。
「なぜ邪魔をする」
数秒の沈黙。
青年の唇がわずかに動く。
「……壊すな」
それだけ。
ガルドが踏み込む。
大剣が唸る。
青年は半身でかわし、柄で打ち、体勢を崩す。
速い。
ガルドが後退する。
レオンが横から斬り込む。
鋭い一撃。
青年は受ける。
火花が散る。
重い衝撃。
レオンは止まらない。
連撃。
踏み込み。
斬り上げ。
青年は流すが、完全ではない。
刃が外套を裂く。
浅い傷。
血が滲む。
青年の目がわずかに細まる。
「人を殺してまで止める理由があるのか!」
レオンの声が森に響く。
青年は答えない。
踏み込み。
反撃。
レオンの肩をかすめる。
エリスの光が瞬時に包む。
温かな輝きが傷を閉じる。
青年の視線がエリスへ向く。
ほんの一瞬だけ、迷い。
だが消える。
ガルドが横から圧をかける。
青年は後退。
三人の呼吸が揃う。
レオンは深く踏み込む。
迷いのない一撃。
一直線。
金属音が弾ける。
青年の防御を押し切る。
刃が肩口を深く裂いた。
確かな手応え。
血が地面に落ちる。
青年が一歩退く。
初めて、大きく距離を取った。
静寂が落ちる。
レオンは剣を構えたまま睨む。
青年は傷を押さえない。
ただ三人を見る。
その瞳に、わずかな揺らぎ。
「……壊すな」
かすれた声。
次の瞬間、青年は森の奥へ跳んだ。
黒い外套が揺れ、木々の間に消える。
追えない。
気配が遠ざかる。
完全に消えた。
ガルドが息を吐く。
「……逃げた、か」
エリスがレオンの袖を掴む。
「大丈夫、ですか……?」
レオンは森の奥を見つめたまま答える。
「ああ」
握る剣に、まだ熱が残っている。
確かに届いた。
あの男に。
戦いは、まだ終わらない。




