鋼の背中
森の奥へ進むほど、瘴気は濃くなる。
空気が重い。
足元の土が、わずかに脈打っているように感じる。
「……核、近いですね」
エリスが小さく呟く。
レオンが頷いた、その直後――
地面が爆ぜた。
黒い巨体が茂みを突き破る。
これまでの魔物より一回り大きい。
外殻は硬質化し、爪は太い。
核に近い個体。
「下がれ!」
レオンが前に出る。
魔物が突進。
剣で受け止める。
重い。
腕が軋む。
押し切られる――
その瞬間。
横から轟音。
「どけぇぇえ!!」
巨大な影が跳び込んだ。
振り下ろされる大剣。
衝撃で魔物が横へ吹き飛ぶ。
土煙の中から現れた男。
筋骨隆々。傷だらけの鎧。
肩に担いだ大剣。
「若いのだけで無茶すんな」
豪快な笑み。
「ガルドだ。前は任せろ」
魔物が再び咆哮する。
ガルドは真正面から迎え撃つ。
刃と爪が激突。
火花が散る。
「 横から崩せ!」
迷いがない。
レオンが踏み込もうとした瞬間――
足元が淡く光った。
エリスが杖を掲げている。
「身体強化、展開します!」
光が円陣のように広がり、二人を包む。
力が巡る。
剣が軽い。
足が鋭い。
視界が鮮明になる。
ガルドが低く笑う。
「……力、乗ったな!」
レオンが横から斬り込む。
強化された一撃が外殻を裂く。
だが魔物の尾が振り抜かれる。
ガルドの肩を掠め、血が飛ぶ。
エリスが即座に詠唱を重ねる。
「治癒、維持!」
温かな光が傷口を覆う。
肉が閉じ、出血が止まる。
同時に、強化は消えていない。
二重展開。
エリスの呼吸が荒くなる。
額に汗。
それでも杖を握る手は震えていない。
「前、お願いします!」
ガルドが踏み込む。
「任せろ!」
レオンも同時に動く。
左右から挟撃。
外殻が砕ける。
魔物が膝をつく。
ガルドが大剣を振り上げる。
「終わりだ!」
叩き落とす。
衝撃。
黒い霧となって崩壊する。
静寂。
光が消えると同時に、エリスがよろめいた。
レオンが支える。
「無理するな」
「……大丈夫です」
少し息が乱れている。
だが、笑った。
「二人が前にいてくれるから、私は全力を出せます」
ガルドが大剣を肩に担ぐ。
「後ろが安心できると、前は思い切れる」
それからレオンを見る。
「悪くねぇ連携だな」
自然と三人が並ぶ。
前にガルド。
その斜め後ろにレオン。
さらに後方にエリス。
形ができる。
ガルドは森の奥を睨む。
「核、相当奥だな」
レオンが短く答える。
「ああ」
エリスが小さく言う。
「壊せば、森は静かになりますよね」
ガルドは迷わない。
「当たり前だろ。壊して帰るだけだ」
レオンも疑わない。
終わらせれば、救われる。
それが正しい。
森の奥で、かすかに何かが脈打つ。
三人はまだ知らない。
その鼓動が何を意味するのか。
ただ――
鋼の背中が前にあり、
隣に剣があり、
後ろに光がある。
だから進める。
核へ。




