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隣に立つ理由

黒哭の森の奥へ進むほど、瘴気は濃くなっていった。


視界がわずかに歪む。


息が重い。


エリスは小さく息を整えながら歩いている。


「大丈夫か」


レオンが振り返る。


「はい。少し息が重いだけです」


無理をしていない声。


だが額にはうっすら汗。


そのとき、木々の間から影が飛び出した。


四体。


さっきより大きい。


「下がれ!」


レオンが前に出る。


だが次の瞬間、別方向からもう二体。


挟まれる。


レオンが舌打ちしたその瞬間――


「左、来ます!」


エリスの声。


同時に、地面が淡く光る。


簡易結界。


一瞬、魔物の動きが鈍る。


レオンは迷わない。


左を斬り捨て、前へ踏み込む。


二体をまとめて薙ぐ。


だが背後。


爪が振り下ろされる。


間に合わない。


その瞬間――


温かい光が背中に走った。


痛みが消える。


「行ってください!」


エリスの声。


振り向けば、彼女は片膝をつきながら術を維持している。


守られているのは、レオンの方だった。


「……!」


レオンは踏み込む。


最後の一体を叩き斬る。


静寂。


荒い息。


瘴気が薄く霧散する。


レオンはエリスの前に立つ。


「無茶するな」


「レオンさんこそ」


少し膨れた顔。


それが可笑しくて、レオンは息を吐いた。


「助かった」


まっすぐ言う。


エリスは目を瞬かせ、それから嬉しそうに笑った。


「役に立てましたか?」


「ああ」


短い言葉。


だが本心だった。


エリスは立ち上がり、ローブの土を払う。


「私、前線に出る力はないですけど」


少しだけ視線を落とす。


「隣に立つことはできます」


その言葉は軽くない。


レオンは一瞬、言葉を失う。


やがて小さく頷く。


「十分だ」


森を抜ける風が揺れる。


エリスはふと空を見上げる。


枝葉の隙間から、わずかな光。


「終わったら、どうしますか?」


唐突な問い。


「……終わったら?」


「はい。ダンジョンがなくなったら」


少しだけ照れながら続ける。


「普通に暮らせますよね」


レオンは考える。


普通。


想像したことがなかった。


「お前は」


エリスは小さく笑う。


「お嫁さんになりたいんです」


さらりと言う。


だが頬が少し赤い。


「平和な世界で、誰かの帰りを待つのって、素敵だなって」


森の闇の中で、その夢はあまりに眩しい。


レオンは視線を前へ戻す。


「……叶う」


短く言う。


エリスは嬉しそうに頷く。


「はい」


二人はまた歩き出す。


今度は、少しだけ距離が近い。


守るだけじゃない。


支えられている。


その感覚が、レオンの中に残る。


森の奥で、何かが脈打っている。


黒い核。


まだ遠い。


だが確実に近づいている。


それでも――


今は、隣に白がある。


その温もりだけを信じて。

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