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静かな波音

夜は深い。


臨時拠点の灯りがひとつ、またひとつと消えていく。


再突入は明朝。


兵士たちは疲労に沈み、誰もが早く眠ろうとしていた。


だが、レオンは眠れなかった。


外に出る。


潮の匂い。


遠くで波が寄せては返す。


動いている。


当たり前のように。


「……やっぱり、ここにいました」


振り向くとエリスが立っていた。


外套を羽織り、少しだけ髪が風に揺れている。


「起こしたか」


「いえ。私も、眠れなくて」


二人で並んで海を見る。


しばらく何も言わない。


波音だけが続く。


エリスがぽつりと。


「皆さん、安心した顔をしていましたね」


「……ああ」


「レオンさんが“破壊する”って言ったとき」


少し笑う。


「英雄みたいでした」


レオンは首を振る。


「そんなものじゃない」


「怖くないんですか?」


まっすぐな問い。


レオンは答える。


「怖い」


即答だった。


エリスが目を瞬く。


「でも、壊せば終わるなら、それでいい」


「また街が消えるのは嫌だ」


静かな声。


エリスはそれを聞いて、小さく息を吐く。


「……私も、嫌です」


少しだけ視線を海に落とす。


「あの力、やっぱり少し怖かったです」


レオンは黙って聞く。


「痛みはなかったんです。でも、なんだか……」


言葉を探す。


「全部、止まってしまいそうで」


一瞬だけ、不安が滲む。


だがすぐに微笑む。


「でも、私が考えすぎですよね」


レオンは首を振る。


「考えるのは悪くない」


「でも、俺は進む」


はっきり言う。


エリスはその横顔を見る。


迷いのない目。


昔からずっと、こうやって前を向いてきたのだろう。


「……はい」


小さく頷く。


そして少しだけ、距離を詰める。


肩が触れそうで、触れない距離。


「明日も、守ります」


「レオンさんを」


まっすぐな言葉。


けれど重すぎない。


レオンは少しだけ照れたように視線を逸らす。


「頼りにしてる」


その一言で、エリスは柔らかく笑う。


風が吹く。


外套が揺れる。


エリスはそっと手を合わせる。


祈るように。


だが声には出さない。


敵のためではない。


仲間のためでもない。


ただ――明日が無事であるように。


「……少し寒いですね」


「戻るか」


並んで歩き出す。


去り際、エリスはもう一度だけ海を振り返る。


波は、変わらず動いている。


その音を胸に刻むように、そっと目を閉じた。

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