表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/36

乱入者

深部へ続く回廊。


さきほどまで荒れ狂っていたはずの水は、嘘のように静まっていた。


中ボスを倒した余波すら、残っていない。


「……回復、あとどれくらいだ」


ガルドが振り返る。


エリスは小さく息を整えながら答える。


「大きな治癒は、あと一度……いえ、半分くらいです」


「十分だ」


レオンは前を向いたまま言う。


その時だった。


水面に、波紋が走る。


一滴。


また一滴。


天井から落ちたわけではない。


足音だ。


四人以外の。


ガルドが即座に振り向く。


回廊の奥。


暗がりの向こうに、人影が立っていた。


長い外套。


濡れているはずなのに、水が滴らない。


無駄のない立ち姿。


手には、黒い剣。


顔は影に隠れている。


だが、わかる。


「……アーク」


レオンが低く言う。


男は何も答えない。


ゆっくりと、一歩踏み出す。


その足取りは迷いがない。


フィルが小さく呟く。


「なぜここに……」


アークの視線は、レオンだけを見ている。


水面が、わずかに凍りつくような緊張。


「どけ」


低い声。


それだけ。


ガルドが前に出る。


「核に近づくなってか?」


沈黙。


次の瞬間。


アークが消えた。


「速――」


言い終わる前に、ガルドの横を黒い影が抜ける。


金属音。


火花。


レオンが剣で受け止めていた。


重い。


水の巨人とは違う。


人間の質量。


だが圧倒的な殺意。


アークは無表情のまま、押し込む。


「……退け」


「断る!」


レオンが押し返す。


衝撃で水が跳ねる。


アークが後方へ跳び、即座に踏み込む。


二撃、三撃。


無駄がない。


急所だけを狙う。


ガルドが横から斬り込む。


アークは視線すら向けず、柄で受け流す。


逆手の一撃。


ガルドの肩が浅く裂ける。


「くっ……!」


エリスが即座に駆ける。


「動かないで!」


光が走る。


血が止まる。


アークの目が、わずかにエリスへ向く。


一瞬だけ。


だが斬らない。


再びレオンへ。


フィルが詠唱を始める。


「拘束――」


「無駄だ」


アークが踏み込み、床を蹴る。


水が弾け、視界が乱れる。


フィルの詠唱が途切れる。


「速すぎる……!」


レオンが前に出る。


「俺がやる!」


刃がぶつかる。


火花。


至近距離。


アークの顔が見える。


整った顔立ち。


感情が、ほとんどない。


ただ目だけが、冷たい。


「……なぜ壊す」


かすかな声。


「それが救いだからだ!」


レオンが叫ぶ。


アークの剣筋が鋭くなる。


迷いがない。


本気だ。


ガルドが背後から斬りかかる。


アークは半身でかわし、回し蹴り。


ガルドが水に叩きつけられる。


フィルが氷の刃を飛ばす。


アークは身を低くし、最小限の動きで避ける。


圧倒的な技量差。


レオンは歯を食いしばる。


(速い……)


だが、読めないわけではない。


一瞬。


ほんのわずかな癖。


踏み込みの前、重心が右に流れる。


次も来る。


右から。


レオンはあえて踏み込む。


真正面。


アークの目が、わずかに細まる。


剣が交差する。


力負けする。


だが、ここだ。


レオンは剣を滑らせる。


軌道をずらす。


間合いの内側へ。


「っ!」


アークの肩に、浅く刃が入る。


血が滲む。


初めて。


アークの動きが止まる。


ほんの一瞬。


レオンは息を荒げる。


「……通った」


アークは肩を見下ろす。


表情は変わらない。


だが。


水面が、静かに揺れる。


奥――


核の方向。


アークの視線がそちらへ向く。


そして。


剣を下ろす。


「……まだだ」


低く呟く。


次の瞬間、後方へ跳躍。


回廊の闇へ溶ける。


「待て!」


レオンが追おうとする。


だが、水面が再び完全に静まる。


気配が消えた。


ガルドが立ち上がる。


「くそ……逃げやがった」


フィルが静かに言う。


「退いた理由は、負傷ではありません」


レオンは奥を見る。


より濃い青の光。


脈動が、強くなっている。


まるで。


何かを待っているように。


エリスが小さく言う。


「……急ぎましょう」


彼女の胸は、さきほどより強くざわついていた。


アークが退いた。


それは勝利ではない。


“間に合わなかった”かのような後退。


静かな回廊。


四人は再び、核の奥へと歩き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ