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静海へ

まだ夜の名残が空に残る早朝。


港は薄い霧に包まれていた。


船着き場に、小型の帆船が一隻。


討伐用に改修された頑丈な造りだ。


「風、弱いな」


ガルドが帆を見上げる。


「問題ありません。潮流は微弱ですが前進可能です」


フィルが簡潔に答える。


レオンは船に足をかけた。


木板が、ほとんど軋まない。


静かだ。


あまりにも。


エリスが港を振り返る。


数人の町人と討伐隊員が見送っている。


「お願いします!」


「必ず戻ってきてくれ!」


レオンは力強く頷いた。


「任せてくれ」


帆がゆっくりと張られる。


船が動き出す。


水面は鏡のようだ。


櫂が水を切る音だけが、小さく響く。


沖へ。


沖へ。


町が小さくなる。


やがて四人の周囲は、海と空だけになる。


青い。


澄んでいる。


だが――波がない。


「揺れないな」


ガルドが足元を見て言う。


「通常、これほどの距離なら多少のうねりが発生します」


フィルは海面を観察している。


「潮が止まりかけています」


エリスはそっと手を海に伸ばす。


指先が触れる。


「……冷たい」


「異常なほどです」


フィルが答える。


レオンは前方を見つめる。


白い影。


ゆっくりと輪郭がはっきりしていく。


海上に浮かぶ宮殿。


柱。


階段。


水に囲まれた白亜の建造物。


静海宮。


近づくほどに、音が減る。


風の音も、帆の擦れる音も、遠くなる。


ガルドが眉をひそめる。


「……耳が変だ」


確かに。


音が薄い。


世界の厚みが削られているような感覚。


エリスが小さく息を呑む。


「祈りの場所みたい……」


美しい。


だが、生き物の気配がない。


船が階段前の浅瀬に止まる。


レオンは剣に手をかける。


「行くぞ」


四人が船を降りる。


足が水に触れる。


冷たい。


階段を上る。


背後の海は、相変わらず揺れない。


静かだ。


あまりにも。


巨大な扉の前。


誰も触れていないのに、ゆっくりと開き始める。


音が、しない。


レオンは一歩踏み出す。


白い闇の中へ。


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