海の奥で見たもの
リヴィエラ臨時診療所。
白い布で仕切られた簡易ベッドに、先行隊の兵士たちが横たわっている。
命に別状はない。
だが全員、疲労の色が濃い。
「失礼します」
エリスが柔らかな声で中へ入る。
レオン、ガルド、フィルも続く。
包帯を巻いた若い兵士が、四人を見る。
「第一を攻略した……」
「レオンだ」
短く名乗る。
兵士は少しだけ安心したように息を吐く。
「中は……静かでした」
「静か?」
ガルドが眉をひそめる。
「外と同じだ。音が、吸われるみたいで……」
別の兵士が口を挟む。
「水があるのに、波音がしない。足音も、やけに響く」
フィルがメモを取る。
「音の減衰異常……」
「魔物は?」
レオンが聞く。
兵士の顔が曇る。
「水面から急に出てきた。形は魚みたいだが、目がない」
「数は?」
「多い。だが……」
言葉が止まる。
「だが?」
「何かに守られてる感じがした。奥に進むと、圧が強くなる」
ガルドが腕を組む。
「圧か」
「水が重くなるんだ。動きが鈍る」
エリスは静かに兵士の傷に手をかざす。
淡い光が広がる。
「大丈夫です。後遺症はありません」
兵士の表情が和らぐ。
「ありがとうございます……」
レオンはもう一人の兵士に向き直る。
「守護者は見たか?」
沈黙。
そして、ゆっくり頷く。
「見た」
喉を鳴らす。
「でかい。柱みたいな腕。水をまとってる」
「核の前か?」
「たぶん。あれ以上は近づけなかった」
フィルが顔を上げる。
「魔力集中点の防衛個体。第一より強化されている可能性が高いです」
兵士はレオンを見る。
「勝てるのか?」
まっすぐな問い。
レオンは迷わない。
「ああ」
即答。
「必ず壊す」
その言葉に、兵士の目に光が戻る。
ガルドが笑う。
「俺たちがいる」
フィルが淡々と付け足す。
「成功確率は七割五分です」
「またその数字かよ」
少しだけ、場が和む。
診療所を出る。
外は夕方。
海は相変わらず静かだ。
エリスが小さく言う。
「怖がっていましたね」
「当然だ」
ガルドが答える。
「未知は怖い」
レオンは白い宮殿を見つめる。
「でも、止める」
それだけ。
風は弱い。
波も小さい。
明日の朝、出航する。
静かな海の奥で待つものへ。




