静かな港町
潮の匂いが風に混じり始めた。
丘を越えた先に、海沿い都市リヴィエラが見える。
白い建物が並び、赤い屋根が陽を反射している。
「海だ!」
ガルドが声を上げる。
久しぶりに見る広い水平線。
本来なら、活気ある港町のはずだ。
レオンは目を細めた。
「……綺麗だな」
エリスも頷く。
「本当に」
だが、近づくにつれて違和感が混じる。
船は港に並んでいる。
だが、動いていない。
網は干されたまま。
波は穏やかすぎるほど穏やかだ。
風も弱い。
静かだ。
町へ入る。
人はいる。
だが、声が小さい。
活気がないわけではない。
ただ――どこか抑えられている。
「漁はどうなんだ?」
ガルドが近くの漁師に声をかける。
男は苦笑する。
「潮が動かねぇんだ。沖に出ても魚影が薄い」
「嵐が来ないだけマシだがな」
別の男が言う。
「でも、このままじゃ干上がる」
レオンは海を見る。
確かに穏やかだ。
あまりにも。
フィルはしゃがみ込み、海水を手に取る。
指先に魔力を走らせる。
目を閉じ、数秒。
「……魔力濃度、高いです」
「第一よりか?」
ガルドが聞く。
「はい。中心部はさらに強いと予測します」
エリスは町の子どもたちを見る。
遊んでいる。
笑っている。
だが、その笑い声も、どこか遠い。
レオンは港の先を見つめる。
水平線の向こう。
白く霞む影。
「あれか」
海の上に、静かに浮かぶ白い建造物。
第二ダンジョン――静海宮。
波に揺られながらも崩れない。
美しく、神殿のようだ。
「綺麗ですね……」
エリスが呟く。
フィルが静かに言う。
「美しさと危険性は両立します」
「お前の言い方怖いな」
ガルドが苦笑する。
レオンは深く息を吸う。
潮の匂い。
静かな風。
「明日の朝、出る」
短く言う。
迷いはない。
町の人々は、彼らを見て少しだけ希望の表情を浮かべる。
「英雄様だ」
「今度も頼む」
レオンは頷く。
「任せてくれ」
夕日が海を染める。
波は小さい。
ほとんど音を立てない。
静かだ。
あまりにも。




