進む理由
王都を出て三日。
海沿い都市リヴィエラへ向かう街道を、四人は進んでいた。
春の風が草原を揺らす。
馬車は使わない。
徒歩のほうが魔物への対応が早いからだ。
夕暮れ。
街道脇の小さな丘で野営を張る。
焚き火がぱちぱちと音を立てる。
「そういえばさ」
ガルドが肉をかじりながら言う。
「お前、家族の話ほとんどしねぇよな」
火の向こうで、レオンの手が止まった。
エリスが少しだけ顔を上げる。
フィルは静かに視線を向ける。
沈黙。
だが重くはない。
レオンはゆっくりと火を見つめた。
「……最初のダンジョン災害」
ぽつりと言う。
「森が暴走した日、俺の村も巻き込まれた」
風が揺れる。
「父さんは村の避難を手伝ってた。母さんは子どもたちを守ってた」
声は落ち着いている。
怒りも、震えもない。
「俺だけ、生き残った」
エリスの指がぎゅっと握られる。
「……それが、理由だ」
レオンは顔を上げる。
「ダンジョンは災害の核だって言われてる。だったら壊すしかない」
まっすぐな瞳。
迷いはない。
「同じ目に遭うやつを、これ以上出したくない」
静かな決意。
ガルドが低く言う。
「……そうか」
それ以上、余計な言葉は言わない。
フィルが焚き火を見つめながら口を開く。
「感情動機は行動の持続性を高めます。合理的です」
「そこは“つらかったな”とか言えよ」
ガルドが即座に突っ込む。
フィルは一瞬考える。
「……つらかったですね」
間。
「今のは後出しだろ」
「最適解を選びました」
レオンが思わず笑う。
エリスも小さく笑った。
空気が少し和らぐ。
エリスがそっと言う。
「でも……レオンさんが生き残ってくれて、良かったです」
真っ直ぐな言葉。
レオンは一瞬だけ驚く。
「……なんでだ?」
「だって」
エリスは微笑む。
「今、こうして守ってくれてるから」
焚き火の光が彼女の頬を照らす。
レオンは言葉に詰まり、そして照れたように視線を逸らす。
「……俺一人じゃない」
「はい。私もいます」
少しだけ、距離が近い。
ガルドが大きく伸びをする。
「よし、決まりだな」
「何がですか?」
「こいつの背中は俺が守る。お前らも守る。全員で行く」
単純で、力強い。
フィルが頷く。
「四人編成の生存率は単独の3.2倍です」
「なんでそんな具体的なんだよ」
「計算しました」
また真顔。
笑いが起きる。
焚き火は小さくなっていく。
空には星。
レオンは空を見上げる。
「……次は海だ」
「ええ」
エリスが隣に立つ。
「必ず、止めましょう」
レオンは頷いた。
彼の過去は消えない。
だが、立ち止まらない。
進む理由がある。
守るものがある。
夜は静かに更けていった。




