黒哭の森の鼓動
森は、死んだ。
数年前、何の前触れもなく。
黒い結晶が森の中心に現れた日から、
木々は枯れ、獣は狂い、人が消えた。
それは“核”と呼ばれた。
自然災害の源。
黒哭の森。
レオンは、その夜を忘れない。
母の腕の温もり。
父の背中。
扉を破る音。
「あなたは生きなさい」
最後の言葉だけが、今も耳に残っている。
夜が明けたとき、村はなかった。
あったのは、森の奥で脈打つ黒い光。
どくん。
どくん。
まるで、生きているかのように。
レオンは理解した。
あれが原因だ。
あれがある限り、同じ夜が繰り返される。
泣くより先に、決めていた。
壊す、と。
⸻
数年後。
王都は賑わっていた。
黒哭の森は依然として立ち入り禁止区域。
被害は増え続けている。
だが今日は違う。
王国が正式に発表したのだ。
ダンジョン討伐隊の結成を。
広場に人が集まる。
「ついに本格的に動くのか」
「核を壊せば終わるんだろ?」
希望の声が混ざる。
高台に立つ王国の使者が告げる。
「ダンジョンは自然災害の核である。
これを破壊すれば、災厄は永久に消える。」
ざわめきが歓声に変わる。
レオンは群衆の中にいた。
拳を握る。
終わる。
本当に終わるなら――
今度こそ。
「志願者を募る!」
その声に、迷いはなかった。
レオンは前に出る。
視線が集まる。
若い。
だが目は揺れていない。
受付の兵が名前を記す。
「レオン」
短く答える。
理由は聞かれなかった。
ここに立つ者は皆、何かを失っているからだ。
遠くで鐘が鳴る。
討伐隊、結成。
広場の歓声が空に広がる。
レオンは空を見上げる。
晴れている。
あの夜とは違う。
森の奥で、黒い鼓動が続いていることなど、
この明るい空の下では信じられないほどだった。
それでも確かに、鳴っている。
どくん。
どくん。
レオンは静かに呟いた。
「終わらせる」
王国は動き出した。
世界を救うために。




