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光の温もり

作者: 沙華やや子
掲載日:2026/02/09

ンー、あとひと仕事っと!


 ――東京の夜10時。


「静岡で子どもの頃に見た、次から次へと落ちて来る流れ星! 凄かったなーっ!」


 白い肌と長い黒髪を持つ楡香雪(にれこゆき)は23才の女性。黒目がちな瞳はよく涙をこぼす。大好きなお家映画をしていても、感動シーンで顔をグシャグシャにして泣く。


 オフィスから持ち帰った仕事のためデスクに居る、ハート柄パジャマ姿の香雪。今不意に、残業をしながら想い出した星々の記憶。


 それは……パパのところ……香雪の母と香雪が幼いころに離婚したパパと、香雪が中学生になった夏休みに再会し、約1週間父子で楽しく過ごした時のこと。


 夜7時半ごろ、「屋上に上がってみな」とパパに言われ、パパのお家の屋上に上がると満天の星だった。


 そして、ビュン! ビュン! キラキラキラ……。香雪の感覚からすると1分も経たぬうちに、だ。それもあちこちから、だ。

 流れ星! 星の舞踏会は幻想的だった。


(あんなお星様にもう一度会いたい)

 今宵は新月。月明かりがない分星がよく見えるはず。しかし香雪の暮らす都会では、街灯に溢れ、見上げた夜空はLED色に染め上げられている。


 ――トントン。


 香雪がカーテンから顔を覗かせ夜空を眺めていると、ドアをノックする音。


「は~い、ママ、どうしたの?」


 香雪はママと二人暮らしだ。

(あれ?)

 返事がない。

 タタタタ……。ドアのところへ駈けてゆく香雪。

 ドアを開ける直前、コトン! とコップでも落ちるような音がした。


「ン?!」


 ドアノブに手をかけ「ママ」とドアを開けた。


 すると、ママは居ない。それのみならず、家の廊下もない。


(う、宇宙っ?!)


 終わりを知らず広がり続ける星空だ!


 香雪は(落ちたら大変!)と、ドア付近から離れようと振り向いた。

 すると、天井と屋根がなくなっており、てのひらをパーッと広げたぐらいの煌めく黄色いお星さまが天から、次から次へと落ちては降り積もって行っている。

 そう、皆がよく落書きなどで描く5つのとんがりを持つ星型だ。

 目映いくらいの煌めき。


 香雪はお星様を踏まないように部屋のまん中辺りへ行った。深い落ち葉の中を歩くかのように。

 星は層をなして行っている。

 しゃがみこんだ香雪。こんなファンタジックな有り様なのに、不思議と怖くない。

 輝きに目を細めつつお星様を1つ、2つ、手に取ってみる。


 これまで触ったことのない形容しがたい手触り……。しいて例えるなら、ツルンッとしたクッキー? だろうか。でも砕けそうにはない。そして温かい。

 そっと愛らしい星を、積み重なっている星の上に置き、辺りを見回す。


「わぁ――――、すごーい!」


 夢見心地で香雪は叫んだ。そうして星の頑丈さを知ったから、床に出来上がっている星のベッドに寝転んでみた。


(なんて幸せな気分だろう……。誰もがお星様にお願いごとをする意味が分かるような気がする……)



 カタン、コトン……。

 コップをテーブルに置くような音が2度ほど聴こえ、香雪はハッとした。


 気づくと、香雪の視線の先にいくつもの丸っこい照明が見えた。


「楡さん、楡さん、分かりますか! 聴こえますか?」


「は、はい……。ここは……」


 手術室内、ベッドの上だ。


「もう大丈夫ですよ。頭の手術は成功です。脳挫傷を起こしていました。何が起こったか覚えていますか?」


 香雪は……思い出した。

 夜、自転車で横断歩道を渡っている時、トラックに轢かれたんだ!


「はい、交通事故に遭いました」


「そうですね。あなたのお名前は?」


「楡香雪です」


「生年月日を教えて下さい」


「はい。平成14年5月8日です」


「その通りです。 手術は成功しました」


 オペをした医師だろうか、穏やかに微笑んだ。



 香雪は……夢を見ていたのだろうか。

 魅惑の星たちとの戯れを全く忘れてしまっている香雪。


(あたし……長い夢を見ていた気がする。凄く凄く、優しい誰かの)




 

みんな誰かに守られている。あなたは誰かを守っている。

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