光の温もり
ンー、あとひと仕事っと!
――東京の夜10時。
「静岡で子どもの頃に見た、次から次へと落ちて来る流れ星! 凄かったなーっ!」
白い肌と長い黒髪を持つ楡香雪は23才の女性。黒目がちな瞳はよく涙をこぼす。大好きなお家映画をしていても、感動シーンで顔をグシャグシャにして泣く。
オフィスから持ち帰った仕事のためデスクに居る、ハート柄パジャマ姿の香雪。今不意に、残業をしながら想い出した星々の記憶。
それは……パパのところ……香雪の母と香雪が幼いころに離婚したパパと、香雪が中学生になった夏休みに再会し、約1週間父子で楽しく過ごした時のこと。
夜7時半ごろ、「屋上に上がってみな」とパパに言われ、パパのお家の屋上に上がると満天の星だった。
そして、ビュン! ビュン! キラキラキラ……。香雪の感覚からすると1分も経たぬうちに、だ。それもあちこちから、だ。
流れ星! 星の舞踏会は幻想的だった。
(あんなお星様にもう一度会いたい)
今宵は新月。月明かりがない分星がよく見えるはず。しかし香雪の暮らす都会では、街灯に溢れ、見上げた夜空はLED色に染め上げられている。
――トントン。
香雪がカーテンから顔を覗かせ夜空を眺めていると、ドアをノックする音。
「は~い、ママ、どうしたの?」
香雪はママと二人暮らしだ。
(あれ?)
返事がない。
タタタタ……。ドアのところへ駈けてゆく香雪。
ドアを開ける直前、コトン! とコップでも落ちるような音がした。
「ン?!」
ドアノブに手をかけ「ママ」とドアを開けた。
すると、ママは居ない。それのみならず、家の廊下もない。
(う、宇宙っ?!)
終わりを知らず広がり続ける星空だ!
香雪は(落ちたら大変!)と、ドア付近から離れようと振り向いた。
すると、天井と屋根がなくなっており、てのひらをパーッと広げたぐらいの煌めく黄色いお星さまが天から、次から次へと落ちては降り積もって行っている。
そう、皆がよく落書きなどで描く5つのとんがりを持つ星型だ。
目映いくらいの煌めき。
香雪はお星様を踏まないように部屋のまん中辺りへ行った。深い落ち葉の中を歩くかのように。
星は層をなして行っている。
しゃがみこんだ香雪。こんなファンタジックな有り様なのに、不思議と怖くない。
輝きに目を細めつつお星様を1つ、2つ、手に取ってみる。
これまで触ったことのない形容しがたい手触り……。しいて例えるなら、ツルンッとしたクッキー? だろうか。でも砕けそうにはない。そして温かい。
そっと愛らしい星を、積み重なっている星の上に置き、辺りを見回す。
「わぁ――――、すごーい!」
夢見心地で香雪は叫んだ。そうして星の頑丈さを知ったから、床に出来上がっている星のベッドに寝転んでみた。
(なんて幸せな気分だろう……。誰もがお星様にお願いごとをする意味が分かるような気がする……)
カタン、コトン……。
コップをテーブルに置くような音が2度ほど聴こえ、香雪はハッとした。
気づくと、香雪の視線の先にいくつもの丸っこい照明が見えた。
「楡さん、楡さん、分かりますか! 聴こえますか?」
「は、はい……。ここは……」
手術室内、ベッドの上だ。
「もう大丈夫ですよ。頭の手術は成功です。脳挫傷を起こしていました。何が起こったか覚えていますか?」
香雪は……思い出した。
夜、自転車で横断歩道を渡っている時、トラックに轢かれたんだ!
「はい、交通事故に遭いました」
「そうですね。あなたのお名前は?」
「楡香雪です」
「生年月日を教えて下さい」
「はい。平成14年5月8日です」
「その通りです。 手術は成功しました」
オペをした医師だろうか、穏やかに微笑んだ。
香雪は……夢を見ていたのだろうか。
魅惑の星たちとの戯れを全く忘れてしまっている香雪。
(あたし……長い夢を見ていた気がする。凄く凄く、優しい誰かの)
みんな誰かに守られている。あなたは誰かを守っている。




