第14話 やってくれるわ
今日も順調にオーガを狩る。
「午前中だけで九匹も狩れたわね」
「今日は順調ですね」
「でも、なーんか変な感じなのよねぇ」
「変ですか?」
「うん、空気が違う感じ?」
「みんな! 警戒して!」
ルーイが突然叫んだ。
視線の先から何かがこちらに向かって来ているのがわかった。
草をかき分ける大きな音がする。
そして現れたのが……
え、人?
冒険者風の男だ。
こちらを見つけると、ニヤリと笑って何かを投げつけてきた。
丸い物体が転がってくる。
「頭!」
悲鳴に近い声が出た。
こちらに向かって投げられたモノ。
それは、血を滴らせる子供の頭だった。
あまりの出来事に全員の動きが止まる。
その間に男は逃げていった。
と、同時に草を掻き分ける音が大きくなる。
「やられた! トレーラーよ!」
トレーラーはモンスターを引きつけて、それを他人に押し付ける行為だ。
押し付けられた方は大量のモンスターを相手にしなければならず、例え偶然そうなったとしても非難される行為だ。
まして、故意にトレーラーをを行った場合、報復されても文句は言えない。
事実上の殺人行為だからだ。
林の藪から現れたオーガ達は血に酔っていた。
オーガの別名は『人喰い鬼』
その名の通り、人の血が好物でその匂いを嗅ぐと興奮して好戦的になる。
その状態は『血に酔う』と表現されている。
今のオーガ達の様子がそれだ。
「ライトニングボルト! リュウ! これ増やして!」
アイラが問答無用で先制の一撃を放つと同時に僕へとスクロールを投げてよこした。
「は、はい!」
「フォーメーションZよ」
張り詰めた声でルーイが指示を出す。
「……Z」
いくつか決めている指示の中、これだけは特殊だ。
まだ、このパーティとして日が浅い時期に言われた言葉を思い出す。
「いくつかフォーメーション覚えてもらうけど、最初にこれを覚えておいて。
フォーメーションZはね、どうにも出来ない最後だから私を置いて逃げなさいって意味だから、私がこれ言ったら何も考えずに逃げなさい」
「出来る訳無いじゃない!」
アイラの叫び声で、回想から現実に引き戻される。
そのままMP効率を無視して、強力な魔法を次々連発する。
ヒルダは無言でオーガの群れに突貫する。
どうして良いのか分からなくなり、呆然とする。
ヒルダ一人では抑えきれず、オーガ達は休憩していた広場に続々と進入してくる。
「リュウ! スクロール使って!」
「は、はい!」
慌てて近くのオーガに向かってスクロールを使う。
酸の雨が周囲に降り注いでオーガが苦しんで転がった。
「ダメ! もっと奥!」
「は、はい」
おびただしい数のオーガの死体が転がった。
それでもヒルダもルーイもまだ立っている。
アイラもMPポーションをがぶ飲みしながら魔法を撃ってる。
帰れる!
そう思った瞬間、もの凄い殺気に身体が硬直した。
「……オーガロード」
アイラがボソッと呟いた。
「だから、フォーメーションZって言ったじゃない」
ルーイが諦め顔でそういう。
「どちらにしても今更遅い、私が隙を作る!」
ヒルダが向かっていった。
反対方向にルーイも走り出す。
アイラが目を瞑り詠唱を唱え出した。
特別な呪文には精神集中と詠唱が必要だと言っていたのを思い出す。
血みどろの戦いだった、ヒルダの片腕が吹き飛ぶ、その隙をついてルーイが脇腹に剣を立てるがまだ死なない。
アイラが詠唱を完成した。
「ヘル・フレイヤ!」
地獄の業火がオーガロードを襲った。
「まだか!」
ルーイがもう一度背中から剣を突き刺そうとした時、オーガロードの振り回した腕がルーイの顔にクリーンヒットした。
「ルゥゥイィィ!」
ヒルダが叫びながら、残った片手でトドメの一撃の剣を相手の胸に突き刺した。
だが、即死に至らずヒルダの脳天にオーガロードの腕が振り下ろされた。
時間があればオーガロードは死ぬかもしれない。
それまでの時間生き残ることが出来れば……だが。
「MPポーション切れたわぁ、あんたらぁ強くなって仇うってね」
明るくウィンクすると、アイラがオーガロードに走り出す
「アイラさぁぁぁん!」
アイラが短く詠唱をすると閃光が走った。
自爆魔法だ。
轟音と共にアイラは砕け散り、その威力でオーガロードがゆっくりと倒れた。
「あぁぁぁぁぁ!」
何も出来ない自分が生き残った。
許せない、何よりも誰よりも、自分が許せない。
考えなく、ただ流されるだけの自分が許せない。
弱く何も守れない自分が許せない。
復讐も出来ない自分が許せない。
そして、何よりも、こんな事を平気でやってくるオコジョー達が許せない!
許せない! 許せない! 許せない!
「俺は……強く……ならなきゃ……」
アイラの最後の言葉が耳から離れない。
『強くなって仇とってね』
「強くなって……あいつらを……」
オーガロードのドングリを取り出し、ポケットで増やす。
そしてそれを俺はおもむろに食べた。
この世界での使うという意味じゃない、文字通り喰らったのだ。
ガリッ、ガリッと硬いガラス質の物が砕ける音がする。
口の中が切れて血が噴き出す。
ヒルダの言葉を思い出していた。
「強いモンスターのドングリを本当に食べるとな、突然変異のように特殊なクラスやスキルを獲得出来るようになるらしい、あんなもん食えたもんじゃ無いけどな!」
「ヒルダさん食おうとしたんですか……?」
「まぁな、とてもじゃ無いけど食えなかったけどな!」
ドングリを食べ切った時、身体が熱くなりだした。
もう一つ、もう一つと三個のオーガロードのドングリを食べきった。
急激に何かが入ってくる感触がする。
それが俺には痛みのように感じた。
「リュウ! リュウ!」
身体がふらつき、意識が遠くなってく俺が目にしたものはマイカの泣き顔だった。




