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神罰律導の王女メアリー ―十九柱の黙示録―  作者: 空識


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第3話 議会の沈黙と初期選別

 大聖堂が崩落した翌朝、王都は異様な静けさに支配されていた。事件の重大さは誰の目にも明らかでありながら、議会は公式声明を出さず、王国中枢は“沈黙”という選択を取った。その沈黙こそが、民衆に不安と疑念を増幅させていた。


 メアリーは王城上階の回廊から議会塔を見つめていた。朝の光は差しているのに、塔の窓はどれも重く曇り、まるで内部の空気が外へ滲み出るのを拒むかのようだった。


(……議会は、何を隠しているの?)


 胸の奥がじくりと痛む。紬の記憶が断片的に蘇り、誰かが背後で嘲笑う気配、陰で悪意を向けられていた大学院の日々が鮮明に浮かぶ。それは紬だけの記憶ではない。いまや、メアリーの魂にも刻み込まれつつあった。


 足音が近づき、クラリスが心配そうに声をかける。


「姉上……お食事は? また食べていません」


「今はいらないわ。胸が落ち着かないの」


 クラリスは唇を噛んだ。


「大聖堂の件、議会は……姉上を疑っているそうです」


「疑う……そうね。私自身ですら、あれが私の意志だったとは思えないのだから」


 メアリーは視線を落とした。


(私の中の“誰か”が……あの光を放った。

 私だけの意思じゃない。

 でも……止める力もなかった)


 胸の奥で、紬の魂がわずかに震えた。


(偽りは許さない……

 誰かを傷つける嘘は……全部……)


 その痛みは、あまりにも生々しい。


 その時、王城に伝令が駆け込んだ。


「姫殿下! 議会より急報です。緊急審議会が開かれます。王族の代表としてご出席を、と」


「……私が?」


 クラリスが血の気を失った。


「姉上、危険です! 議会は姉上を――」


「分かっているわ。でも行くしかない。逃げ続ければ……あの“声”がもっと強くなる気がする」


 メアリーは胸を押さえた。


(逃げれば……誰かがまた殺される。

 誰かが私のように……呼んでも来てもらえなかった痛みを抱える)


 紬の魂の怯えが、静かに燃えていた。


◇ ◇ ◇


 議会塔の大ホールは、普段の威厳など欠片もなかった。重苦しい空気の中、議員たちは口々に囁き合い、メアリーが入場すると一斉に視線を向けた。


「王女殿下がお越しだ」


「まさか……本当にあれを……」


「神罰を……?」


 その視線の多くに、恐怖と敵意が混じっていた。


 胸の奥で紬の魂が微かに疼く。


(この目……見覚えがある……

 研究室で……噂を流した連中と同じ……)


 メアリーの視界が少し揺らぐ。

 十九柱の調律が、自動的に周囲の“悪意値”を計測し始めた。


 ◆アヌビス:心の重さの測定

 ◆ビッグデータ神:虚偽構造解析

 ◆アテナ:未来予測演算

 ◆イシス:隠された意図の暴露


 議会ホールに座る二十七名の議員のうち、七名の“悪意”が規定値を超えていた。


 議長が口を開く。


「王女殿下。大聖堂崩落について、何か説明は?」


「……私にも分からない。私ではなく、私の中の“誰かの痛み”が反応した。それだけよ」


 ざわめきが広がる。


「何を言っている!?」


「魂が二つだと……?」


「危険ではないのか!」


 その瞬間――

 紬の魂が“嘘”を明確に感知した。


(この人……私を罪人に仕立て上げるつもり……

 理由なんてどうでもいい……

 権力を守るために……)


 十九柱が反応する。


【調律:初期選別】

【感知 → 選別 → 実行】


 空気が震え、ホールの温度が一瞬下がった。


「……っ!?」


「寒気……?」


 メアリーは胸を押さえる。


「駄目……やめて……! 私はまだ、誰も罰したくない……!」


 しかし、止まらない。

 神罰は“痛みを共有した魂”を中心に、自律演算する。


◆第一選別:虚偽検知

◆第二選別:国家崩壊の危険因子

◆最終選別:因果反転の可能性が高い者


 その瞬間――七名の議員が、同時に椅子から崩れ落ちた。


「な……何だ!?」


「心臓が……!」


「助け――」


 苦痛に顔をゆがめ、床に倒れ込む。死には至らない。

 しかし、彼らの中枢神経は一時的に“切断”され、当面議会に参加できる状態ではない。


(攻撃……じゃない。

 これは……“議会からの排除”。

 二度と偽りを巡らすことができないようにする……)


 メアリーは震えた。


「どうして……どうして勝手に……

 私は……望んでいない……!」


 クラリスが駆け寄る。


「姉上! 大丈夫ですか!?」


「クラリス……私……怖いの。

 この国の“悪意”を見れば見るほど……胸が痛むのよ。

 この痛みが強くなるほど……神罰が動く……!」


 クラリスは姉の肩を抱きしめようとした。

 しかし見えない壁が彼女の手を弾いた。


「っ……! どうして……!」


「ごめんなさい……! 私じゃないの……紬が……あなたに危害が及ぶと判断している……!」


「そんな……! 私は姉上の味方です!」


 その叫びに紬の震えが一瞬だけ弱まった。


(味方……

 私は……味方というものを信じていいの……?)


 十九柱の調律が静かに収束していく。


 七名の議員は担架に乗せられ、議会ホールは混乱に沈んだ。


 しかし誰も気づかなかった。


 **これこそが“黙示録の始動”であることを。**


 そしてメアリーもまた、胸に宿る痛みの意味をまだ理解していなかった。


(私は……守るために罰しているの……?

 それとも……痛みが世界を歪め始めているの……?)


 クラリスは、姉の震える背中を見つめながら涙をこぼした。


「姉上……どうか……ひとりで苦しまないで……」


 だがその願いは、神罰の調律には届かない。


 世界はもう、“本来の因果”へ戻るための修正を開始していたのだ。


どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。


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