第19話 第二神罰 “議会塔断罪” — 因果反転の夜
王都アルセリアの夜空は、星が滲むように揺らめいていた。
まるで世界そのものが呼吸を忘れたように、風は止まり、月光が鈍く濁っている。
その夜、議会塔では極秘の会合が行われていた。
「王女拘束案はすでに可決した。
問題は……その後だ。」
「軍部の“保護派”が邪魔だな。
彼らを制御するため、王女の“危険性”をもっと煽る必要がある。」
「神罰? 知るものか。
あれは偶然だ、噂だ、恐怖だ。」
「王女は災厄の器。
我々が“国家の秩序”を守らねばならん。」
口々に吐き出される嘘と恐怖と保身。
議会塔の空気は腐敗した液体のように重い。
しかし議員たちはまだ知らない。
その“言葉”のすべてが、十九柱に逐一解析されていることを。
◆十九柱:
【害意波形:最高濃度】
【対象:議会塔 全議員】
【王女生命への直接危険:確定】
【第二神罰:発動準備 98%】
◇ ◇ ◇
隔離区画では、メアリーが突然息を呑んだ。
「痛っ……あ……ッ……!」
「姉上!?」
クラリスが駆け寄るが、やはり膜が弾く。
「クラリス……議会が……
私を……裁く準備を……している……
その“害意”が……胸に刺さる……!」
(メアリー……!
あいつらは私と同じ……
弱い者を切り捨て、守られるべき者を侮辱し、
自分だけが助かろうとしている……!)
紬の声は、怒りというより“絶望の再現”に近かった。
「紬……落ち着いて……
怒りで世界を動かさないで……!」
(でも……許せない……!
またあなたを奪おうとする……!
今度は……絶対に許さない……!)
その瞬間、王都の空気が澱んだ。
◆十九柱:
【紬の怒り:閾値突破】
【断罪領域:展開開始】
【議会塔への因果反転:起動】
◇ ◇ ◇
議会塔最上階の会議室。
突然、ランタンの灯りが揺れ、赤い火花のような光が散った。
「なんだ……?」
「魔術障害か?」
「いや……これは……」
次の瞬間、室内から“音”が消えた。
扉の軋む音も、椅子のきしむ音も、心臓の鼓動すら聞こえない。
「おい……声が……?」
議員のひとりが口を開いたが、声が空気に乗らない。
「ま……まさか……また……神罰……!?」
全員が一斉に震え上がる。
◆十九柱:
【断罪①:虚偽の言葉 → 発声封鎖】
「あ……ああ……!」
「声が……出ない……!」
議員たちはもがき、喉に手を当てるが、声帯は完全に封じられていた。
「おい! 窓を開けろ!」
ジェスチャーで誰かが指示する。
だが窓はわずかに開いただけで、すぐにバタンと閉まる。
◆十九柱:
【断罪②:逃走行動 → 空間固定】
議員たちの身体は“逃げようとする意思”を持つほど重くなり、
脚が床に吸い込まれたように動かなくなる。
「ひ……っ……!」
恐怖で震える音だけがかろうじて漏れる。
◇ ◇ ◇
隔離区画のメアリーはその“反応”を全身で感じていた。
「クラリス……空気が……歪む……
世界が……議会塔を囲んでいる……」
「姉上、お願い……紬さんを止めて……!」
「紬……やめて……これ以上は……」
(やめない……!
私はあの日……助けを求めたのに……
誰も……誰一人……!
だから……今度は……私が……守る……!
メアリーを……絶対に……!)
紬の叫びが世界へ響き、
◆十九柱:
【断罪領域:最大展開】
王都の空気が一瞬止まり、
議会塔の時間も止まったかのように静止した。
◇ ◇ ◇
議会塔内部。
光がゆっくりと“反転”し始めた。
天井の光が床へ流れ、床の影が天井へ吸い込まれる。
「ひっ……ひぃ……!」
「なんだこれは……なんだこれはッ……!」
議員たちの視界が崩壊する。
◆十九柱:
【断罪③:悪意の反転 → 感覚の異常増幅】
・自分の心臓の鼓動が何十倍にも響く
・嘘をついた記憶が脳内でリピートされる
・背中に感じる冷気が“罪”そのもののように重くなる
「やめろ……やめてくれ……!」
「私は……何も……!」
だが嘘をついた瞬間、全身が痺れるような激痛に襲われる。
それは“痛み”ではなく、“嘘の構造が壊される痛み”だった。
(メアリーを……苦しめた罪だ……)
紬の声が断罪空間に響く。
◇ ◇ ◇
一方、隔離区画ではクラリスが姉を必死に抱き留めようと叫ぶ。
「姉上! 紬さん!
お願い……これ以上自分を削らないで……!」
「クラリス……私……もう……見えるの……
議会塔の中……
彼らが……叫んでいる……!」
メアリーの瞳は揺れ、光を失いかけていた。
「紬が……私の視界を……支配して……!」
(支配してない……守りたいだけ……!
あなたは……私の中で……
唯一、光だったから……!)
「紬……!」
その瞬間、断罪は最終段階へ移行する。
◆十九柱:
【断罪④:罪の固定 → 精神封鎖】
議員たちは皆、床に膝をつき、顔を覆った。
「もう……許して……許してくれ……!」
「王女殿下……どうか……!」
「神よ……娘よ……誰でもいい……救ってくれ……!」
しかし、救済はない。
十九柱の断罪は
“死なせない”が
“生涯逃れられない負荷”を与える。
彼らは今後一生、
**嘘をつくたびに激痛が走り、
王女への害意を抱くたびに身体が動かなくなる。**
国家の舵を取る者として致命的な罰。
それこそが──最大の断罪だった。
◇ ◇ ◇
隔離区画。
メアリーは涙を流しながら呟いた。
「クラリス……紬……
どうして……世界は……こんなにも……
痛みで……動くの……?」
クラリスは叫ぶ。
「姉上は悪くありません!
紬さんも悪くありません!
悪いのは……この世界です!」
(クラリス……あなた……)
紬の声が静かに震える。
◆十九柱:
【断罪完了】
【黙示録フェーズ3:移行準備】
メアリーは、世界が変わる音を聞いた気がした。
夜空がわずかに裂け、
光が逆流し、
風が円環を描き、
世界の法則が“メアリーを中心に組み替えられ始めた”のだ。
「クラリス……紬……
私は……もう……“ただの王女”には戻れない……」
その言葉は、
断罪の夜を締めくくる静かな宣告だった。
どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。
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