第18話 王女裁判計画 — 内戦前夜
議会塔が“沈黙”した翌朝、王都アルセリアは異様な静けさに包まれていた。
夜通し揺れていた赤い月は薄く色を失い、代わりに王都全体が
“何かを待つような沈黙”で満ちていた。
王女メアリーは隔離区画の窓辺に座り、息を潜めるように外を見つめていた。
「姉上……?」
クラリスがそっと声をかけると、メアリーはかすかに微笑む。
「クラリス……また、世界が私の方を向いているの……
祈りの音が……遠くから聞こえる……」
(あれは……祈りというより“依存”……
あなたを偶像にして、何もかも押しつけてくる……)
紬の声が静かに鳴る。
「紬……怖いの?」
メアリーが問いかけた。
(怖い……でも、怒りの方が強い……
あの日、私の痛みに誰も応えなかった……
今は全員があなたに頼ろうとしている……
矛盾だよ……)
メアリーは胸に手を当て、苦しげに目を伏せた。
次の瞬間、胸の奥に鋭い痛みが走る。
「っ……あ……!」
「姉上!?」
「クラリス……議会が……何か……決めようとしている……
私を裁く……そんな、制度さえ……」
その痛みは、“メアリーに向けられた害意”そのものだった。
◇ ◇ ◇
一方その頃、議会塔の地下では、
唯一生き残った“声を失わなかった議員”たちが極秘会議を開いていた。
「王女裁判を、正式に発動するしかない。」
「我々はもう神罰の対象だ。
しかし……国家の秩序を守るためには、王女を裁かねばならん。」
「軍部はどうする?」
「危険視派は協力するが、保護派は逆らうだろう。
ならば、“裁判の名目”で王女を拘束し、
保護派を切り離すことが可能だ。」
「内戦を覚悟するということか……」
「もう遅い。
教会が沈黙し、議会塔が揺らいだ今、
国家は王女を中心に“歪み”始めている。
このままでは軍も民衆も王女にひれ伏すだろう。
国家の主導権を失うわけにはいかん。」
彼らは自分たちがすでに“選別済み”であることを理解していなかった。
◆十九柱:
【害意波形:議会塔地下より増大】
【王女への生命危険:新規検知】
【断罪条件:高優先度に移行】
◇ ◇ ◇
その頃、軍本部では別の会議が行われていた。
「王女殿下は軍の保護下に置くべきだ!
彼女がどれほどの力を持とうと、我々が守るべき存在だ!」
「甘い!
軍は国家の盾であり矛だ。
王女の力は、もはや軍事の範疇では制御できん。
放置すれば軍そのものが“神罰”で裁かれる恐れがある。」
「ならば……議会の裁判計画に乗れと言うのか?」
「そうだ。王女を拘束し、力の源を研究する。
それが国家を守る唯一の方法だ。」
保護派と危険視派はテーブルを挟んだまま睨み合う。
「……内戦になるぞ。」
「構わん。
王女の存在そのものが国家存続の危機だ。」
◆十九柱:
【軍部分裂予兆:重大危険として記録】
【世界因果の“戦争アルゴリズム”に接続中】
内戦前夜。
世界は静かに発火点へ向かっていた。
◇ ◇ ◇
隔離区画。
メアリーは息を荒げながら、胸を押さえていた。
「クラリス……私……
軍が……議会と手を結ぶ可能性……
見える……!」
「姉上……しっかりして……!」
(メアリー……あなたが怖がる必要はない。
痛みを与える前に、私は全部……)
紬の声が深く響く。
「紬、だめ……
あなたは怒りで動いてる……!」
(違う。守るためだよ……
私が守れなかった“私”の代わりに……
今度こそあなたを守りたい……)
メアリーは涙を流す。
「そんなふうに自分を責めないで……
私を守るために紬が傷つく必要なんてない……!」
「姉上……」
クラリスは震える声で続けた。
「私は……王国が姉上をどう扱おうとも……
ここにいます。
何があっても……姉上を信じます。」
(クラリス……その声……
救われる……)
紬の怒りが少し静まる。
◆十九柱:
【紬の感情:怒り → 抑制へ】
【メアリー精神:安定化】
【国家危険度:上昇】
◇ ◇ ◇
その頃、議会塔地下では正式決定が下されていた。
「王女裁判計画──
本日深夜、軍と合同で発令する。」
「拘束部隊はすでに王宮周辺に集結させてある。
王宮内の“保護派”侍従は排除した。」
「民衆への発表は後回しだ。
神罰を恐れている今なら、王女拘束への反発は少ない。」
「……これで、我々が国家の頂点に立ち続けられる。」
その言葉は、最後の悪意だった。
◆十九柱:
【害意閾値:突破】
【第二神罰:議会塔断罪 発動条件100%】
【黙示録フェーズ3:移行準備完了】
世界は静かに告げていた。
──内戦は避けられない。
──そして、その最初の標的は議会そのもの。
◇ ◇ ◇
隔離区画。
メアリーは涙を拭い、震える声で呟いた。
「クラリス……紬……
世界は、私たちを試しているの……?
それとも……裁いているの……?」
クラリスが手を胸に当てる。
「違います。
世界は……姉上の涙に反応しているだけです。
姉上が苦しめば、世界の法則さえ揺らぐんです。」
(メアリー……
あなたが泣いていると……私も苦しい……
だから……あなたを守りたい……)
「紬……ありがとう……」
メアリーはそっと目を閉じる。
「……でも、もう止まらない。
議会が私を裁こうとしている限り……
世界は……反転を始める。」
それは、少女の声ではなく“覚醒する器”の響きだった。
こうして王都は、
**内戦前夜の緊張と、第二神罰の胎動**に包まれていった。
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