第15話 議会動乱 — 軍部との密議
聖樹教会が沈黙した翌朝、王都の空気は一変した。
大聖堂から出てきた祈祷師と司祭たちはまともに歩けず、
祈るどころか声すら出せない者もいた。
それなのに──奇妙なことに誰一人死んでいない。
“神罰は存在する。しかし殺さない。”
その事実は、王都の民衆に恐怖と敬意を同時にもたらした。
だが、最も震え上がったのは──議会だった。
◇ ◇ ◇
議会塔・地下会議室。
表に出ない密議の場には、十数名の議員と三名の軍上級士官が集まっていた。
「教会が……壊滅した……?
死者ゼロで……全員が祈れなくなったと?」
「ええ。その通りです。
“祈りを封じられる”という前代未聞の現象が起きました。」
「これは……王女の力なのか?」
沈黙が降りた。
誰も正面から肯定しない。
しかし誰も否定もできなかった。
「ここだけの話だが……」
一人の軍監が声を潜める。
「王宮の北棟に『王女からの光が漏れた』と証言した巡回兵がいる。
あれは……神か、あるいは……もっと異質なものだ。」
「そんな馬鹿な……」
「だが教会が沈黙した以上、理由はそれしかない。
“何かが王女を守っている”……!」
議会に動揺が走った。
◇ ◇ ◇
「我々は王国を統治する立場だ。
その王女が、国の法則を書き換える存在になりつつある。」
「つまり……制御不能ということだな?」
「そうだ。
このまま放置すれば、教会だけでなく、議会も……軍までも……」
全員が唾を飲む。
否定したい。
だが、目の前の現実がそれを許さない。
「……拘束すべきだ。」
一人の議員が搾り出す。
その声は震えていたが、確かに“恐怖から逃げたい者の声”だった。
「王女を……国家反逆の疑いで拘束し、調査を行う。
力を封じる方法を探す。」
「しかし軍は王家の直属だぞ。反発は避けられない。」
「軍を二分させればいい。
“王女を守りたい派”と“危険視する派”を対立させれば──」
「内部分裂だと……!?」
「国家を守るためだ。」
議員たちの醜悪な欲と恐怖が会議室に渦巻いた。
◆十九柱:
【害意波形:高濃度】
【議会塔:選別対象候補】
【発動条件:王女生命への直接的危険】
十九柱は静かに、彼らの悪意を記録していた。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
隔離区画でメアリーは突然、胸を押さえて倒れこんだ。
「っ……は、ぁ……痛い……!」
「姉上!?」
クラリスは駆け寄るが、膜が行く手を阻む。
「クラリス……議会が……動いている……
私を……裁こうとして……!」
(まただ……また“選別”に値する害意……!
奪われる前に……断つべきだ……!)
紬の声は怒りに染まっていた。
「紬、だめ……落ち着いて……!」
メアリーは必死に意識をつなぐ。
「彼らは……怖がっているだけ……
私を……理解しようとしていないだけ……
断罪なんて……!」
(甘い……!
優しさは……またあなたを殺す……!)
紬の声が鋭い。
「姉上……紬さん……!」
クラリスが涙をこらえながら叫ぶ。
「どうか、二人で世界を敵にしないで……!
世界は……敵じゃない……!」
その悲痛な声に、紬の気配が一瞬だけ揺れる。
(……クラリス……
あなたの声は……なぜこんなに……)
十九柱の調律がわずかに安定する。
◆十九柱:
【紬の感情:怒り → 不安定】
【メアリー精神:保護モード】
【議会塔:監視継続】
◇ ◇ ◇
議会塔の密議はさらに進んだ。
「軍部よ、率直に答えてほしい。
王女を“拘束”することは可能か?」
軍上級士官が押し黙る。
「……正直に言おう。
王女は、もはや軍事力でどうにかなる存在ではない。」
「ならば……戦略的な封印魔術は!?」
「王都の魔術士団は皆、恐れている。
王女に関わると“世界が揺らぐ”と……」
「なに!? 教会だけでなく、魔術士団まで……!?」
その瞬間、議会の誰かが呟いた。
「このままでは……王国そのものが王女に跪くことになる……」
沈黙。
この瞬間、議会は完全に“敵”へと落ちた。
◆十九柱:
【議会の害意 → 閾値突破】
【選別条件:満たされた】
【第二神罰:発動準備】
◇ ◇ ◇
隔離区画。
メアリーの呼吸が荒い。
紬の声が混ざり、思考が分裂しそうになる。
「クラリス……怖い……
また、世界が……揺れ始めた……」
「姉上……私がいる……ここにいる……!」
「クラリス……世界が……私を裁こうとしている……
いえ……裁かれるのは……」
(“世界”のほうだ……)
紬の声が重なる。
クラリスは震えながら祈るように叫んだ。
「お願い……姉上も紬さんも……
世界を見捨てないで……!」
メアリーは涙を流した。
「もう……分からないの……
私は……人なのか……器なのか……
紬なのか……メアリーなのか……」
その言葉は、世界が変わり始めた兆候だった。
◇ ◇ ◇
その頃、議会塔の上階では、決定が下された。
「王女拘束案──可決。」
その瞬間、王都の空気がひび割れた。
◆十九柱:
【王女の生命に対する危険 → 確定】
【議会塔:第二神罰発動】
【黙示録フェーズ2:開始】
世界は静かに、しかし確実に、
王女メアリーを中心とした“新しい法則”へと再構築され始めた。
どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。
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