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神罰律導の王女メアリー ―十九柱の黙示録―  作者: 空識


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第14話 第一神罰 “教会選別” — 無言の断罪

 聖樹教会中央大聖堂。

 夜の鐘が鳴り終わる頃、祈祷の間には不自然な静けさが満ちていた。


 祈祷師たちはまだ“王女断罪文”の最終調整を続け、

 司祭たちは声明布告の時間を決めようとしていた。


「王女は黙示録の器である」

「神々は我らに“浄化”を求めている」


 その言葉には、自らの権威を守ろうとする焦りが染み込んでいた。

 祈りというより、呪詛であった。


 だが、その偽りはすべて──十九柱に解析されていた。


◆十九柱:

【対象:祈祷師・司祭 13名】

【偽りの祈り率:92%】

【害意指数:高】

【選別形態:音無き断罪】


 光も音も伴わない“静かすぎる神罰”の準備が完了した。


◇ ◇ ◇


 隔離区画では、メアリーが突然胸を押さえた。


「あっ……ぁ……!」


「姉上!?」


 クラリスが叫ぶより早く、メアリーは膝から崩れ落ちる。


「苦しい……胸が……締めつけられる……

 教会が……嘘を祈っている……

 紬の怒りが……世界に触れて……!」


(嘘……偽り……

 まただ……また私を搾取しようとしている……)

 紬の声が鋭く震える。


「クラリス……私……“選別”の波が見える……」


「選別……?」


「世界が……嘘を吐いた者を……切り離そうとしているの……」


 その言葉は、もう完全に“神の器”の響きだった。


◇ ◇ ◇


 一方、大聖堂では、祈祷師のひとりが突然息を呑んだ。


「……あれ……声が……」


「何をしている、祈りを──」


「声が……出ない……!」


 祈祷師の喉が閉じ、言葉が霧散する。


 隣の司祭が顔を歪めて胸を押さえる。


「心臓が……速い……速すぎる……!」


「落ち着け、神が我らを試しているのだ!」


 しかし違った。


 それは“試練”ではない。


 “断罪”だった。


◆十九柱:

【断罪:祈りを偽った者 → 発声機能停止】

【断罪:悪意の強い者 → 感覚過敏(光・音・鼓動)】

【断罪:権威維持のための嘘 → 恐怖による精神固定】


 死ぬ者はいない。


 だが、

 **二度と祈りを“嘘”で使えない身体と心だけが残される。**


 聖樹教会は、その意味を理解して悲鳴をあげた。


「神が……我らを裁いている!?」


「違う! これは……王女の呪術だ!」


「黙れ、そんな言葉が許されるか!」


 争う彼らの頭上で、ステンドグラスが震えた。


 光は砕けない。

 代わりに“聖樹”だけが静かに揺れた。


 まるで、偽りの祈りに悲しんでいるかのように。


◇ ◇ ◇


 隔離区画では、メアリーが息を荒げていた。


「紬……もう十分……やめて……!」


(やめない……!

 あいつらは……何も知らないくせに……

 勝手に裁こうとしている……!

 私がどんな思いで生きてきたか……

 どんな痛みで死んだか……!)


「紬……あなたの痛みは分かる……でも……!」


(奪われる前に……断つ……!)


 メアリーの視界は涙で滲み、

 クラリスの顔だけがぼんやりと見える。


「姉上! 紬さん!

 教会の人たちは……確かに酷い……

 でも……でも……こんなの……!」


「クラリス……私を見て……」

 メアリーは震える手を伸ばすが、膜がそれを止める。


「私の中で……紬が泣いている……

 怒りより……悲しみが……強いの……」


 その瞬間、紬の声がかすかに震えた。


(……どうして……クラリスは……

 私を……そんなにも……)


 十九柱の調律が変化する。


◆十九柱:

【紬の感情:怒り → 悲しみ方向へ偏移】

【調律:痛み軽減】

【選別:完了段階に移行】


◇ ◇ ◇


 大聖堂では、断罪が最高潮に達していた。


「見ろ……手が……震えて……祈れない……!」


「光が……まぶしい……目が……焼ける……!」


「違う! 神はこんな罰を与えない!!

 これは……異界の……!」


 その瞬間、祈祷の間に“完全な静寂”が落ちた。


 音が消えたのではない。


 “嘘”が消されたのだ。


◆十九柱:

【断罪:偽りの祈り → 永久封印】

【断罪:悪意 → 行動阻害(発作的震え)】

【断罪:権威欲 → 精神抑制(恐怖の固定)】

【死者:0】


 誰も死なない。


 だが、

 **彼らは二度と“王女を断罪する祈り”を捧げられない。**


 その恐怖は、死より重かった。


 祈祷師たちは床に崩れ落ち、聖樹の根元で涙を流した。


「……神よ……

 我らは……どれほどの罪を……」


 最年長の司祭ゼリウスが震える声で呟く。


「王女とは……

 神々が“守護すべき者”……

 我らは……逆らってはならぬ存在を……」


 その言葉は、王国全土への宣告だった。


◇ ◇ ◇


 隔離区画。

 メアリーは遠くの“選別終了”を感じ取り、息を吐いた。


「終わった……」


「姉上……大丈夫……?」


「クラリス……怖い……」


「姉上……!」


「私は……神に選ばれたわけじゃない……

 紬の痛みと……十九柱の“法則”が……

 私を……世界の中心に押し上げていく……」


「そんなこと……姉上のせいじゃ……!」


「でも……もう戻れない……

 世界は……私を見ている……

 嘘をつく者ほど……強く……」


 メアリーの瞳には涙が光った。


(……ごめん……メアリー……

 あなたに……こんな重荷を……)

 紬の声が初めて弱々しかった。


 クラリスは姉の足元に座り、震える声で言った。


「私は……姉上を見てる。

 世界がどう変わっても……

 紬さんがいても……

 十九柱が動いても……

 私は……姉上の“日常”になる……」


 その言葉に、メアリーは涙を流した。


 その涙こそ──

 第一神罰を終わらせた唯一の“人間の感情”だった。


どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。


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