第13話 偽りの祈り — 聖樹教会の暴走
王宮北棟での隔離が始まって四日目。
王都のもう一つの権力基盤──聖樹教会が、不穏な動きを見せていた。
聖樹教会中央大聖堂の奥。
年代物のステンドグラスが月光を受けて淡く輝く“祈祷の間”には、十名の祈祷師と三名の司祭が集まっていた。
「議会は沈黙を続けている。軍も動かない。
ならば我ら聖樹教会が、この国の“真の秩序”を示すべきだ。」
最年長の司祭、ゼリウスが低い声で言う。
「王女メアリー……あの娘は危険だ。
神々ではなく、“異界の者”に選ばれた災厄の器だ。」
「民は怯えている。我らが声明を出せば、王都の混乱を静められる。」
「声明に“断罪文”を付けるべきだ。
王女を黙示録の引き金として糾弾する。」
祈祷師の一人が声を潜めた。
「ですが……あの光は……神罰そのものでは……?」
「違う。あれは『悪しき力』だ。
教会の権威を脅かすものだ。」
その瞬間、祈祷の間の空気がわずかに歪んだ。
十九柱の“遠隔感知”が動いたのだ。
◆十九柱:
【偽りの祈りの構造を感知】
【悪意波形:教会内部で増幅】
【選別フラグ:準備中】
しかし祈祷師たちは気づかない。
◇ ◇ ◇
隔離区画のメアリーは、突然胸を押さえた。
「っ……はぁ……!」
「姉上!?」
「クラリス……胸が……苦しい……
どこかで……“強い偽り”が……生まれている……」
(これは……敵意……嘘……
また私を貶めようとしている……許さない……)
紬の声が怒りで震える。
「紬……落ち着いて……!」
(だめ……! また奪われる……また……!)
メアリーの視界が一瞬白く染まった。
「姉上、しっかりしてください……!」
クラリスは泣きそうな声で呼びかけるが、拒絶膜がまた彼女を弾く。
「クラリス……触れないで……っ……!
紬が……あなたを傷つけたくないの……!」
◇ ◇ ◇
一方その頃、聖樹教会では“儀式”が開始されていた。
巨大な聖樹の根元に座した祈祷師たちは、
王女を“闇の器”と断じる祈りを捧げ始める。
「──聖樹よ、我らに真を示せ。
偽りの光を纏う者を、浄化せよ。」
しかしその祈りには、明確な“呪詛構造”が混ざっていた。
◆十九柱:
【祈りの虚偽率:92%】
【目的:王女の断罪 → 悪意と恐怖による祭祀】
【分類:害意】
【選別対象:教会上層部 全員】
十九柱の裁きは、すでに始まっていた。
祈祷師の一人が、突然、胸を押さえて膝をつく。
「……息が……!?」
「どうした!?」
別の祈祷師の喉が塞がれ、声が出なくなった。
「声が……出ない……っ!」
「やめよ、集中しろ! 祈りが乱れている!」
しかし祈りを続けようとするほど、症状は悪化する。
・指が震えて印を結べない
・視界が二重になり、光が歪む
・頭痛により意識が途切れる
「これは……神罰……!」
「なぜだ……我らは……神の意思を……!」
「違う……我らは……“嘘”を……祈っていたのか……?」
恐怖が一気に拡大する。
◇ ◇ ◇
メアリーの痛みは極限に達していた。
「は……っ……あ……!」
紬の怒りと十九柱の調律が重なり、
メアリーの胸に“断罪の波”が走る。
「姉上……! もうやめて……!」
クラリスが涙を流す。
「私じゃない……紬が……紬の痛みが……
世界を……揺らしている……!」
(奪われた日と同じ……
嘘と悪意が私を殺した……
許さない……絶対に……!)
紬の声が鋭い刃のように響く。
◇ ◇ ◇
大聖堂では、祈祷師の一人が恐怖に震えながら叫んだ。
「やめろ! 祈りを中断しろ!
これは……神々の怒りだ……!」
しかし、最年長の司祭ゼリウスは愕然としながらも呟いた。
「違う……これは……あの娘の……力……」
「王女の……神罰……?」
「いや……“娘を守る何か”だ……!」
その言葉を口にした瞬間、
ステンドグラスが震え、青い光が差し込んだ。
◆十九柱:
【第一神罰:発動準備完了】
【対象:祈祷師・司祭 13名】
【形式:音無き選別】
選別は──次章で訪れる。
◇ ◇ ◇
隔離区画では、クラリスが姉を抱きしめようと泣き叫んだ。
「姉上! お願い……!
このまま紬さんに呑まれないで……!」
「クラリス……私……もう止められない……
世界が……“嘘をつく者を裁け”と言っている……」
「違う!!
姉上が望んでるんじゃない……
紬さんの痛みが……世界を揺らしてるだけ……!」
(クラリス……
どうしてそんなふうに……
私を……信じてくれるの……?)
紬の声が震えた。
「姉上と紬さん……二人とも、大切だから……!」
その言葉に、紬の涙が静かに落ちる気配がした。
だが、世界はもう止まらない。
◆十九柱:
【黙示録フェーズ:教会領域へ移行】
【第一神罰発動:次章】
──王都はまだ知らない。
この祈りが、王国史に残る“断罪の夜”の始まりになることを。
どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。
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