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【完結済】訳あり元冒険者の復職支援 ギルド職員リタ・パルマのお仕事相談  作者: 夕波@「不良債権」コミカライズアンソロ1/8発売


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last case.冒険者ギルド職員リタ・パルマ 24歳 元Sランク冒険者(15)

二人とも、まとめるような荷物はなかった。

リタはいつもの斜めがけの布鞄ひとつ、転移魔法で飛ばされてきたライオネルは財布とライセンスカードのみという身軽さだった。


残ったところで今の屋敷に寝泊まりする余裕などない。何しろ使用人のほとんどが怪我を負い、無事だったものは二人の葬儀の準備でてんてこまいだった。


領主アシルは長い療養生活の末に息を引き取り、執事のブライアンは魔獣に襲われ亡くなった。

グレイはこのたった一行だけで領民を納得させるつもりらしい。

傀儡と言われながらも表舞台に立ってきたクロードの業績なら、なんとかねじ伏せることができるだろう。

 

「フェネスト卿、どうかお元気で。」 

屋敷の入り口で、リタは深々と頭を下げた。


「お嬢様も、どうかお達者で。」

新体制に移行してやるべきことが増えたのか、フェネストは忙しそうだった。


「本当にご挨拶なさらなくて良いのですか?」

老騎士は少し離れた屋敷のドアの前を見遣った。そこには所在なさげにクロードが立っていた。


「はい。彼のことはグレイさんにお任せしました。私ごときが挨拶なんてせずとも、立派な領主になるでしょう。」

「そうですね。私もまたみっちりしごきますよ。」

冗談には聞こえなくて、リタはふふっと笑った。


「待って、姉さ―」

リタはふるふると首を横にふった。

彼に姉などいないのだと。



王都に戻ったリタは家探しからはじめなければならなかった。

質屋に預けていた荷物を引き取り、ライオネルの自宅近くに小さな貸家を見つけた。


それから二人は、アマディ・ローランの墓を訪れた。

身よりのなかったアマディは、ひっそりと葬儀を終えて共同墓地に埋葬されていた。


彼がここに眠ることを証明するプレートには

「アマディ・ローラン 魔術師として生き、魔術師としてここに眠る」

と書かれていた。リタが希望したものだ。

葬儀とプレートの代金は、キマイラの屋敷で仕事をしたアマディに支払われるはずだった報酬で相殺した。

ライオネルがそっと花を供え、二人は心優しい魔術師の安らかな眠りを祈った。


墓地のあちこちに置かれたベンチのひとつに腰かけて、リタはぽつりぽつりと過去のことを話しはじめた。

一度口に出せば、これまでどうやって生きてきたのか、流れるように溢れてきた。

ライオネルはそれをただ黙って聞いていた。


リタがすべてを話し終えると、ライオネルはただ一言「改名はしないのか?」とだけ聞いた。共感も同情もしない、ライオネルらしい確認だった。


「今更改名するつもりはないんです。頂いた名前と生きていくと決めたので。

リタ・パルマという名前は、私が死んだらお嬢様にお返しするつもりです。」


「そうか。」

ライオネルは隣に座るリタをそっと抱き寄せた。小さな子どものように頭をすりつけてくるリタの頭に、優しい口づけが落とされた。


「どうしてでしょうね。ライオネルにこうされていると、お嬢様のことを思い出します。」


「そうか、だったら俺がこうしている限り、彼女のことを忘れずにすむだろう。リタ・パルマ。君が好きだ。残された人生を、一緒に生きてくれるだろうか。」


リタは小さく頷いた。他にも伝えたいことや話したいことが色々あったけれど、甘い口づけが降り続けて、結局できずじまいだった。




無期限謹慎が解除になって、リタ・パルマはようやく冒険者ギルドに戻ってきた。


ギルド長ヴェルトフは今日のために焼き菓子を作ってきてくれた。ミア・オーリックは泣いてリタに抱き着き、温かい拍手で迎えられた。

こちらの事情で勝手に休んでいたのに、どうしてみんなこんなに良くしてくれるのだろう。リタはギルド職員一人一人の顔をぐるりと見渡した。


みんな、優しい顔をしている。中にはミアのように涙ぐんでいるものもいる。

ああそうか。いつのまにか、ここが帰る場所だったんだ。

リタはここで初めて、本当の意味でこの言葉を使った。

「ただいま戻りました!」


復帰初日は、たまりにたまった書類の整理であっという間に過ぎていった。

残業やむなしと思っていたが、その計画はミアによって阻止された。


「リタさん?朝も言いましたけど、今日はBARサイハテでリタさんの復帰祝いですからねっ?主役が遅れてどうするんですか。あとちゃんと彼氏も連れてきてくださいよ。」


相変わらずの圧に、リタはたじたじだった。

「いや、ライオネルはどうだろう。」


「ダメですよ。私、今日は二人が付き合うまでの紆余曲折を聞き終わるまで絶対帰りませんからねっ!」

こうしてリタはミア・オーリックにサイハテまで連行されていった。


思えばここに来るのも久しぶりだった。

路地裏にひかえめに佇む店構え。本日貸しきり、の看板を確認して中にはいる。


「おかえり。」

少しはにかみながら、サミュエル・エヴァンスがカウンターの中から声をかけてきた。それに続いてすっかりこの店の看板娘となったニーナが駆け寄ってきた。

「リタさん!おかえりなさい!」

カウンターの端には、すでにライオネルも座っていた。


「リタちゃん、おっかえり~!会いたかったよ。」

「ちょっとリュカ・アポリネール、なんであんたがここにいるのよ誘ってないんだけどっ!」

「ひどいミアちゃん…!」

リタは二人のやりとりを笑って眺めていた。


「何か飲むだろ。とりあえず座りな。」

サミュエルに声をかけられてリタはカウンターの真ん中に座った。


おかえりってなんていい言葉なんだろう。

リタはしみじみそう思いながら心からの気持ちをこめて、この場の全員に聞こえるように声に出した。


ーただいま!


ここにいる全員が、笑っている。久しぶりの、いい夜だった。

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