last case.冒険者ギルド職員リタ・パルマ 24歳 元Sランク冒険者(7)
リタが王都を離れた翌々日、ライオネル・クレイグは騎士団諜報部の幹部であるグレイを訪ねていた。
冒険者と騎士団はなにかと相性が悪く、できるだけ接触しないのが暗黙の了解だ。
S級でソロ活動しているライオネルが約束もなしに本部を訪れる。騎士団員たちの視線は冷ややかだった。ましてあのグレイが突然の訪問を受け容れたのだ。面白くない顔をするものがほとんどだった。
グレイの執務室はかなり簡素な部屋だった。余計な装飾も、権威を見せびらかすようなトロフィーや見栄もない。事務室だと言われても納得するほどシンプルで、それでも調度品やカーテンは上質のもので揃えられている。
隅に簡易寝台が置かれていることから、その多忙さが見てとれた。機械的な対応でグレイの部屋へ案内されたライオネルは、無言で騎士の礼をとった。
「ああ、楽にして構わないよ。君が騎士団へ入りたいと希望しているなら別だがね。」
温和で物腰柔らかなグレイだが、その目にはS級冒険者に対して厳しい批評がこめられていた。
ライオネルが冒険者になる前、貴族の晩餐会でグレイを何度か見た事があった。その時もグレイの通り名を名乗っていたが、どこかの高位貴族であることは間違いなかった。
「貴族社会から距離をとった君が私を訪ねてくるということは、冒険者としてここに立っているという認識で構わないかい?」
「はい。」
「世間話はあまり好きじゃないんだ。用件を聞こう。」
グレイの口ぶりは、既にライオネルが何を聞くのか分かっているようだった。
質問に答えるかわりに、何を見返りにしてくるか。ライオネルは考えながら答えた。
「それでは単刀直入に。リタ・パルマの…黒煙の居場所をご存知では?」
グレイは眉ひとつ動かすことなく、両手の指を交互に重ねてふむ、と長考に入った。
ライオネルは彼が口を開くまで、微動だにすることなく待った。
「君が黒煙の正体にたどり着いていたとは思いもしなかったよ。なにしろ間の抜けた顔をした娘だろう?まあ、実力は本物だがね。」
やはりそうだったか。
ライオネルはリタのことを想った。キマイラの屋敷で、なぜ騎士団があんなに速くに駆け付けることができたのか。
内通者がいたか、諜報部がよほどいい仕事をしたのかと思っていたが、屋敷で雇われたいた料理人に聞いてみると、光る鳥がすごい勢いで夜空を飛んでいくのが見えたという。
誰かが通信用クレインをリタに渡していた。なぜ彼女だったのか?
騎士団と冒険者の折り合いは良いものとは言えない。それでも彼らがリタにそんな大事なものを託した理由…考えられるのは彼女が黒煙本人だと言うことだ。
そう考えれば、すべてのつじつまが合い、納得がいく。妙に度胸のある態度や、ジャルジール砂漠でのふるまいも。
黒煙に会いたいと熱く語った時のリタの複雑な表情を思い出す。今はただ、リタ・パルマに会いたかった。
「居場所を知ってどうするつもりかい?実はね。彼女にはキマイラの件の後始末で、ある依頼をしているんだよ。君がそれを邪魔するのなら、教えることはできない。」
おそらく不利な取引を、リタは受け入れたのだろう。でなければギルドや自分に菓子折りを持ってくるなんてこと、するはずないのだ。
そして、居場所を教えてもらうなら自分もまた、不利な条件を飲まなければいけないのだろう。
ライオネルの腹は騎士団本部の門をくぐった時から既に決まっていた。
「彼女が依頼を遂行して冒険者ギルドに戻って来れるよう、全力で助力します。」
「なるほど。その決意が口先だけでないことを祈るよ。黒煙の居場所は教えてやってもいい。ただね、せっかく来てくれたんだ。うちの精鋭の鍛錬相手になってくれると助かるのだが。」
「諜報部の精鋭…”血の盾”の相手ですか?」
「そう。騎士団精神とは一線を画す部隊だ。実践向けの訓練がなかなかできなくてね。なに、S級冒険者のライオネル・クレイグなら6人まとめて相手することなど造作もないことだろう?死ななければ、約束通り居場所を教えよう。」
潜入捜査や破壊工作、暗殺から革命制圧まで、なんでもありの特殊作戦部隊・血の盾。
1人で小部隊に匹敵するほどの戦力をもっていると噂される彼らだ。死ななければ、というのは誇張でもなんでもないのだろう。
取引を騙ったリンチの間違いではと、ライオネルは思わず小さく笑った。
「たかがギルド職員ひとりにずいぶんとハードルの高い取引ですね。」
「これでも彼女のことは気に入ってるんだ。食事に誘ったが断られてしまったよ。残念だ。」
ライオネルはグレイのデスクの前まで歩み寄ると、その力強いまなざしで彼を見下ろした。
「いいでしょう。案内してください。私もリタ・パルマのことは気に入ってるんです。彼女にたどり着くためなら何だってやりますよ。」
その言葉に、グレイは呼び鈴を鳴らした。
「血の盾を第一鍛錬場に集めてくれ。こちらの冒険者様が全力でお相手してくださるそうだ。」
ライオネルはグレイ直々の案内で、騎士団の訓練施設へ入っていった。




