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【完結済】訳あり元冒険者の復職支援 ギルド職員リタ・パルマのお仕事相談  作者: 夕波@「不良債権」コミカライズアンソロ1/8発売


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last case.冒険者ギルド職員リタ・パルマ 24歳 元Sランク冒険者(6)

リタの宣言などどこ吹く風で、ブライアンは笑みを絶やすことなく続けた。


「そうはまいりません。ユージェニーお嬢様は腐ってもこの家の一人娘なのですから。アシル様へ、長らく留守にしていた不義理を詫びてはいかがですか。例えばそうですね、親孝行の一環として魔力を譲渡されては?」


その瞬間、リタは身構えすぐに魔法を発動させるはずだった。けれども手のひらに魔力が宿る感覚はなく。体がまったく動かない。


「この部屋には、当主が許可した人間以外の魔法を禁じる仕掛けが施してあります。辺境伯領ですからね、どんな侵入者が訪れるかもわからないでしょう。」


「うぐっ…」

リタは両手を挙げることすらできず、肩から地面へと叩きつけられた。


「今のユージェニーお嬢様にふさわしい部屋を用意しましょう。クロード様、彼女を地下へ。」


「私は、リタ。リタ・パル、マ…。」

床に這いつくばりながら反論するリタのこめかみを、クロードが踏みつけた。


「他人の名前借りて、貧乏暮らししてなに言ってるの?名前変えたって姉さんの不出来は変わらないよ?」


体に力をいれて、なんとか魔法を発動させようとするけれど、その度に骨が削られるような痛みが全身に走った。

これは駄目だ。リタはひとまず魔法を使うことを諦めて脱力した。


一方的に暴行を受ける時は、なるべく脱力したほうがダメージが少ない。幸いクロードの靴はローファータイプだった。

つま先が尖っている硬い革靴がみぞおちに入ると、叫び声も出ないくらい痛いけれど、これなら耐えられそうだ。

こんなこと、思い出しもしなかったのに。ぐりゃりと空気の抜けたボールをイメージしてみたが、あまり意味のないことだった。


「ここを逃げ出した人間が、のこのこ戻ってきて普通に迎え入れてもらえると思ったの?本当に姉さんは昔から後先考えないまぬけだよね。」


クロードに前髪を掴まれ、ブチブチっと頭髪が抜けていく。そのまま床に頭を打ち付けられる。ダイレクトに耳に響いた振動で、頭がくらくらする。

冒険者を退いてから身体強化のトレーニングをサボっていたけれど、筋トレはやっぱり続けていればよかった。気を失う前に、リタはそんなことを思った。


 

気が付くと地下牢に放り込まれていた。

かつての自分にふさわしい部屋。なるほど、とリタはゆっくり身を起こした。

辺りにひとの気配はない。どこかで水が滴る音が響いている。ということは、ここは地下2階の独居房だろう。


昔よく放り込まれたなと思いながら、リタは関節のひとつひとつを確認していく。顔や腕の傷はひどくて、頭を庇っていた手首は回すと激痛がはしる。おそらくひびが入っているだろう。


内臓は無事で、肋骨も折れてはいない。クロードが私刑慣れしていなくて良かった。きっと、自分が一方的な暴行を受けたことがないから、どこを殴ってどう蹴り上げれば一番効果があるか知らないのだろう。


地下牢には何もない。寝台もトイレも、テーブルもない。

リタの亜空間収納機能がついた鞄も取り上げられていた。あれがなければ、ポーションによる回復も望めない。最悪の環境だった。


ここでは用を足したければ隅でするしかない。この独居房はいつも排泄物の臭いが混じっていたけど、今はカビ臭いだけだ。

長らく人が入っていなかったのだろう。だったらまだアレがあるはず。


リタはヘアピンを外すと、独居房の奥の石壁の亀裂にさし込んだ。なんどか探っていると、カランという小さな音がして鍵が出てきた。


「さすがにこれは懐かしいな。」

7歳で、まだユージェニーという少女だった頃、ここから出るために必死で錬成した鍵だ。

父親にいつ”躾”けられるか分からなかったから、50個複製して、屋敷のあちこちに隠していたものの1つだ。


リタはその鍵を靴の中に隠しいれると、ごろりと床に横になった。

体力の回復を待ってからここを出て、ブライアンを見つけなければ。

リタはブライアンによる誓約魔法によって魔術が使えない状態にされていた。キマイラの屋敷で使われていたのと、同じ術式だ。


援軍なしで、完全にひとりでこの家の暗部を潰すこと。

遂行できれば、騎士団諜報部が今後リュカ・アポリネールに接触することはないし、アマディ・ローランは子どもたちを護るために名誉ある死を遂げたとする。それが、グレイがリタに持ち掛けた取引だった。


グレイは食えない男だが、よほど自分の立場が脅かされない限り、一度約束したことは守るだろう。


この帰省が終わったら。今度こそ鉄板焼きに行きたい。

もし帰れたらの話…いや、絶対に行く。死んでも行くのだ。肉も魚も貝もきのこも、ありとあらゆる高級食材を目の前で焼いてもらおう。


冷たく硬い石の床に転がりながら、リタは鉄板焼きを胸に誓うのだった。

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