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【完結済】訳あり元冒険者の復職支援 ギルド職員リタ・パルマのお仕事相談  作者: 夕波@「不良債権」コミカライズアンソロ1/8発売


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last case.冒険者ギルド職員リタ・パルマ 24歳 元Sランク冒険者(5)

正面切ってやり合うつもりできたが、意外にも当主アシルは姿を見せず、クロ―ドはリタを応接室へ迎え入れた。


ブレーヴァル家の屋敷の中は閑散としていた。使用人も必要最低限、といったところなのだろう。

騎士隊だけは先代から責任統括を務めているフェネスト卿が今もとりまとめているらしいが、屋敷内に関してはクロードの求心力が弱いことが見て取れた。


「それで、久しぶりに我が家に戻ってきて何の御用ですか?」


クロードはにこりともせず、静かにそう聞いた。使用人の表情を見てもわかる。こうしていると、自分とクロードはそっくりだ。


「王都でこの家に関する物騒な噂を聞いたので。アシル伯は?」

「冷たい言い方をするなぁ。僕たちの父様じゃないですか?」

「製造元の間違いでしょう。」


皮肉を返したリタに、クロードはふっと笑った。

なによりも魔力の強さを重要視するブレーヴァル家には、女主人がいない。魔力の相性が良ければ、妻となる人間は誰でもよかったのだ。身分も年齢も問わず、後継者を何人か産んだ後は手切れ金とともに実家に帰される。


子を宿すと魔術師が、胎児に付与したい魔法属性を毎日数時間かけて胎内に流し込む。リタの時は土魔法、4歳下のクロードの時は火魔法だった。


クロードは魔術師の流し込んだ魔力を糧に胎内で熱を帯びはじめ、生まれきた時には産声とともに炎があがった。他者から魔力を流し込まれつづけ、異常な出産を強いられた母親はへその御を切り落とす前に絶命したらしい。


リタの記憶には、胎内に無理やり魔力を流し込まれて呻いている母親の姿しか残っていない。耐えかねて口からあふれた吐瀉物と脂汗の臭いが、そのまま母の記憶と繋がっている。


「父様ならもうずっと寝室にこもっているよ。ベッドの上から指示をだして、僕はただの傀儡さ。今じゃ使用人たちもそれを分かって御用聞きは寝室へ直行する始末だよ。姉さんは早めのお悔やみを言いにきたのかと思ったのだけど、そうじゃないみたいだね。」


キマイラの捕獲と改造を指示したのはどっちだろう、とリタは思った。アシル伯の先は長くはないのかもしれない。

だとしたら、次期当主として手綱を締めるためにアレを量産するつもりなのだろうか。それにしてはクロードの魔力が異様に少ないことが気になる。


クロードは生まれた時から魔力量が多かった。それまで後継者として厳しい教育を施してきたリタを、魔術専門の寄宿学校へ追いやってしまうほどに。

寄宿学校を脱走した時、ブレヴァ―ル家がリタを探しもしなかったのもクロードの将来があるからだった。

使える方に全ベッドする。それが、代々続いてきたこの家の教育方針だった。


「単刀直入に聞くけど、キマイラはクロードが?」

クロードは一瞬その目に暗い翳を落とすと、口元を歪ませた。


「あれは父様の悪趣味なペットだよ。もっとも、この頃じゃけっこうな高値で売れていい収入源になっているようだけど。僕はその収支報告を計上しているだけ。肝心なところで、あの人は僕に主導権を渡さないんだ。」


クロードはそう言って首元のクラヴァットをほどくと、シャツのボタンを外して胸元を開けてみせた。ちょうど喉元の下あたりに、水晶のような球体が埋め込まれていた。そこだけ恐ろしく魔力が高い。

見た事のない魔道具を凝視して、リタは1つの結論を出した。


「…クロードが、アシル伯を生きながらえさせている?」

「ご明察。さすが姉さん。」


「まだ死ぬつもりも次代へ譲る気もないけど、人前に立てる状態ではない。だから息子を表舞台の代理に立てた。」


「そう。僕は傀儡だっていっただろう?それで、7歳だった僕を見捨てた姉さんは今までどこで何をやってきたの?見た感じ、平民だけどまともな生活してるように見えるけど。」


どうしてだろう。母親を知らずに育ったもの同士、姉弟の絆があるわけじゃない。

リタとクロードがこの屋敷で寝食を共にしたのはわずか1年。キマイラのことがなければ一生会うことのなかった血縁者だ。それでも、嘘をつく気にはなれなかった。


「私は…クソすぎる寄宿学校を脱走してしばらく路上生活をしてた。繁華街でゴミをあさったり、施しをうけたり。半年くらいそんなことをして、西部の港町でパルマ家のお嬢様に拾われて使用人にしてもらったの。

リタお嬢様が亡くなるまで5年パルマ家に仕えて、その後は日雇いの仕事で生きてきた。定職にもついたりしたけど、今はそれもクビになりそうで、再び無職ってところかな。」


思いのほかこれまでのことを素直に話したリタが意外だったのだろう。クロードは襟元を直しながら、そういえば姉とこれだけ長く話すのは初めてかもしれない、と思った。


「残念ながら、今うちで働き手の募集はしていないからね。」

クロードの皮肉に、リタはふふっと笑った。


「こんな家、こっちからお断り。それよりクロード、その喉元の水晶玉。それで魔力を父親に流し込んでるんでしょう?死にかけの老人にいくら魔力を譲渡したって、穴の開いたバケツに水を入れるのと同じ。そんなこと続けていたらあなたの方が先に死ぬよ。早く除去しないと。」


「そんなことは分かってるよ。でもこっちにも事情があってね、もう少し父様を生かしておかないといけないんだよ。そうすれば、みんなが僕を当主だと認めてくれる。」


そんなことはない。リタが反論しようとしたその時、応接室のドアがノックもなしに突然開けられた。

部屋に入ってきたのは、長年この家に仕えており、アシル辺境伯の右腕でもある執事長のブライアンだった。


「失礼。少々物騒なお話が聞こえましたもので。ユージェニーお嬢様、ご無沙汰しております。よろしければお召し物をお持ちいたしますよ。アシル様にお会いになるには、ふさわしくない恰好かと思いますので。」


物腰も口調も丁寧だが、その表情には深い侮蔑が見てとれた。

クロードですら持て余すこの執事に、リタは視線をそらすことなくきっぱりと答える。


「お気遣いありがとう。ですが当主に会うつもりはないので服はこのままで結構。」


リタは自分を落ち着かせるために深く息を吐いた。それから背筋を伸ばして、腹の底から声を出した。


「それから、二度とその名前で呼ばないでください。私はリタ・パルマ。この家に落とし前をつけさせにきたただの冒険者です。」

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