last case.冒険者ギルド職員リタ・パルマ 24歳 元Sランク冒険者(1)
騎士団諜報部の捜査を妨害したとして、リタは無期限の謹慎処分となった。
このことを知らされたのは冒険者ギルド中央本部の職員と、各ギルド支部長だけだった。事実上の箝口令が敷かれたが、あれだけ派手に屋敷を全壊した後のこと。
翌日の午後には、冒険者たちの間でさまざまな噂が飛び交った。
曰く、人食いキマイラを飼っていた貴族が、脱走したキマイラに食い殺された。
魔力の高い子どもを専門に、違法な養子縁組斡旋する人身売買に騎士団がかかわっていた。国外の闇ギルドが活動を始めた。今回掴まった以外にも仲間がいて、近く王都でテロが起きるなど。
その中には、ライオネル・クレイグが聞き捨てならないものもあった。
いつもよりぴりぴりとした冒険者ギルドで、日銭を稼ぐための中堅冒険者たちが話していた内容に、ライオネルは思わず足を止めた。
「アマディ・ローランがギルド職員に殺されたらしいぜ。数年前まで結構名をあげてた魔術師でな。ほら、復職支援してるリタなんとかって若い女の職員。そいつがアマディを無理やり復職させて、いきなり無茶な仕事を振ったんだと。
キマイラが暴れてる屋敷に単独で放り込んで、結果アマディは無駄死にさ。可哀そうに。復帰なんかしなけりゃ良かったんだ。」
冒険者たちの間で、リタは自分の実績のために無理やり仕事をさせる傲慢なギルド職員になっていた。
「なんでもあの屋敷には若い魔術師もいて、そっちの色男は無傷だって話だぜ。おっさんは使い捨てても構わないってか。」
「しょうがねぇよなぁ。色男は別の使い道もあるもんな。」
下卑た笑い頃がひときわ高く響いたが、それを諫めるギルド職員はいなかった。この件に関しては一切口を挟むなとギルド長ヴェルトフに厳しく言われていたからだ。
冒険者たちはそれを、肯定と解釈したらしい。
「魔術師ひとり死なせたってんで謹慎くらってるらしいぜ。」
「無害そうな顔してひでぇ話だ。そんな奴辞めちまえばいいのにな。」
「本当、ギルドってのはどんなダンジョンよか恐ろしい場所だよなぁ。」
冒険者たちのほとんどはギルドを通して依頼を受けている。その中には日々の不満が積もっているものも少なくはない。そんな鬱憤が、リタに集中していた。
ライオネルは今笑った男たち全員を殴り飛ばしてやりたかった。ぐっとこらえて冒険者の一人の肩を叩いた。
「面白そうな話をしているな。だがどれも間違っている。あの場には俺もいたが、アマディ・ローランは自ら望んで実力以上の仕事を請けた。リタ・パルマはそれを必死で止めていたがな。」
国内トップクラスのソロ冒険者の発言に、ギルド内にいた者すべてが耳を傾けた。
「じゃあ、なんでこんな話が。」
「そういうことにしておいた方が、都合のいい者がいるんだろう。」
ライオネルの返答に、それまでの話を疑問に思って顔を見合わせる冒険者もいた。
「た、確かにあの嬢ちゃん、色気より食い気だもんなぁ。」
「俺、アマディと嬢ちゃんが長いこと面談してたのを何度か見たぜ。使い捨てにするようには見えなかったな。」
リタの日頃の行いが食に偏りすぎていたせいもあり、ライオネルの話を疑うものはいない。しかし、カウンターの中のギルド職員たちからの視線に居心地の悪さを感じたライオネルは、ギルドを出た。
一人、それもそこそこのやつ。
しばらくあてもなく歩き続けていたライオネルは、小さく舌打ちすると細い路地に入った。
建物と建物のせまい隙間から西日が差し込んでいる。ライオネルは路地の奥で足を止めると、振り返った。
そこにはマントで顔を隠した男が慌てる様子もなく立っていた。敵意はないが、やりあったらそれなりに面倒なことになりそうだ。
「お前、ギルドにいたな。何者だ?返答によってはここで斬る。」
S級冒険者の脅しに動じることもなく、尾行者はふふっと笑ってフードを取り払った。
「さすがはライオネル・クレイグ。全く隙がないよねぇ。俺はリュカ。さっきギルドで噂になってた、リタちゃんにとって別の使い道もある色男だよ。」
レモンイエローの髪が夕日に染められていた。
薄紫色の瞳には、どんな真意がこめられているのか、ライオネルにも読めなかった。




