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【完結済】訳あり元冒険者の復職支援 ギルド職員リタ・パルマのお仕事相談  作者: 夕波@「不良債権」コミカライズアンソロ1/8発売


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case5. 都市遊民リュカ・アポリネール 25歳 元魔術師(26)

その後のことは、あっという間だった。


数分もしないうちに騎士団が駆け付け、がれきの山から組織のメンバーを引きずり出しては連行していった。

円筒に生きたまま閉じ込められた幹部たちとカルメルは、そのまま運ばれた。おそらく、諜報機関の息がかかった施設で手厳しい尋問を受けることになるだろう。


リタは直々にやってきたグレイにひと睨みされた。

「派手にやってくれたな。」と言われたが、組織の黒幕の名前を告げると思うところがあったのかそれ以上追求されることはなかった。


そして、土魔法で作ったシェルターの中からは10人の子どもたちが無事に保護された。

最後の魔力を振り絞ってシェルターをロックしたのだろう。アマディ・ローランは入り口付近に倒れて絶命していた。


長らく精神の病と闘いながらも冒険者としての復職にむけて頑張ってきた彼は、最後に大きな仕事をしてからこの世を去ったのだ。


誓約魔法が解呪されて洗脳状態を脱した子どもたちは、口々にアマディが自分たちを助けてくれたと言い、その死を心から悼んだ。

リタはその場でアマディの遺体を確認すると、小さく祈りの言葉を唱えた。涙は、出なかった。


リュカ・アポリネールは妹シャルロッテの無事を確認した後、グレイ率いる騎士団諜報部に重要参考人として連れていかれることになった。


キマイラを殺されたことに苛立ったグレイは、せめてリュカだけは”有効活用”しようと思ったのだろう。

これまでのリュカのやって来たことを取引材料に、諜報部で使い捨てようとしているのは明白だった。けれど、彼らが到着する前にリタに言われるままサインした一枚の書類によって、それも阻止された。


「残念ながら、リュカ・アポリネールはつい先ほど冒険者ギルドで休眠していたライセンスを更新しました。彼に何かを頼むなら、我々冒険者ギルドを通してからにしてください。ギルドに所属しているすべての冒険者は、いかなる権力にも不当に使いつぶされないと法で定められているのはもちろんご承知ですよね?まあ、依頼を受けるかどうかは最終的に彼が決めることですが。」


ギルド本部で会った時には紳士的だったグレイも、さすがにここまで出し抜かれて穏やかではいられなかった。甘く低い声をすごませ、リタの胸元を掴んだ。


「リタちゃん…!」

リュカが助けに入ろうとしたが、すぐに騎士団員たちに取り押さえられてしまった。


「リタ・パルマ。私は手渡したリストの中に怪しい人物がいれば、すぐにクレインを飛ばして知らせるようにと言ったはずだ。これだけ好き勝手にやって明日から通暁業務に戻れると思うなよ。」


リタは顔色ひとつ変えず、グレイから決して目をそらさなかった。

「そんなこと思ってないですよ。使い捨てるなら私にしてください。」


グレイは勢いよくリタを突き放した。その反動でよろめいたが、表情は一切変わらなかった。それどころか、グレイの苛立ちに緊張感がはしる周囲をよそに、こんなことを言ってのけた。


「そうだグレイさん、今度食事に連れて行ってやるから食べたいものを考えておくようにと仰いましたよね。私、鉄板焼きがいいんですけど。ちなみにスケジュールの都合で今夜しか空いていないのですが。」


「悪いがとんだ暴れ馬のせいで今夜は仕事が終わりそうにない。食事の件は永久保留にしてくれ。」


リタはようやくにっこりと笑った。

「残念です。鉄板焼きに連れて行ってもらえるのを楽しみにしていたのですが。」


この発言には騎士団の面々が肝を冷やしたが、ここまで動じないリタに、グレイは声を上げてわらった。


「私も本当に残念だよ。埋め合わせとはいかないが、今夜はキミに聞きたいことが山とある。騎士団で何か用意させよう。」


騎士団の屈強な男二人が、リタの両腕を掴んで拘束した。グレイが片手をあげる。


「連れていけ。多少手荒に扱っても構わん。これでもS級ライセンス持ちだ、見た目に惑わされるな。」


「待ってくれ、彼女はあんたたちに言われて危険な仕事をしたんだ。こんな待遇はおかしいだろう?」


一瞬の隙をついてリタに駆け寄ったリュカは、再びすぐに捕縛魔法で身動きがとれなくなった。

「ぐぅっ…」

指一本動かせないリュカの顔を、グレイが覗き込んだ。


「私はね。彼女に、怪しい魔術師がいないか、見つけたら知らせてくれと言ったんだ。彼女が危険な目に合わないように通信用クレインでね。それが蓋をあければ勝手に組織に潜入して、貴重なキマイラを無駄に殺したあげく、屋敷は全壊。黒幕は捕え損ねた。どちらがおかしいと思う?」


リュカは継ぐべき言葉を見つけられず、考えた。

それなりに裏社会で生きてきたが、グレイの瞳はどんな闇稼業の頭よりも狂気を孕んでいた。こんな男が騎士団の上層部?全く笑えない冗談だ。

沈黙を破ったのはリタだった。


「リュカ、大丈夫ですよ。あなたは明日になれば解放されるでしょうから、必ず冒険者ギルドに行ってください。今はまだライセンス仮更新の状態です。ミア・オーリックという職員が復職支援担当ですので彼女を指名してください。ギルドで本更新の手続きをとれば安全は確保されるはずです。」


「でも、リタちゃんは…。」


リタはここでようやくニヤリと笑った。

「私もこちらのグレイさんと大事なお話がありますから。それに、明後日お友達と食事に行く約束があるので、それまでには帰れますよ。ご心配なく。」


リュカにできるのは、「わかった。」と頷いてリタの帰りを待つことだけだった。

こうして、長い夜が明けようとしていた。

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