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【完結済】訳あり元冒険者の復職支援 ギルド職員リタ・パルマのお仕事相談  作者: 夕波@「不良債権」コミカライズアンソロ1/8発売


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case5. 都市遊民リュカ・アポリネール 25歳 元魔術師(8)


リタは始業ギリギリで冒険者ギルドに駆けこんだ。

ミアが意味ありげな視線を送ってきたが、しれっとデスクに座って今日の復職希望面談の確認をしていると、ヴェルトフに呼び出された。


ギルドマスター執務室に呼び出されるのはたいてい何かやらかした時か、やらかすような事を命じられる前なのだが、今日はどちらだろうとリタはドアをノックした。


中には、いつにもまして難しい顔をしたヴェルトフと、その隣に見知らぬ男性がたっていた。

歳はヴェルトフと同じ50歳前後だろうか。くすんだ金髪を後ろに撫でつけ、にこやかに笑っている。上質なフロックコートを着ていても、相当鍛えられた人間だということが分かる。

意識していなくてもにじみ出る魔力のオーラで、リタのペンデュラムがビリビリと微かに鳴っている。間違いなく騎士団の人間、おそらく表に立たない諜報を担当しているのだろう。


彼がなぜ顔も隠さずギルドにやってきて、リタを呼び出したのか。理由はおそらく、昨日のアマディの一件だと確信した。それにしても来るのが早すぎる。

こういう人間には服従をしめしたほうが面倒がなくていい。リタは無言で頭を下げた。


「彼女が黒煙かい?噂には聞いていたけどずいぶん可愛らしいお嬢さんだね。」

男の語り口は穏やかで優しいが、リタに対する視線は鋭い。


「実力は、報告書を通じてご存知の通りかと。」

ヴェルトフが手短に説明する。


「うん。リタ・パルマといったかな。顔をあげていいよ。」

リタは言われた通りに無言で姿勢をただした。喋っていいとは言われていないからだ。


「私はグレイ。キミにちょっと話を聞きたくてね。アマディ・ローランの復職支援にずいぶん長いこと時間をかけていたようだけど、きみの目からみて彼はどんな魔術師だった?」


ヴェルトフが無言で頷き、リタはようやく口を開いた。


「所感を申し上げます。アマディ氏は戦闘には不向きでしたが、魔力量は申し分ないほどでした。魔力の微細なコントロールに限って言えばSランクが妥当かと。性格的に冒険者よりも研究職や技術者のほうが向いていると思います。そのため私は時間をかけて信頼関係を築いて、遺跡の発掘や魔鉱石の加工、取り扱いに難のある薬草採取など、戦闘が発生しない依頼を紹介するつもりでした。」


「なるほど。」

「キミとヴェルトフはアマディがどこかに引き抜かれたと考えているようだね。もしキミが引き抜く側の人間だったら、アマディをどう使う?」


リタはじっとグレイを見上げた。

笑っているが、その目には下手な回答や「わかりません」という返しは断じて許さないというプレッシャーがあった。


「使い捨て要員が妥当かと思いますが…。」

本当に使い捨てなら、こんなところにグレイが来るはずがない。リタは考えた。


「例えば穏やかな人柄を考慮して表に出せない魔力持ちの人間の制御・または教育係…あとは不正に入手した魔道具や遺跡発掘品の解錠、でしょうか。戦闘には不向き…つまり抵抗や反撃のリスクが少ないので、何かしら違法行為の中枢で可能な限り仕事をさせ。用が済めば処分します。」


リタはぎゅっと下唇を噛んだ。グレイはようやくここでリタを使える人間だと判断したらしい。


「うん。なかなか筋がいい。王都じゃ最近不穏な動きがあってね。アマディはおそらく消されるだろう。」


「…はい。」

まだ決まったわけじゃない、と言いたかった。グレイがここにいるということはよほど大きな何かに巻き込まれてしまったのだろう。


「残念だが、我々もすべての国民を救うことはできない。だがこれから救える命もある。そのために私がここに来た。分かるね?」


リタが頷くと、目の前に書類が差し出された。中にはざっと30人ほどの名前が記載されている。


「それは最近主だった活躍をしていないB級以上の冒険者の中でも、特に魔力が高い者たちだ。キミには復職支援の呼びかけという形でリストの冒険者から炙り出しをしてきて欲しい。」


グレイは「何を」とは言わなかった。リタは今日面談するはずだった二名の引継ぎを誰かにしなければと頭の中で算段していた。しばらくギルド職員としてまともに仕事はできないだろう。


「承知しました。報告はどのように?」

「うん。少しでも不審な点がある冒険者に関してはその場でこれを飛ばしてくれる?」


そういってグレイから渡されたのは通信用クレインだった。水鳥の形に切り抜いてある白い紙片で、持ち主の魔力がこめられている。

預かっている人間がこれを空に放せば、居場所を知らせるために持ち主の元へ一瞬で戻る。飛行距離は魔力に比例するので、魔術師の力量がダイレクトに反映される代物だ。クレインに満たされている魔力は凪いだ水面のように穏やかで綺麗だ。


「承知しました。」

リタは真っ白な紙片を大切に鞄にしまった。


「ああそれから。すべて片付いたらなにか美味しいものをご馳走しよう。食べることが好きなんだって?なにがいいか考えておくといい。」

グレイはそういってにっこり笑った。


奢ると言われて断る選択肢のないリタだが、今回ばかりはどんなに食いしん坊でも行く気がしない。忙しい人だろうから、彼が自分を誘ったことを忘れるのを祈るしかなかった。


結局、リタは自分のデスクに座る間もなギルドを出るはめになった。

ライオネルと穏やかに朝食をとっていたのが、もうずっと前のことのようだった。

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