case4. BARサイハテ経営 サミュエル・エヴァンス 元Sランクパーティ・オールラウンダー 48歳(12)
王都に戻ってきたリタは、半月ぶりにBARサイハテを訪れることになった。
冒険者ギルドを通してライオネルに依頼されたのはジャルジール砂漠での護衛だったのだが、責任感の強い彼はリタとニーナを王都にある自宅まできっちり送り届けてくれた。
それだけではなく、サミュエル・エヴァンスに報告に行くのにも付き合うという。
指名依頼の途切れないS級冒険者にそこまでさせては、と一度は断ったリタだったが「乗りかかった船だ」というライオネルの言葉にハッとした。
「そうですよね。ライオネル様もステーキライスが恋しいですよね。」
「いや、俺はただ…。」
「砂漠も良いところなんですけど、やっぱり美味しいものの選択肢が限られるじゃないですか。そろそろがっつり、お肉が食べたいな~なんて思いますよね。お世話になりましたし、今夜は私がご馳走しますよ!」
リタはすっかり見当違いの納得をしていた。二人の会話がいつも少し食い違っていることには気が付かない。
「俺はただ、仕事をこなしただけでパルマ嬢の世話などした覚えはない。仮にあったとしても、特級ポーションで帳消しどころか、こちらが礼を尽くさねばならんだろう。」
そんなライオネルの反論も、勿論届かなかった。
サイハテ元店主の消息がつかめたが、連れて帰ることはかなわないという消息信書を送ったおかげで、入り口には「本日貸し切り」の札がかけられていた。
少し緊張した面持ちのエヴァンスは、自分とライオネルには蒸留酒を、リタにはトローニャの生絞りジュースを出した。柑橘類のさわやかな香りとあたたかなオレンジ色だけが、カウンターの中で明るく存在していた。
「俺は長ったらしい話は好きじゃなくてな。結論から聞かせてくれ。ブルーノは、死んだんだな。」
リタは下唇とギュッと噛んでから、短く「はい。」と答えた。
「殺されたのか?」
「いえ。ジャルジール遺跡の奥で亡くなっていました。残念ながら砕けた骨が残っているだけでー」
「待ってくれ。遺跡なら俺も二度足を運んでる。砂漠の民にもそれなりの謝礼を渡して聞き取りをしたんだ。」
どこかで信じたくないのだろう。いつも落ち着いているエヴァンスが珍しく声を荒げた。
「遺跡の奥に、砂漠の民ですら入ることができない地下神殿があるんです。ブルーノさんは遺跡の財宝があるに違いないと信じていたようです。強い想いを持っていたからこそ、呼ばれてしまったのでしょう。トラップを回避して地下にたどり着くことができた。」
「ハッ…あいつがトラップを回避だと?しょっちゅう地雷を踏みぬいていたような奴だぞ。」
「地下から持ち帰れたのは、これだけでした。」
リタは絹織物にくるんでいた懐中時計をカウンターに置いた。
「これは…俺が開店祝いに贈ったものだ。店が潰れそうになったらこれを売れって、冗談半分で。娘を引き取るのに金がいるなら、この店も時計も、売っちまえばよかったんだ…」
重い沈黙が続いた。サミュエル・エヴァンスはしばらく目頭を押さえたあとで
「…娘はどうなった?」とだけ尋ねた。
「娘さんはニーナと言いまして、スークの孤児院で無事に見つけることができました。本人は孤児院への残留を希望せず、父親の遺したお店を見たいとのことでしたので、王都に連れてきています。
10歳で身元引受人がいない状態なので、今後のことは行政につなげてからの話になりますが。今後のことが決まるまでは私の家にいます。今はここでの話が終わるまで冒険者ギルドで待っててもらっていますが。お会いになりますか?」
「ああ。すまないが今から連れてきてくれないか。ステーキライスを3人分用意して待ってる。」
「それは大変、急いで連れてきますね。」
リタの慌てように、ようやくサミュエル・エヴァンスの顔に柔らかな表情が戻った。
「はじめまして。ニーナです。」
10歳のわりにひどく痩せているニーナを見て、エヴァンスはじっと彼女の顔を見つめた。そこに、亡き友の面影を見つけたのだろう。
「サミュエル・エヴァンスだ。キミの父さんの古い友達でな。この店を預かっている。」
「はい、リタさんから聞きました。」
「込み入った話は食べてからにしよう。そっちの嬢ちゃんが待ちきれないようなのでな。」
ステーキライスが出てくるのを今か今かと待ちわびているリタを見て、ニーナは真顔で呟いた。
「私、こんなにご飯を楽しみにしている大人の人を初めてみました…。」
「心配するな、俺たちも初めてだ。まあ、こいつは大人じゃなくてただの食いしん坊だ。」
ライオネルの解説に、ニーナはくすっと笑い、リタは反論した。
「なんてことを。ニーナさん、私はれっきとした冒険者ギルドの正規職員ですからね。ここの支払いだって私がもちますから安心してください。」
「ああ、今日の支払いは無用だ。ブルーノの最期を知らせてくれた礼にしちゃ安いもんだが。」
「いえ、こっちも打算があって砂漠まで行っただけなのでお気になさらず。…でもそうですね。ステーキライス代はきちんとお支払いするので、できればデザートをつけて欲しいのですが。」
リタは先日食べたガトーショコラが忘れられなかった。エヴァンスは大きく笑った。
「分かったよ。もちろんアイスは乗せるんだよな?」
「お願いしますっ!できれば紅茶もホットで。」
「分かったよ。」
やれやれと、エヴァンスは厨房へ入っていった。




