第一章 5話 聖戦
今後ここに設定の補填ができたらいいなぁ。
稚拙な文章のせいで説明不足があると思うので……。
読んで頂いている皆様に感謝。
長方形型のテーブルには並べられたご馳走。そして、肉を丁寧にナイフで切り、口に放り込む男子高校生。
「あぁ……めっちゃおいしいな、これ」
「おォ……それならいいんだけどよォ……」
何か言いたいことでもあるかのような雰囲気を出すディオニスに、ショウは「どうした?」と首をかしげる。
「いや、その身体……すげェと思ってよ」
彼の言うとおり、ショウの身体は棒人間ではなく、紛れもない人間。そして、あたりに布切れ──ジンの姿はない。
──それはなぜか。
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──少し前のことである。
「美味しそぉ!」
「これは……凄いご馳走だね」
手を合わせて、棒人間は喜びを体現する。
「ディオニスの手料理だ」
「えぇ? 嘘つけぇ」
「嘘ではない。ああ見えても奴はなかなか器用な男だ。……まぁ、とりあえず座りたまえ。話はそれからだ」
レーグは顎をしゃくって椅子を指す。その椅子にショウはてくてくと寄っていくが、ジンは空中で止まって動かない。
「どうした、ジン?」
「ショ……ショウ。落ち着いて聞いて」
「お、おう」
ゴクリと、ありもしない喉が音を鳴らす。──そう、ありもしない喉を。
「ぼ、僕たち──口がない」
「──はッ!?」
緊張が背中を走る。答えがわかってはいるが、ショウは顔の下あたりをぺたぺたと触る。口のへこみはない。
我が身体の裏切りにショウは膝をつく。
「そんな……俺はもう、飯が食えないっていうのかよ」
目や鼻は勿論、口がないので表情が分からないが、その声色には絶望が読み取れる。
「──ちょっといいか?」
そんな重い空気に割って入ってきたのは、満身創痍だったはずのディオニス。あれほどの傷があったはずなのだが、今はその片鱗すらうかがえない。
「……なんだよ」
不貞腐れて、泣きそうな声でショウは問う。
「あのよォ。お前らここに来たときは、ちゃんと人間だったじゃねェか。またあんな風には戻れねェのかよ」
ディオニスの純粋で、もっともな疑問。だがそれは、ショウにとって一筋の光。
「──ジン、来い!」
棒人間はその細い腕をガバッと広げ、受け止めるポーズをつくる。
「……来いって言ったって……ふふ、ショウらしいな。うん。やってみるよ」
助走をつけて、布切れはショウに突撃する。
「──ふぁぶ」
しかし結果は当然というか、無理。濡れた雑巾でも投げつけられたかのようにショウはよろける。
「えー、どうすりゃいいんだよっ」
「ショウ、ちょっと考えてるから黙って」
「え、はい」
ジンはぶつぶつと独り言を始めた。
「単にぶつかるだけじゃだめだ。人間だったのは、そう、こう骨組みがあって……そうか、骨と皮。僕が皮になればいい」
ふと、独り言は止んで、「ショウ、僕に触れて」と提案した。
──生き物らしさを感じさせない、ショウの冷たい手にやさしく触れる。そして、体をラッピングするように、ゆっくりと包む。
「……すげェ」
様子をみていたディオニスは感嘆の声を漏らす。それほどに、“創造”の魅せる力は神秘的。
それは、望むカタチを創りだす。
──ショウ、君はなりたいものはあるかい?
──人に戻りたい。
──はは。そりゃそうか。
──まぁ、望みでいったら……ジン、お前に幸せになってほしい。
──じゃあ、早く闘いとやらを終わらせて、ミカのとこへ戻ろうか。
──ああ、そうだな。じゃあ、強い男にならなくちゃな。
──うん、了解。
もう工程は終わったらしく、ショウは確かに、“瞼”を開ける。すぐに眩しさの槍が入り込んできてひるんでしまうが、数秒で目も慣れてくる。
「おぉ! すごッ! 指がある、口がある」
ショウは手を握って、開いて、確かな存在を実感する。しかし、すぐに“とあること”に気づいてしまう。
「あれ、この手……ジンのじゃね? 確か肘に……ほら、ホクロあるじゃん」
【ほんとだ……なんでだろ】
「どうした?」
何か不都合が発生したのかと心配するレーグ。しかしこれは身内の問題なので、ショウとジンは「なんでもない」で通すことにした。
ひとまず、安心。こうして体はジン、頭脳はショウの男子高校生は食事に取り掛かった。
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──そして、今に至るというわけである。
「……では、話といこうじゃないか」
レーグは少し前のめりになって顎の前で手を合わせる。ショウも、一度フォークをおいて話を聞く姿勢を作った。
「まずこれは確認なのだが、貴様らは『使徒』で間違いないな?」
「えーっと、そうなの?」
【そうだよ、僕たちが天使様の兵士──『使徒』で、僕たち『使徒』の敵が、悪魔って奴の兵士『眷属』なんだって】
「俺らは『使徒』であってるみたい」
「ふむ、やはりそうか」
何故かレーグの声は重く、ショウも自然と不安になる。
「どうかした?」
「うむ……ところで貴様、天使と悪魔の戦闘の“勝利条件”を知っているか?」
「え、普通に……その『眷属』って奴らを倒せばいいんでしょ」
「それはそうなんだが、少し違う」
「え?」
突然の部分否定に、混乱する。
「もし出会ったらすぐに闘って良い訳ではない。『使徒』と『眷属』の闘い──『聖戦』は世界の均衡を壊しうる。それ故に、ルールがある」
「ルール?」
「まず聖戦は50日間に一度、期間を空けて行われる。6回先に勝った陣営が、勝利だ」
「50日……結構時間ある、のか?」
「次の聖戦までは7日後だ」
「……マジ?」
「マジである。そして次のルール。聖戦以外で戦闘する場合、それは一対一で行うこと。そして聖戦には絶対に参戦し、全力を尽くすこと」
「全力、か」
「うむ。ゆえに負けぬよう、協力者の存在を惜しんではならぬ」
「──は! 協力者って、まさか!?」
ショウは期待の眼差しをレーグへと向けた。すると彼は「クックック」と笑って──
「部下が迷惑をかけたからな。仕方がない。吾輩らが貴様ら天使陣営についてやろう」
「うお! 魔王様が二人もついてくれたら余裕なのでは?」
【ショウ……調子乗りすぎだよ】
お調子ものムードに入ったショウを、ジンは止める。だが、止める必要はなかったと、これから気づくこととなる。
「──無論。あっちにも魔王なり、それぐらいのレベルの者はいるぞ」
「む」
「そして、あっちには貴様らと同期の眷属に加えて、前期以前の眷属もいる」
「……それって、おかしくね? 俺らにも、いるはずだろ。使徒仲間」
レーグは静かに首を横に振る。
──ショウの背筋を、嫌な汗が伝った。その汗は、一瞬よぎった最悪の推測から流れたものだった。
「──貴様ら以外の使徒は、すでに聖戦で死んでいる。眷属の手によってな」
「死んでるって、そんな……」
お調子ムードは一転、黒い、重い空気がまとわりついてくる。
「──“1勝4敗”これが何の数字か……今のお前ならわかるだろォ」
横から飛んできたディオニスの弾丸のような呟き。
「まさか……」
ショウは理解できた──それが何の数字か。だが、理解したくなかった。
「使徒側が勝ったのは、初めの、たった1回のみだ」
「な、なんで……」
冷や汗が、首の裏を伝い背筋をはしる。
「──『月光』ライダ」
「──え?」
……人名、だろうか。とにかく今、それを言語としてとらえることができない。
「二回目の聖戦で現れた──最強の眷属の名だ。“1勝4敗”という結果は、奴のもたらした戦績さ」
【……な】
ジンもそれは天使から聞いていなかったのか、絶句している。
しばし、嫌な沈黙が支配した。
もちろん絶対の負けることはないと、思っていた訳ではない。しかし、この現状はあまりにも……
「だァかァらァ──レーグさんが、ついてくれるって、言ってんだろォが!」
絶望の匂いを嗅ぎ取ったディオニスが吠えた。
あまり知性を感じさせぬ咆哮ではあるが、一握りの期待を与える。
「失礼なんだけど、その、レーグ……さんってどれくらい強いんですか?」
【ショウ、君って奴はほんとに失礼だね】
──ガルル。隣で唸り声が聞こえたが、一旦聞こえないフリ。
「む……吾輩は、そうだな。貴様の10倍は強いな」
「まじかよ。強さの相場がわかんないから、じゃあ大丈夫か、とはならないけど…… 」
「吾輩、魔王第二柱ぞ。気休めになるほどには強いと思ってくれれば良い」
信用していいのかは分からないが、その自信を前に、ショウは、少し不安が拭われるのを感じた。
「それでは決まりだ。──吾輩は使徒側につく……だが、これではまだ兵力は足りない」
「むむむ」
これは行き詰まったか? と思えたその瞬間、空から糸が降ってくる。
「──1人。うまくいけば協力してくれそうな魔王がいる」
人差し指をピンと立て、レーグは声を細める。
「まじでレーグさん!? ありがとう、ありがとう!」
「ククク、礼には及ばぬ」
「及ぶだろ!」
「では明日……その魔王の領地に協力を要請しにいく、いいな?」
「了解!」
──この絶望的状況にたしかに光は差した。
窓から、きつね色の月がこちらを覗いていた。