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一次元転生  作者: K省略
第一章 蟲国編
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第一章 5話 聖戦

今後ここに設定の補填ができたらいいなぁ。

稚拙な文章のせいで説明不足があると思うので……。

読んで頂いている皆様に感謝。

長方形型のテーブルには並べられたご馳走。そして、肉を丁寧にナイフで切り、口に放り込む男子高校生。


「あぁ……めっちゃおいしいな、これ」

「おォ……それならいいんだけどよォ……」


 何か言いたいことでもあるかのような雰囲気を出すディオニスに、ショウは「どうした?」と首をかしげる。


「いや、その身体……すげェと思ってよ」


 彼の言うとおり、ショウの身体は棒人間ではなく、紛れもない人間。そして、あたりに布切れ──ジンの姿はない。

 ──それはなぜか。


***********************************************

 

 ──少し前のことである。


「美味しそぉ!」

「これは……凄いご馳走だね」


 手を合わせて、棒人間は喜びを体現する。


「ディオニスの手料理だ」

「えぇ? 嘘つけぇ」

「嘘ではない。ああ見えても奴はなかなか器用な男だ。……まぁ、とりあえず座りたまえ。話はそれからだ」


 レーグは顎をしゃくって椅子を指す。その椅子にショウはてくてくと寄っていくが、ジンは空中で止まって動かない。


「どうした、ジン?」

「ショ……ショウ。落ち着いて聞いて」

「お、おう」


 ゴクリと、ありもしない喉が音を鳴らす。──そう、ありもしない喉を。


「ぼ、僕たち──口がない」

「──はッ!?」


 緊張が背中を走る。答えがわかってはいるが、ショウは顔の下あたりをぺたぺたと触る。口のへこみはない。

 我が身体の裏切りにショウは膝をつく。


「そんな……俺はもう、飯が食えないっていうのかよ」


 目や鼻は勿論、口がないので表情が分からないが、その声色には絶望が読み取れる。


「──ちょっといいか?」


 そんな重い空気に割って入ってきたのは、満身創痍だったはずのディオニス。あれほどの傷があったはずなのだが、今はその片鱗すらうかがえない。


「……なんだよ」


 不貞腐れて、泣きそうな声でショウは問う。


「あのよォ。お前らここに来たときは、ちゃんと人間だったじゃねェか。またあんな風には戻れねェのかよ」


 ディオニスの純粋で、もっともな疑問。だがそれは、ショウにとって一筋の光。


「──ジン、来い!」


 棒人間はその細い腕をガバッと広げ、受け止めるポーズをつくる。


「……来いって言ったって……ふふ、ショウらしいな。うん。やってみるよ」


 助走をつけて、布切れはショウに突撃する。


「──ふぁぶ」


 しかし結果は当然というか、無理。濡れた雑巾でも投げつけられたかのようにショウはよろける。


「えー、どうすりゃいいんだよっ」

「ショウ、ちょっと考えてるから黙って」

「え、はい」


ジンはぶつぶつと独り言を始めた。


「単にぶつかるだけじゃだめだ。人間だったのは、そう、こう骨組みがあって……そうか、骨と皮。僕が皮になればいい」


 ふと、独り言は止んで、「ショウ、僕に触れて」と提案した。

 ──生き物らしさを感じさせない、ショウの冷たい手にやさしく触れる。そして、体をラッピングするように、ゆっくりと包む。


「……すげェ」


 様子をみていたディオニスは感嘆の声を漏らす。それほどに、“創造”の魅せる力は神秘的。

 それは、望むカタチを創りだす。


──ショウ、君はなりたいものはあるかい?

──人に戻りたい。

──はは。そりゃそうか。

──まぁ、望みでいったら……ジン、お前に幸せになってほしい。

──じゃあ、早く闘いとやらを終わらせて、ミカのとこへ戻ろうか。

──ああ、そうだな。じゃあ、強い男にならなくちゃな。

──うん、了解。


もう工程は終わったらしく、ショウは確かに、“瞼”を開ける。すぐに眩しさの槍が入り込んできてひるんでしまうが、数秒で目も慣れてくる。


「おぉ! すごッ! 指がある、口がある」


ショウは手を握って、開いて、確かな存在を実感する。しかし、すぐに“とあること”に気づいてしまう。


「あれ、この手……ジンのじゃね? 確か肘に……ほら、ホクロあるじゃん」

【ほんとだ……なんでだろ】

「どうした?」


 何か不都合が発生したのかと心配するレーグ。しかしこれは身内の問題なので、ショウとジンは「なんでもない」で通すことにした。

 ひとまず、安心。こうして体はジン、頭脳はショウの男子高校生は食事に取り掛かった。


***********************************************


 ──そして、今に至るというわけである。


「……では、話といこうじゃないか」


 レーグは少し前のめりになって顎の前で手を合わせる。ショウも、一度フォークをおいて話を聞く姿勢を作った。


「まずこれは確認なのだが、貴様らは『使徒』で間違いないな?」

「えーっと、そうなの?」

【そうだよ、僕たちが天使様の兵士──『使徒』で、僕たち『使徒』の敵が、悪魔って奴の兵士『眷属』なんだって】

「俺らは『使徒』であってるみたい」

「ふむ、やはりそうか」


 何故かレーグの声は重く、ショウも自然と不安になる。


「どうかした?」

「うむ……ところで貴様、天使と悪魔の戦闘の“勝利条件”を知っているか?」

「え、普通に……その『眷属』って奴らを倒せばいいんでしょ」

「それはそうなんだが、少し違う」

「え?」


 突然の部分否定に、混乱する。


「もし出会ったらすぐに闘って良い訳ではない。『使徒』と『眷属』の闘い──『聖戦』は世界の均衡を壊しうる。それ故に、ルールがある」

「ルール?」


「まず聖戦は50日間に一度、期間を空けて行われる。6回先に勝った陣営が、勝利だ」

「50日……結構時間ある、のか?」

「次の聖戦までは7日後だ」

「……マジ?」

「マジである。そして次のルール。聖戦以外で戦闘する場合、それは一対一で行うこと。そして聖戦には絶対に参戦し、全力を尽くすこと」

「全力、か」

「うむ。ゆえに負けぬよう、協力者の存在を惜しんではならぬ」

「──は! 協力者って、まさか!?」


 ショウは期待の眼差しをレーグへと向けた。すると彼は「クックック」と笑って──


「部下が迷惑をかけたからな。仕方がない。吾輩らが貴様ら天使陣営についてやろう」

「うお! 魔王様が二人もついてくれたら余裕なのでは?」

【ショウ……調子乗りすぎだよ】


 お調子ものムードに入ったショウを、ジンは止める。だが、止める必要はなかったと、これから気づくこととなる。


「──無論。あっちにも魔王なり、それぐらいのレベルの者はいるぞ」

「む」

「そして、あっちには貴様らと同期の眷属に加えて、前期以前の眷属もいる」

「……それって、おかしくね? 俺らにも、いるはずだろ。使徒仲間」


 レーグは静かに首を横に振る。


 ──ショウの背筋を、嫌な汗が伝った。その汗は、一瞬よぎった最悪の推測から流れたものだった。


「──貴様ら以外の使徒は、すでに聖戦で死んでいる。眷属の手によってな」

「死んでるって、そんな……」


 お調子ムードは一転、黒い、重い空気がまとわりついてくる。


「──“1勝4敗”これが何の数字か……今のお前ならわかるだろォ」


 横から飛んできたディオニスの弾丸のような呟き。


「まさか……」


 ショウは理解できた──それが何の数字か。だが、理解したくなかった。


「使徒側が勝ったのは、初めの、たった1回のみだ」

「な、なんで……」


 冷や汗が、首の裏を伝い背筋をはしる。


「──『月光』ライダ」

「──え?」


 ……人名、だろうか。とにかく今、それを言語としてとらえることができない。


「二回目の聖戦で現れた──最強の眷属の名だ。“1勝4敗”という結果は、奴のもたらした戦績さ」

【……な】


 ジンもそれは天使から聞いていなかったのか、絶句している。

 しばし、嫌な沈黙が支配した。

 もちろん絶対の負けることはないと、思っていた訳ではない。しかし、この現状はあまりにも……


「だァかァらァ──レーグさんが、ついてくれるって、言ってんだろォが!」


 絶望の匂いを嗅ぎ取ったディオニスが吠えた。

 あまり知性を感じさせぬ咆哮ではあるが、一握りの期待を与える。


「失礼なんだけど、その、レーグ……さんってどれくらい強いんですか?」

【ショウ、君って奴はほんとに失礼だね】


 ──ガルル。隣で唸り声が聞こえたが、一旦聞こえないフリ。


「む……吾輩は、そうだな。貴様の10倍は強いな」

「まじかよ。強さの相場がわかんないから、じゃあ大丈夫か、とはならないけど…… 」

「吾輩、魔王第二柱ぞ。気休めになるほどには強いと思ってくれれば良い」


 信用していいのかは分からないが、その自信を前に、ショウは、少し不安が拭われるのを感じた。


「それでは決まりだ。──吾輩は使徒側につく……だが、これではまだ兵力は足りない」

「むむむ」


 これは行き詰まったか? と思えたその瞬間、空から糸が降ってくる。


「──1人。うまくいけば協力してくれそうな魔王がいる」


 人差し指をピンと立て、レーグは声を細める。


「まじでレーグさん!? ありがとう、ありがとう!」

「ククク、礼には及ばぬ」

「及ぶだろ!」

「では明日……その魔王の領地に協力を要請しにいく、いいな?」

「了解!」



 ──この絶望的状況にたしかに光は差した。


 窓から、きつね色の月がこちらを覗いていた。


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