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一次元転生  作者: K省略
第一章 蟲国編
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第一章 4話 負けないロジック

──恐怖。一瞬だが、どうにもならない感情が、ディオニスに宿った。一歩の後ずさり。しかしそれは予定とは違う──すなわち、隙。


 それを見逃さなかったショウがぐにゃりと腕を振り上げて──


「──ッ!!」

「──え!?」


 素人の、ビンタに近いパンチ。だが威力はすさまじく、ディオニスは吹き飛ぶ。

 ショウもその出力に、自分の手とディオニスを交互に見て、驚いている。

 ──しかし、まもなく姿勢を立て直したディオニスは、何も言わずにショウに殴りにかかる。


「──ッ! あ、ぶな」


 避けられる。ディオニスの拳は綺麗に空を切る。

 ──よろけたディオニスに、すぐさまショウのフェイント。体が床に打ちつけられ、先ほどよりは大きいクレーターができる。

 そこをショウは追撃。ディオニスはスーパーボールのように跳ね飛ぶ。

 ディオニスは壁にうちつけられ、ぼやけた視界でショウをとらえようとする。


 ──なんとかその細身をとらえたディオニスは聞く。


「──ぐ、これだけ聞きたい……お前、名前はなんだ?」

「──俺は、カズミヤ・ショウ。『使徒』だ……よね、ジン?」

「ハハッ、……ショウ。“これから”よろしくなァ!」


 むくりと起き上がったディオニスは、光の衣を纏って、ショウに戦いの意思を向ける。

 その意思を受け取り、棒人間は腕を構えた。

 

***********************************************


 カズミヤ・ショウは、とても不器用な男である。

 彼は、小さい頃に母を亡くして、父と二人。そして、その父も、海外での仕事が忙しいらしく、5歳になるころには、父の友人の家に預けられることになった。

 それが二聖家である。


「これから、この子を、昇を頼みます、ほら、挨拶しなさい」

「……ぁす」

「すみません、この子人見知りで。慣れるまでは温かい目で見てやってください」


 昇がやってきた日のことを、仁はよく覚えている。知らない家に入れられて、それは心細いだろう。彼の心をほぐそうと、仁は彼に微笑みかけた。


「昇、オセロしよ!」

「……ぃよ」


 表情は変わらないし、声は小さいが、一緒にやってくれた。

 何日、何か月かかるか分からないけれど、せっかく同年代の子供と暮らせるんだ。君と仲良くなりたい。


「──これで、僕の勝ちだね」

「……ぉう、一回」


「いいよッ。もう一回しよう……あ、昇はもう置くとこないから、僕の勝ちだ」

「む、もう一回」


「──僕の勝ち」

「む、むきゃあああああ!!」


 昇は、悔しさのあまり、泣き出した。(なんだ。表情豊かじゃん)と思ったのは、内緒である。


「ご、ごめん。もうやめようか!」

「嫌! もう一回!!」


 昇は鼻をたらしながら、オセロ盤の前に正座する。

 こんなつもりじゃなかったんだけど、いいや。とことんやってやるさ。

 その日、仁はとんでもない負けず嫌いを発掘することになった。


 因みに、現在に至るまでの(オセロに限らず)ショウとのバトルの結果は、11208戦11208勝で、仁の勝ちが続いている。

 今でも負ければ「むきゃあ」と奇声をあげるのは変わっていない。

 昇は、オセロの才能がなく、また、勉強も、スポーツも、ましてや家事に至るまで才能が皆無であった。


 昇が初めて作った料理はひどく、親代わりの仁の両親も頬がひきつるほどであった。

 だが、昇はただの才能なしではない。──そこに負けず嫌いが加わっているから厄介なのである。


 ──昇は不器用なのだ。


 だから、諦め時というのが、昇にはどうにも分からない。

 勉強も、スポーツも、家事も、遊びに至るまでどれも手を抜くことなく、昇はずっと努力した。


「昇、早く寝なよ」

「うるせぇ! 勝ち逃げは絶対に許さん!」


 そういって昇はオセロの定石本を読み漁っていた。

 まぁ、次の日も仁が勝つのだが。

 要するに、できないなら、できるまでやるのが昇と言う男である。



 ──ショウは負けない。きっと彼は、勝つまでやるだろうから。



 そういった意味で、天使はとんでもないことをしてくれた。

 ──諦めない男に、諦めなくていい肉体を与えた。これが意味するのは、実質的な、不敗である。


「ハぁ、ハぁ。テメェ。さっさとくたばりやがれッ!!」


 ディオニスが振るった拳は、宙を空振った。

 闘いが始まってかれこれ1時間が経過した。ディオニスには疲労の色が見え始めている。

 ──そして対する、ショウは。


「喰らえ!」


 ブン! なんとこちらも拳が空を切る。こっちは体力の問題ではなく単にセンスの問題である。

 ディオニスの光の衣も、プスプスと音を立て始めた。

 このまま闘い続けると、最期に立っているのは……彼の脳裏によぎった最悪のビジョン。

 何も成せずに負ければ、あの人に顔向けできない。


「決めるしかねェな」


 打撃は、効かない。ショウの線による身体が、衝撃を見事吸収する。暖簾に腕押しとはまさにこのこと。


 ──では、斬撃はどうか。

 その頭を断ち切ってみせれば、お前はどうする?

 しかし、ディオニスは剣を持ち合わせてない。用いるは、この徒手空拳のみ。

 速度を上げれば、手も刃になりうる。

 筋肉では超えられないその速度を、超える。そのための“エネルギー”。


「──テメェの頭ン中はどうなってんのか見てやるよッ」


 ディオニスは身体に流れるエネルギーを、指先に集中させる。

 

 ──エネルギーとは、言語化可能な想像を現実のものへと変換するための動力源である。


 『エネルギーにより手の速度をあげて、奴の頭を斬る』

 それを今、現実へ──

 白くて丸いショウの頭は、細い身体に比べれば幾分も狙いやすい。

 ディオニスは青い光を腕に纏わせ、今──斬りかかる。


「──ショウ!」


 早くもディオニスの狙いを察知したジンは声を張るが、その声が届くよりもはやく、ディオスはすでにショウを間合いの中へ引きずり込む。

 技術などではない。圧倒的な暴力を貴方へ。


「──オルァアアアアアア!」


 ショウは見た。ディオニスに宿るエネルギーが創る獅子の像を。白く鋭い牙をこちらに見せつけて、食いかからんとしているところを。


 ──そして、そのコンマ1秒先、その威厳を象徴する牙が、粉々に粉砕する様を。


「──ハァ!?  テメェ頭固すぎだろォ」


 ディオニスの指は、5本それぞれあらぬ方向を指し示す。

 ショウは、自身の頭の硬度を知っていたわけではない。そして、実際、本来人間の弱点である頭部を狙われた際も、反応はできなかった。


 ──反応できなかった。その一番無防備な状態が、今の結果を叩き出した。


 “硬すぎる”頭部に、クリーンヒットするよう、攻撃を誘ったと言っていい。例え本人が、図らずとも。

 この瞬間、ショウは知る。どうやら自分の頭は硬いらしい。──ニヤリ笑って、ディオニスの胸ぐらを掴んだ。


「いいこと聞いたぜ」


 これまで、ショウはディオニスに攻撃をあまり当てられていない。これは本人のセンスの問題もあるが、主な理由としては、その細い腕が挙げられる。

 武器たる拳の小ささに慣れていないためである。

 だが、ここで頭を狙われたことで、ショウは新たな可能性を見た。狙われやすいというのは、すなわちこちらが狙いやすいということ。

 この小さな拳に比べれば、何倍も大きく硬いこの頭の方が武器として明らかに優秀。

 掴んだ胸ぐらを離さないように、こちらへ思い切り引っ張る。崩れるディオニスのバランスを巧みに操り、そして──


 喰らわせる、渾身の一撃。


「──カハッ」


 金属と金属が思い切りぶつかり合うような音が響いた。

 一寸のズレもなく、その鉄球は目標物と衝突。

 ディオニスの世界は重い痛みと共にぐらり波打つ。地の定まらぬ世界はどうやら鉄の味がするらしい。

 赤く血が滲んだ、ショウの頭。すぐにディオニスを視線にとらえる。


「もう、いっちょぉ」


 もう一度、頭突きを食らわせれば、奴の意識が刈り取れる。その確信がショウにはあった。

 ふらつくディオニスに、棒人間はゆっくり歩いていく。

 確実に、確実に。一歩、一歩。絶対に、勝つ。

 まだ、目の焦点のおぼつかないディオニスの胸もとを、もう一度掴む。そして、その重い頭を、限界まで助走づける。

 ついにその首についた鉄球を、加速させ──ぶつけるッ


「──ッ!?」


 鳴り響いたのは、先程とは違い爆発音であった。

 ショウは何が起こったのかが分からない。──目の前を土埃が漂っているからだ。

 数秒して、土埃がやんできて、黒い影が見える。


「クハハ……貴様、中々やるな」


 現れたのは──全身を黒い鎧で守った、謎の人物。その声は低くこもっていて、威厳が感じられる。


「……ディオニス、大丈夫か」

「……ぐ、はい……大丈夫です」


 ディオニスはジンジンと痛む頭を押さえながら、ゆっくり体を安定させる。

 その口調も、出会った当時より幾分も落ち着いている。


「…………『波動』は使わなかったのか?」

「──え、レーグさんが使うな、と」

「クハハハ、吾輩は好きだぞ、貴様のそういうところ」

「……?」


 二人の会話に、ショウはついていけずただただ立ちすくんでいる。

 その様子に気づいたのか、鎧の人物は手を立てて謝る。


「──あぁ、すまない。吾輩はこの城の主。そして──」


 その人物は、重そうな腕を組んで──


「──魔王第二柱レーグだ。よろしく」


 魔王と聞いたショウはすぐに攻撃態勢に入る。しかし、レーグは「いやいや」と止めて──


「吾輩に戦う意思はない。そうだな……ここで話すのもなんだから、食事でもしながらどうかね」

「……えーっと」


 どうすればよいか分からないショウ。見かねたジンがにゅるんと割って入る。


「──では、そうさせていただきます」

「ふむ、じゃあ吾輩についてきたまえ」


 満身創痍の男と、鎧と、布と、棒人間。世にも奇妙な連中は、広間をあとにし、暗闇へと消えていった。

一章の分は書き溜めてるので、いい感じのペースでのっけたいと思う所存。

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