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一次元転生  作者: K省略
第二章 聖戦編
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第二章 5話 黒と白

 時は少し遡り、場所は使徒拠点の右方。

 レーグは、荒野をゆっくりと歩む。右腕に冷たい風が吹きつける。

 ただ、ゆっくりと行く。急ぎはしない。

 ──どうせ、それは来るからだ。

 

 レーグが魔王になってから、もう二百年。長い月日が流れた。

 八柱の魔王の、最古参。──第二柱『灰塵』のレーグ。

 だが、その長い月日のなか、一人──レーグに噛みつき続けるオオカミが一匹。

 こうやって表舞台に立つと、必ず邪魔をしに来る。そのせいで、魔王レーグは派手な行動をとれなかった。


「──来たか」


 レーグは目の前を鋭く睨みつける。

 それの冷たく、機械的なエネルギーが、あたりの空気を押しのけ漂う。


 それは、白い金属の鎧を全身に纏っている。

 それは、白く、長い銃を装備している。

 それの影は、白く地面に沈殿して──


 それの名を、レーグは呟いた。


「──新王第四席『純白』のレーズン」


 まるで世界にぽっかりと穴があいたように、世界が破けたように。

 その純白は、君臨する。

 

「魔王レーグ……」


 レーズンも、目の前の漆黒の名を呼ぶ。

 だが、その声色には、純白とは似ても似つかぬ憤怒の色が滲んでいて──


「今日こそは……お前を殺すッ!」

「それはもう二百年間聞いてきた」


 レーグは退屈そうに返答するが、そんなことレーズンは聞いちゃいない。

 やけにバレルの長い銃を両手に支え、その銃口は黒を捉える。

 籠手の先からスラリ細い指で引き金をなぞると同時に、銃口が空色に輝いた。

 同時にレーグの鎧に光が衝突するが、光は鎧の闇に呑まれて消える。


「この攻撃も何回目だ? いつもこうだろう? 確かに威力は上がっているだろうが、吾輩の鎧の前には無力だ」

「──ッ」


 しかし構わず、レーズンは銃弾を撃ち続ける。轟音のたびに、その反動に地面が震えていた。ただ、レーグだけは震えず、その光を受け続ける。


「……貴様をな。貴様を見ていると、吾輩は悲しくなるのだ。この悲しみの正体は……そうだな。持たざるものの限界というか。凡才の限界を見ているような気がするのだ。『器』が、『エネルギー』がくだらないから兵器如きの小細工で立ち向かおうという貴様ら無才に、吾輩は涙が止まらんよ。ああ、もちろん欠伸の涙だが」


 レーグは「ふわぁ」と欠伸を漏らし、そして、地面に視線を落とした。

 己の影が前へ伸びていて、太陽が背後へと沈み始めているのが分かる。影と鎧の間には臨界線が見えず、あたかも鎧も身体の一部のように思えた。

 そしてレーグは、気だるげに身をかがめて影に手を伸ばし、影を引き抜いた。

 影ははじめこそ、光にさらされぼやぼやと暴れてはいたが、徐々に影は輪郭を持ちそして影は──大剣へと、形を変える。

 その剣の名は──


「──魔剣グレイモア」


 『魔剣』……それは神宝のうち、剣の形をしたものを指す。ただ、ほかの神宝とは違う点がいくらかある。まずは希少性。そもそも神宝は世界に十数個と少ないのに加え、魔剣は特に希少だとされている。今確認されているだけでも、片手で数えられる程度である。そしてもうひとつ特徴を上げるとすればそれは──エネルギーの濃度。魔剣には、ただの神宝に比べ、エネルギーが濃いとされている。神宝でさえ、未知だというのに。魔剣のその力は、とっくに測定不能。


「吾輩は今機嫌が悪いのだ。昨日鎧に傷をつけられた挙句、逃げられた。だから今日は貴様と遊んでやる気はない」


 グレイモアの先端をレーズンに向ける。

 刃の通った後が、世界に墨を塗ったように影がかった。


 どうやら、この魔剣には、この世界は眩しすぎるらしい。──ならば、黒く染めてしまえ。どこまでも自己中に、傲慢に。尽きることなき、この渇望に応えろ。

 

 大剣の重量を全く感じさせぬまま、レーグはグレイモアを振り上げる。

 同時に影が追従し、残留する。

 

「──ふん」

 

 ゆっくりと、されど流れるように、レーグは剣を振るう。

 しかし、レーズンは素早く銃を抱えて、その斬撃を躱す。がちゃがちゃと鎧が擦れる音がするが、その動きに金属の鈍さはない。

 ただ、避けれど。避けれど、グレイモアは影を残しながらレーズンの後を追う。

 そして、残留し続ける影は──檻を、形成する。


「……クソ、やみくもに剣を振り回すものだと思ったけど、狙いはこれか」


 己と刃の軌跡がつくった檻に、レーズンは囚われ、追い込まれる。

 その影に身体が触れたとき、どうなるか。レーズンは知っていた。そうだ。知っていたから、触れなかった。

 だが今、檻の角に追い込まれたレーズンに、衝突しない術はもうない。

 ここにて初めて、レーズンの身体が硬直する。が、レーグはそんなこと知らないというか、それが作戦だったとでもいうように、流れに沿って、剣を振るう。

 

「──ほう、身をよじり小さな穴をくぐったか。鎧を着ているのに、ずいぶん器用なものだ」


 斬撃の下には、影だけが揺らめく。レーズンはもう檻の外。

 ──ただ……


「無事ではないようだがな」

「──チッ」


 ぼとり。野原に腕が落ちた。

 通過した穴は、流石に小さすぎた。腕が影に触れたのだ。


 ──魔剣グレイモアの落とす影は、斬撃の影。触れれば影は、斬撃を落とす。


「はあ……本当、成長のないやつだ貴様は。詰めも甘いし、何の面白みもないな。もういい。もういい。今日はもう終わらせてやる」

「──ふ、ふふ」

「あ? なんだ、頭のおかしさが増したか。貴様」

「詰めが甘い、詰めが甘いといったね。……魔王レーグ」


 レーズン。腕を斬られ危険な状態に変わりはない。しかし、この者は、身体を震わせ……笑っている。そこに、腕を切断され悶える様子など微塵も……いや、おかしい。何かが変だ。──ッそうか! この違和感の正体は……!

 レーズンの腕から、切断面から流れていないのだ。血液が。


「貴様……ッ」

「詰めが甘いのは……お前だ、レーグ。頭がおかしいのも、お前だッレーグ!!」


 突如、レーグの右腕に電撃のようなものが走る。右腕、それは今日、偶然にも鎧に守られてはいない場所。

 すぐに視線をやると、地面から鉄の槍のようなものがレーグの右腕に突き刺さっている。

 ──否、地面からではない。それは、先程切り落とされた右腕から伸びていて──


「レーズン、貴様まさか……」


 はじめから斬られるつもりで──ッ


「……前は腕には血が通っていたではないか」

「捨てたんだよ。お前を倒すために」

 

 ただ、復讐がために。

 

「お前にとっては、今回も前回も、変わらぬ一回かもしれない。次回も変わらずに勝つつもりなんだろう。だけど、僕は違う。僕は今回で勝ちに来ている。復讐を成しに来ている。お前を殺しに来ている。これは、この闘いに賭ける想いの差だ」

「──くッ」

 レーグは腕を必死に引き抜こうとするが、抜けない。槍にある返しに引っかかっている。


「──あまり人間を舐めるなよ。レーグッッ!!」


「クッ……クハハ。貴様ももう半分は人間じゃなかろうて」


 この闘いではじめて、レーグは笑みをこぼした。

 レーズンは動けぬレーグに、銃口を向ける。ただ、今度狙うは、右腕。そのさらに先。腕と鎧の隙間──鎧の内部をめがけて。

 加えては、銃のバレルはさっきよりも短く、太く、重いもの。それの意味するところは、より近距離に、より高威力にということ。それを当てるには、今ほど恵まれた瞬間はない。

 

 純白の閃光を、放て。

 夕暮れの空に、朝焼けかと思うほど眩い光が立ち込めた。


 そして数秒後、目が慣れ、ようやく視界が光度を調節し始める。

 

 はじめに視線がとらえたのは、ぐったりとした黒い鎧。

 レーグの右腕はボロボロに焦げ崩れ、鎧の中からは黒い煙が上がっている。


「…………」


 やったか? などと、無粋な言葉は吐かない。答えはわかっている。まだ、やれていない。これで倒せるようなら、もう百年も前には倒せているだろう。

 今相対するは、魔王第二柱『灰塵』のレーグ。

 魔王位の創設者にして、二百年間もの間魔王に君臨し続けた怪物。


 新王第四席『純白』のレーズンは、絶対に油断しない。

 どこまでも堅実に。着実に。確実に。


「……うむ」


 喉が焦げたのか、レーグの掠れた声が聞こえる。声に合わせて煤が上がった。


「うむうむ。うむ。あー。いや……うむ」

「……」


「──良かった。今までで一番」


 鎧についた埃を落としながら、レーグはそう言い落とす。右腕が動かすたびに崩れていた。


「なるほど。油断を誘うのか。そういえば前もそれで腕を持っていかれたのだった。……うむ。これは認識を改めねばならんようだな。無才も、やりようによっては闘えうる、と」


 そこは改めても、その傲慢な態度を改める気はないらしい。

 

「──いやはやしかし、貴様もまあ立派よな。白紙の恨みがために吾輩にそこまでの復讐心を燃やすのだから」


 ──白紙の恨み、と。レーグは言い捨てた。

 新王レーズン、もう二百年間──その身をレーグの復讐に投じている。

 しかし、復讐のエッセンス──動機を、レーズンは覚えていない。

 それはなぜか。──レーズンはかつて二百年前、レーグに脳の半分を破壊されたからである。おそらく、そこからこの復讐は始まった。

 レーグによって死にかけていたレーズンだったが、身体の失われた部分を『中枢兵器』によって埋めることで一命をとりとめた。

 記憶は、レーグに破壊された半脳に入っていたらしい。なぜレーグと争ったのか、自分が何者なのかという記憶は、見事に失われていた。

 ただ、レーグに対する激しい怒り、悲しみ、執着心。そして、二百年前、この目に焼き付けた惨劇の最期の一瞬だけは、残された脳にしっかりと刻まれている。


 だから、レーズンは闘う。これが、復讐だけが今生きている理由だと信じて。


「…………」


 静かにレーズンは引き金に指をかけた。

 対してレーグも、魔剣グレイモアを構えなおす。


「──よかろう。貴様の成長に免じて、吾輩が殺してやろう。それでは、あの世で変人によろしく伝えておいてくれ」

「トライク様はご存命だ馬鹿野郎!」


 白と黒がまた、ぶつかった。


たいへん更新が遅くなったことをお詫び申し上げます。(11/12)



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