第二章 一話 道中
【──起きて、ショウ! 起きて!】
「……ぅるさい」
この日の目覚めは、あまり良くなかった。
嫌な夢をみた気がする。もう一度寝ればいい夢みれるかな。
瞼を閉じようとしたそのとき、
「ショウ、朝ごはんできたー!」
ローリィが呼びに来た。
さすがに、彼女の前で二度寝とあっては、ニツクダに何を言われたものか分かったもんじゃないので起きよう。
「おはよう、ローリィ」
「はよ。ディオニスが朝ごはん出来たって……」
「うぃ」
重い身体を起こして、昨夜の焚火の方へ向かう。
そこには、エプロンを纏ったディオニスがフライパンを振るっていた。
「うーん。慣れる気しないな」
ディオニスは素早い手つきで、焼き目のついたパンの上に目玉焼きを乗せて──
「──おらよ」
ショウとローリィに一切れずつ渡す。
ショウは重りがついているかのように思える瞼を重量挙げしつつ、パンにかぶりつく。
「んまいんまい」
うまみが眠気を吹き飛ばす。
ローリィもショウをまねてかじりつこうとする。しかし、お口のサイズが違う。
口パンパンに含んで、顎を動かせなくなって、一旦諦めて口を離す。
パンについた歯形を睨んだ。
「ディオちゃん、ほんとにお料理上手ねぇ」
そう言って、行儀良く朝食を食べているのは、新王第二席ローズだ。今日は『聖戦』の戦場まで案内してくれるらしい。
「こ、光栄です」
褒められたディオニスは、緊張に体を固めながら返事する。こんなに乱暴そうな見た目をしているのに、繊細な男だ。
そして、ショウの右方には、黒い鎧を全身に纏った魔王レーグである。爽やかな朝日も、その闇に吸い込まれているように見える。鎧を見続けていたら、なんだか夜になったと錯覚してしまいそうで、自分も眠くなってくる。
「……はぁ」
爽やかな朝日に影が入るようなため息を、レーグは吐く。
「どしたん」
指についた目玉焼きの黄身をなめとって、ショウはレーグに聞く。
「鎧……直らんかった」
確かに、鎧の右腕部分がなくなっている。
「もう吾輩いやっ!」
プイッとレーグはそっぽを向いた。
「元気出せって。 レーグさんなら鎧なんかちょっと壊れてても大丈夫でしょ」
「鎧なんかって言うな! 吾輩、貴様嫌い!」
今度は別のそっぽの方を向く。
嫌いと言われて、ショウは慌てる。
【……いいかい、ショウ。ある人にはなんて事のない物でもね、ある人にとってはとっても大切な物かもしれないんだ。今の言い方は良くないだろう?】
「うん。ごめん、レーグさん」
「…………よかろう。まぁ、鎧がなかろうと闘えるのは事実だからな!」
元気が出て良かった。
こうして、各々朝食を済ませて、準備を整える。
そして『聖戦』の戦場へ向かう馬車に乗り込んだ。
勿論、五人も車両には入ると流石に狭苦しい。ここはローズが車両の上。レーグが御者席に座る。
──走る馬車の中、ショウがローリィに話しかける。
「……なぁ、ローリィ」
その声のトーンは低く、これから真剣な話をしようとしているのは聞いて取れる。
「ん?」
少女もそれまで横に流れる景色を見ていたが、空気を読み取りショウの目を見る。
「今回の『聖戦』さ、ローリィは闘うのか?」
「そのつもりだよ?」
「いいのか?」
いい、というのは、きっとローリィの心を思いやってくれてるんだろう。
闘いで、ローリィの心をえぐってしまうことのないように。
けれどそれは、見当違いだ。
「いけるよ。そもそも闘うのは嫌いじゃないし、それに……」
「……?」
「あたしはもう、一人じゃない」
今の自分には、あなたがいるだろう?
「でも、『聖戦』では多分一緒にいられない。別々に行動することになるかも……」
「家族って、四六時中一緒にいることじゃないでしょ?」
「……うん」
「互いに信頼している関係なんだよ。きっと帰ってくるって──だから、ショウは必ず勝って帰ってきて、ただいまって言わなきゃいけないんだよ」
「そう、だな」
ショウは馬車の外の景色をみる。緑の長い草が風に吹かれなびいていた。
太陽が、行く先を照らしている。




