第一章 30話 家族
「──お前さんは、どう生きたいんだ」
ニツクダは、ローリィの目を見つめながら、言った。
「あ、あたしは……」
そうだ、あたしはずっと、帰りを待ってるんだ。
「家族と、いたい。ずっといっしょにいたいよ、パパ!」
腹の底から叫んだ。しかし、ニツクダは目を伏せる。
「すまねぇ。オイラはもうだめだ」
「──ッ!」
少女の顔は絶望に染まる。
「そんな顔すんな。オイラがいなくても、お前さんは大丈夫だ」
「でも、あたし、また、一人で……」
「コイツが、お前さんの家族になってくれるよ」
そう言って、ニツクダはこっちをみた。これがきっと、彼のショウに対する最期の頼み、というやつだろう。
「……」
ショウは、ジンの家族に入れてもらった身だ。家族の愛をそこで学んだ。その愛情がどれだけ大切かを、ショウは知っている。
ローリィと目が合う。その瞳には、悲しみや絶望、色々なものが混じっていたが、寂しさが、一際輝いて見えた。
──かつて、ジンの父が、まだ来たばかりのショウに言った。
「昇君。人は、一人じゃいけない。例えどんなに優れていても、一人では限界がある。でも、みんなでいれば、人はなんでもできるんだ。……だからね、昇君。次カレーを作るときは、母さんか仁を頼ってくれないか?」
ショウは一人を放っておけない。
「ローリィ、一緒に行こう」
「……ほんとに、ずっと一緒にいてくれるの?」
もう、家族が死ぬのは耐えられない。
「ああ。ずっと一緒にいる。家族、だからな」
ローリィの伸びた手をショウが引っ張る。
それと同時に、蟲の鎧はどろりと溶けた。
「──これからよろしく。カズミヤ・ショウだ」
棒人間は少女に対し微笑んだ。
その表情は読み取れないにしろ、彼の優しさが少女に届けばいい。
まだ戸惑うローリィの頭を、ぽんとニツクダが触れた。
「姫さん。世界はさ、とんでもなく広い。とんでもなく多くの人がいる。そいつら全部、ショウと見てこい」
そう言ってニツクダは、外を見る。
どうやら夕日が下りてきているらしく、橙の光が目を突いた。
そういえば、いつも城の窓からは下の街を見るばっかりで、前を見たことはなかった。
こんなにも綺麗だったのか。
「……うん」
ローリィは静かに頷いた。
──ごめん、ボロス。約束破っちゃう。でも、やりたいことが見つかったんだ。一緒にいたい人が見つかったんだ。いつかあなたに会いに行く。謝りにいく。だから今回は、許してほしい。
ルーペの墓が、夕日に照らされ輝いていた。




