第一章 28話 少女ローラ
──森の中にある、小さな村だった。
少女ローラは、畑沿いに座って本を読んでいた。
「ちょっとローラちゃん。野菜の収穫手伝ってくれるかしら」
「ん、いいよ」
母親はまだ物心つかない頃に亡くしていた。だから、父と二人暮らし、のはずだが……
「え、野菜をくれるのかい? 悪いね」
「いえいえ、お昼にローラちゃんがお手伝いしてくれたからねぇ」
「へへへ、偉いなローラは。オイラの自慢の娘だ。婆さん、せっかくだし夕食、食べていきなよ」
「いいのかい?」
「ああ、二人じゃこの量は多いからよ」
そんな具合で、食卓を囲むのはいつも二人よりも多かった。
父は狩人をしていた。昔は、大きな国で騎士をやってたみいたいで、当時使っていた剣はまだ持っている。
また、父は知識も結構あるようで、村人から頼られるリーダー的な立ち位置だった。それがローラは誇らしかった。
ローラは日の出ているうちは、いつも畑沿いに座って本を読んでいた。
文字につかれると、顔を上げて村の様子を見る。
腰の曲がったお婆さん。食堂を経営している美人なお姉さん。ふざけて遊んでいる馬鹿な兄弟。
そんな日常を見るのが好きだった。
「ローラ、また本を読んでるのか」
急に話しかけられたと思ったら、馬鹿な兄弟の兄の方だった。
「うん」「おもしろいか?」「うん」「どんな話なんだ?」「うん」「え?」
「今面白いところなんだから話しかけないでよっ!」
「あ、すまない」
この兄は、ことあるごとに自分に話しかけに来る。こうキツイ言い方をしてしまうが、別に嫌いなわけじゃない。ローラも兄のように思う瞬間もあった。
「あ、兄貴! またローラとしゃべってるっス! やらし~」
弟に見つかった。この弟は兄よりも馬鹿である。それに、まだしゃべってるという段階にもない気はするが。
「お前ぇええええ!」
兄は顔を真っ赤にして弟を追いかけていった。
それをみて、少女は笑っていた。こんな日が、続いていたのに。
──ある曇り空の日のことである。
「おやっさん、いるかい!」
朝方、ローラの家の扉を叩く音が静かな村に響いた。
「なんだなんだ」
父も急いで扉を開く。
そこには男が目に涙を浮かべて立っていた。
「野菜が、作物が全部腐っちまってんだ!」
そういって目の前の男が持つかごには、どろどろに溶けた作物。ツンと鼻をつく嫌なにおいがした。
「くっそぉ。みんなで頑張って育てたのに……なんでこんなことにッ!」
「……怒る気持ちも分かるが落ち着け。畑を見に行こう」
胸を曇らせながらも、父と男と畑を見に行く。
畑の作物は片っ端から腐っていて、ここも嫌なにおいがした。
父はまず土を少量摘み取り、口に放り込む。そして数秒後、べッと吐き出して──
「土は、悪くねぇ。となると、水か」
「……水、かい?」
二人は川の方に目をやる。
河川沿いには、魚の死骸がぷかぷか浮いていた。
「上流になにかあるな」
次に確認すべき場所をみつけ、父は一旦家へ帰って剣と弓の準備をもってくる。
他にも村の男が集まって見に行くらしい。魔獣の仕業だと危険だから、という判断だ。
「ローラ、オイラたちは少し川の上流をみてくる。今日も村のみんなを見といてくれよ」
「……うん。分かった」
「そんな心配そうな顔すんな、お前さんのパパは強いんだぞ」
そう言って、父は腕に力こぶをつくってみせる。
「んふふ」
その様子をみて、ローラの顔にも自然と笑顔ができる。
──そうだ。パパは強いんだ。今日も絶対に帰ってくるんだ。




