第一章 26話 熱殺蜂球
まず走り出すは棒人間。
跳びあがり、そして拳を振り上げる。
──このまま殴りかかれればよかった、が、ショウは止める。
「嫌な目だなぁ」
蜘蛛と同様に赤い目がこっちを見て赤く輝いている。今殴りかかれば、自分はバラバラにされていた気がした。
だが、こっちが行かなければ、向こうから来るだけ。
「RURURURU」
「──な!?」
蚤のように跳び、距離を詰め──
「RURAAAAAAAAA」
「──っ!」
蟻の如き怪力で、ショウを殴り飛ばす。
ここが巨人の体内で良かった。なんとか壁に衝突し、ここにいられる。
そして打撃なら、ショウは耐えられる。
棒人間が立ち上がり、前を見る。だが先程までローリィがいた場所にもうそれはいない。
「どこ行っ──!」
視界の端から刃が迫るのを、ショウは見逃さなかった。
身体をよじり避けて見せる。
「くっそ、ずるいだろそれ」
ローリィの腕にはカマキリの刃が装着されていた。
一度は避けたが、次はどうだ。
ローリィはすぐにショウを視界にとらえて、斬撃を繰り出す。
──カン。甲高い金属音が空間に響く。
「だけど、それは俺もできる」
ニツクダとの戦闘で身に着けたカマキリの模倣だ。
「シャッ!」
刃と刃がぶつかり合う。
火花が上がるが、どちらも引かない。
両者前へ、前へ、距離をつめていきその斬撃の速度は上がり金属のぶつかる音は連続的なっていく。
そしてこの斬撃バトル、先に折れたのは──
「RUAX!」
ローリィだった。
その腕の刃はもうボロボロになってしまい、身体は間合いの外へ弾き飛ばされる。
「ふぅぅううううう」
ショウの方も最大まであげていた集中力の熱を冷まさないと、次へ行けない。
「AAAAAA!!!」
ローリィは獅子のように吠えた。地面ががたがたと震える。
ショウは瞬く瞼もないけれど、瞬きすることなくローリィを見る。
──次は、何が来る?
どこからともなく、小さな虫が現れて、ショウではなくローリィに纏わりついていく。
「なんだ? ミツバチ?」
ミツバチはみるみるうちにローリィを覆って、蠢く。
「…………まさかッ!?」
その行動に、ショウは思い当たる節があった。
──これは地球上の話だが、ミツバチとスズメバチは敵対関係にある。
ミツバチの集めたはちみつを狙って、スズメバチはミツバチの巣を襲うということがよくあるのだが……言わずもがなあの体格差。ミツバチがスズメバチに勝てる要素はない。一対一であれば。
しかし、集団力においてはミツバチは自然界において頂点に君臨する。ミツバチが天敵スズメバチにとる対策──それは、ミツバチが複数体でスズメバチを囲んでしまう、というものだ。これはスズメバチに毒針を刺しているわけではない。──熱を発生させているのである。これは熱殺蜂球とよばれる現象であり、ミツバチはこれの力でスズメバチ蒸し殺しにしてきた。
ショウの予感は的中した。
ぼっ──ローリィを纏っていたミツバチが燃え焦げて、地に落ちていく。
今回は、ミツバチがローリィを蒸し殺しにしているわけはない。熱しているだけ。
現れたるは、橙の光に身を纏った蟲人の姿。
ローリィが一歩踏み出す、とすぐさまその床は焦げあがる。
それはさながら、千度の鉄球のよう。
「やっべぇな」
──さぁ、冷めてしまわぬうちに。
またローリィは跳躍してショウに襲い掛かる。
「速ッ!?」
先程よりも格段に速くなっている。
綻びたままの刃がショウに襲い掛かる。
「シャ」
ショウは避けられないことを悟り、刃を合わせる、が──
ジュウ、と音を立てて、その黒い腕は溶け斬れる。
「くっそッ」
痛くはない、痛くはないが。
再生に伴いとてつもない疲労感がショウを襲う。意識がとびそうだ。
だが、とばしている余裕なんてない。前をむけ。ローリィから目を離すな。
避けろ。今は、避けるしかない。
熱を帯びている、ということはいつか冷めるということ。それに、あのようなことをしてローリィ本人が無事なわけがない。きっとあれは諸刃の剣だと、そう信じるしか、ない。
「さぁ全部避けてやる! かかってこいやぁ!」
「GUAAAAAAA!」
さあ、脳をフルで回せ。常に逃げ場を意識しろ。
紙一重で、熱の刃を避ける、避ける。
上半身で避けてはいけない。次も避けるために、下半身を使って避け続けろ。体の芯を意識して避けるのだ──と、ジンに教わったことがある。
そしておよそ一分が経過。元の色味をローリィは取り戻してくる。だが、その体力が元に戻るわけはなく、内側から黒い煙が上がっているのが分かった。
ローリィが刃を構えた。──きっとこれが、熱を帯びた最後の攻撃。
その蟲人はきっとそれをショウに当てたいはずだ。
──ならばくれてやろう。この頭を。
一直線に、ハイスピードに。
最高速度でローリィは攻撃を浴びせた。
衝突と同時に、壁に何かが刺さる。──それは、折れたローリィの刃。
「悪いな。俺は頭が固いらしい」
「GU……RU……」
その蟲人は、己の腕の先がないことに気づく。
全力がこもった攻撃を、受け切られた。
ローリィは力尽きて膝から崩れ落ちた。
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