第一章 25話 ドリルマン
──痛い、苦しい、怖い、寂しい。
ローリィは朦朧とする意識のなか、何も思考を働かせることなく身体を動かす。
──だから、白紙に戻すんじゃ。そしたらまた、また……なんじゃ? まぁいいや。
もう自分が何をしたいかなんて分からない。何もしたくないから、とりあえず一旦壊してしまうんだ。
「「「こっちを見ろ! 魔王ローリィ!!」」」
意識にかかった霧も晴らしてしまうような大声が、蟲国に響きわたった。
もやがかかった視界が、荒れた土地の中に黒い物体を発見する。
そこには、魔王レーグが一人と、大砲が一つ。
「ではジン、ショウ、行くぞ」
確認をして、レーグは大砲の導線に火をつける。
「──発射!!」
黒い砲弾が、大砲より放たれる。
それは確かに心臓を捉えていて、速度を増しながら目標へ向かっていく。
一寸のずれはない。間も無くそれは命中するだろう。──ローリィが何もしなければ、だが。
もちろん巨人は抵抗する。飛んでくる黒を叩こうと、重い腕を動かす。
軌道をずらせば、問題はない。
──だが、その腕が弾丸に届くことはなかった。
「おらよォ!」
ディオニスが思い切り腕を蹴る。
それは蟻と水筒ほど大きさも質量も違うはずだが、その力は拮抗していた。
「くっそ、最近硬ェモンばっかだわ」
どうやら彼は巨人の腕を破壊できなかったのが悔しがっているようだ。
しかしディオニスの貢献で、砲弾は確かに巨人の胸部に到達した。
轟音とともに、巨人はよろける。……そう、よろけた。ひびが入りはすれどその鎧はまだ、貫けぬまま。
「うむ」
レーグはその様子をみて、頷いた。
「ここからは任せたぞ、ショウ」
砲弾は止めた、かに思えた。事実、装甲とぶつかり火花を散らしているが、もう勢いは落ちる一方、の、はずなのに……
なぜ装甲に入ったひびは広がっていく?
そう、これは砲弾などではない。これは……あの忌まわしき棒人間だッ!
それが今、巨人の胸で、何をしている?
数分前、アイデアを共有していた時である。
「俺を砲弾として撃ち込むんだよ」
「クハハハハ! それはいいな! だが、威力が足りなければどうする? 奴の硬さはまだ計り知れないだろう?」
「そんときのために、レーグ……おれをグルグル巻きにしてくれ!」
「???」
当時は明らかにならなかった作戦が今、判明する。
その砲弾が黒く見えたのは、ショウの頭にその身体を巻いていたから。それは空気抵抗を減らすためだけの工夫ではない。
衝突の瞬間に、身体の復元力を最大限に活かし、回転するのがその本領。
ひもで駒を回すのと要領は変わらない。
回転、回転、回転。さぁ、速度をあげていけ。
──もう、止められない。それはドリルが如し。
焦点は摩擦により赤く白く温度をあげていく、そして──
「行くぜぇえええええええええ!!」
限界に至り、崩壊する。
破片とともに、ショウは内部へ入り込んだ。
そこには、そのまま──あの苔むした地面ごと墓が空間を切り取られたように残っていた。まだツタは健在だ。
「──見つけた」
そして、その土の上には、ツタに巻かれた少女が一人眠っている。
今度こそは連れ出すんだ。そう気合をいれて近寄る、その時だった。
──ぼと、ぼと、と天井から白い泥が少女に降り注いだ。
「そう上手くいかないかぁ」
その泥は少女を覆って、ついには……
巨人の、小さい版といえば変だが、そういうこと。あの装甲を纏った蟲人となる。
だが、もうショウは止まらない。覚悟はできている。
「──闘ろうか」
「GURURURURURURURU」
魔王第七柱『孤高』のローリィ VS 使徒カズミヤ・ショウ
蟲国の命運をきめる決闘を──




