第一章 13.5話 行ってきます
「うむ、うむ。良いことを知ることができた。感謝する」
「いえいえ、僕もお役に立ててうれしいです」
宿にて、談笑を楽しむことおよそ三十分。ようやく話に区切りが見えてきた。
そのとき、地面の揺れとともに、爆音が鳴り響く。
「なんだ!?」
ジンとディオニスはすぐにあたりを確認する。窓から外をみると、巨木の城が、崩壊しているその最中であった。
呆然とする二人とは対照的に、レーグは落ち着いて席をたち、「そろそろ行くか」とつぶやいた。
まだ瓦礫が落ちる音が鳴っているが、レーグが扉から出ようとしたとき、ふと思い出したように立ち止まる。
「そうだ、ジンよ。貴様、吾輩に聞きたいことはないのか?」
まだ、動揺を隠しきれないジンに対して、レーグは聞く。今聞いてくるかと戸惑ったが、なんとか落ち着くように深呼吸してから、ジンは質問する。
「あの、どうしてレーグさんは僕たちに協力してくれるんですか?」
「む? それはディオニスが迷惑をかけたからな。尻拭いだよ」
「──違いますよね」
質問の答えを、質問した側が否定する。
レーグは空飛ぶ布切れを睨みつけた。表情を見せることなく、ジンは続ける。
「ディオニスさん、貴方はショウと闘ったとき、手を抜いていましたね。僕は少し格闘技をやっていたのでわかるんです」
ディオニスの肩が震える。だが返事はない。肯定だと受け取ってさらに言葉を紡ぐ。
「そして絶妙なタイミングでレーグさんが現れた。まるでずっと戦闘の様子をみていて、出てくるタイミングを伺っていたように」
「……」
「どうして、協力してくれるんですか?」
もう一度、同じ質問をする。数秒間の沈黙のあと、レーグが口を開いた。
「──面白く、なりそうだったからな」
「……」
悪びれる様子もなく、そう言い放った。ジンは何も言い返すことができないまま。
「二百年も待ったのだ。飽きさせてくれるなよ」
……二百年、その意味は分からないが、レーグがただの善意でジンとショウに協力しているというわけではないことが分かった。
「では、もういいな。行ってくる。留守番はたのんだぞ」
ディオニスとジンをおいて、レーグは宿から出ていった。
本当に彼を、信じていいのだろうか。ジンはその後も扉を見つめていた。