第一章 8話 宿にて
知識箱③
魔王:実力者で、席が空いていれば、なることができる地位。こんなざっくりした定義の地位なので、席の入れ替わりは激しい。
領地と権力を手に入れることができるぞ!
案内された宿の中は思っていたより一般的で、木材の優しい雰囲気がショウらを包む。
だが、ショウにはその雰囲気すら打ち破る焦燥感があった。
「レーグさん、今からどうすんだよ」
机に肘をつきくつろぐレーグに、顔を近づけ先程の言動の意味を確かめる。
「む?」
「──いや、む? じゃなくてだな」
「そう焦るな、ショウ」
「焦るなって言ったって……時間がないからっ、急ぐんじゃないのかよ!」
手伝って貰っている立場にある以上、強くは言えない。だが、この事情にショウも手が抜けないのも事実で、それが生む重苦しい差異が彼を蝕む。
「吾輩に任せておけ。ローリィは必ず吾輩らに協力する」
「ど、どうやって?」
「なに簡単なことよ。先程なにか衝突が起きそうだったろう? そこで吾輩らが介入し、ローリィ殿に恩を売るという魂胆だ」
たしかに城では、ヘキサと蟲国がなにやら険悪な雰囲気だった。それが人として正しい行いだとかは分からないが、レーグのやりたいことは分かる。
「じゃあ、なにかできることない?」
「ないぞ。今は”事が動く”のを待つのみだ」
「肩とか凝ってない?」
「ない」
「ほんとに、何か出来ることない?」
「お前、しつけェよ」
ディオニスが、鋭くこちらを睨む。
分かっている、分かっているのだ。しかしそれでも、胸騒ぎと言うのか、居心地の悪さが拭えない。
「ショウよ。少しあたりを見てきてはどうだ? 散歩でもすれば気分が落ち着くだろう?」
「…………分かった。散歩してくる」
どう見ても納得はできていない様子だが、仕方がない。今は、外のおいしい空気でも吸って落ち着くとしよう。それに、ジンの意見も聞きたい。俺は、どうすればいい。
玄関の扉に向かおうとしたとき、レーグは「待て」と、声をかけた。
「ん?」
ぽかんとして、後ろを振り向く。
「ジンと話がしたい。置いていってはくれないか」
「え?」
【え?】
一瞬驚いた様子だったが、ジンはすぐにシュルシュルととぐろを巻いて現れる。
「話、ですか?」
「うむ。少々聞きたいことがあってな」
「うーん、何だこの既視感」
──そうだ、天使のところで俺だけ地下にいった場面だ!
だが、自分はお呼びでないなら仕方ない、どうせ俺なんてそこらへんを歩いてりゃいいんでしょ。
「……ちぇ」
棒人間は、寂しく背中を丸めて、宿を出た。
すーぐ主人公抜きでしゃべる人たち。




