プロローグ
「分岐したレールの上に、『親友』。もう一方に『家族』がいたとします。向こうからは高速でトロッコが! そして君の目の前にはトロッコの行くレールを変えることのできるレバーがあります。助けられるのは片方だけ。君はどちらを助けますか?」
涼しげな朝日が、歩道の高校生を包むように照らす。
質問した青年は期待と不安が入り混じったような表情で、背の高いほうの青年の顔をのぞき込んだ。
「えっと、ええ? 決められねえや。そんなの」
「そんなの駄目だよ! どっちか決めないと!」
迷う青年を急かすのは、かわいらしい女子。
どうやら青年たちと親しい間柄にあるようである。
「はぁ、何とかして、もう自分を犠牲にしてでも助けることってできねぇの?」
「駄目だよそれじゃ。君もろともトロッコに轢かれて終わりかもしれないよ?」
「じゃあいよいよ決めらんないや。ほら……信号、青になったぞ」
青年は逃げるかのように、視線を信号のほうへやる。
「ほんとだ!」
ハッと顔をあげて、彼女は速足で横断歩道を渡り始める。
二人の青年は少し後ろから、歩いて追いつこうとした。
──だから気づいた。視界の右端から、途轍もない速度でトラックが迫っていることに。
「「──ッ!」」
二人の青年は走った。彼女の背中へ手を伸ばした。逃げるなどという考えは頭には無かった。
──走る、走る、走る。薄く引き伸ばされたようにも思える横断歩道を走る。
──ようやく届いた爪で、中指で、手首で。光もつまめそうな力で精一杯に押し出す。
手と崩れる背中が最後に見えて。
騒がしい衝突、巨大な音。
──美花は助かったのだろうか
レールはもう、分かっている。