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第09話 風が教えてくれたもの


 契約を終えたユノは、風精霊界――《風の回廊》の奥深くにある、風の泉と呼ばれる場所で目を覚ました。

 泉の水面は鏡のように静かで、その上に浮かぶ風精霊たちの光が、淡く周囲を照らしている。

 ユノはその中で、ゆっくりと体を起こした。


(……夢みたいだな)


 足元にある草は、まるで風と同化しているように揺れている。

 目の前を小さな風精霊たちがくるくると舞いながら、くすぐるように彼の肩や頭のまわりを回っていた。


「おはよう、ユノ」


 声の主は、もちろんユイリだった。

 彼女は泉の向こうに浮かび、ユノに柔らかい微笑みを向けていた。


「……うん。おはよう、ユイリ」

「よく眠れた?」

「うん。なんだか、ふわふわした夢を見てた気がする」

「それ、たぶん風精霊たちが君に話しかけてたんだと思う。ときどき、眠ってる人の心に風の音を届けるの」


 ユノは頷きながら、精霊たちを見まわした。


 彼らは昨日よりもさらに自然に、ユノのそばに集まっていた。

 まるで、もう家族のように接してくれている。

 ひとつひとつの風が、まるで「ここにいていいよ」と言ってくれているようだった。


「……こんなふうに、誰かに囲まれて目覚めるの、初めてかもしれない」


 ふと呟くと、ユイリの瞳がほんの少し揺れた。


「それは、きっと、君がずっと『ひとり』だったから」

「……確かに、僕はひとりだった。でも、君たちに会えて、少し変わった気がする」


 ユイリは少しだけ間を置いてから、静かに口を開いた。


「ユノ、今から話すことは……少しだけ、重たい話かもしれない」


 ユノは真剣な顔になった。


「いいよ。ちゃんと聞く。僕に関係のあることなんだよね?」


 ユイリはそっと頷き、風がわずかに揺れた。


「精霊界には、かつて“すべての精霊を束ねる者”がいた。所謂、『精霊王』って呼ばれてた存在だよ」

「精霊王……?」

「四大精霊――風、水、火、土。そのすべてと心を交わし、契約を結び、世界の調和を守っていた人間。だけど、もう長いこと現れていない」

「いない、って……死んだの?」

「消えた。正確には、『世界から姿を消した』んだ。理由は誰にもわからない。でも、それ以来、精霊界の力は少しずつ、確かに弱くなっているの」


 ユノは、泉の水面に映る自分の顔を見つめた。


(すべての精霊と、契約を結んだ人間……)

「……もしかして、僕が……」


 言いかけて、ユノは口を閉じた。

 自分なんかが、そんな大きな存在になれるのだろうか。

 草むしりしか取り柄がなかった自分が――でも、その肩に、ユイリの手がそっと置かれた。


「まだ早いよ。君はまだ始まったばかり。焦らなくていい。精霊たちと心を通わせて、ゆっくり進んでいけばいいの」


 ユノは、その言葉に少しだけ肩の力を抜いた。


「……うん。ありがとう、ユイリ」

「それにね、ユノ。私たち、君に期待してるけど、別に私たちは君にそんな事を押しつけたいわけじゃない。君がどう生きるかを決めるのは、君自身だよ」

「うん。……僕は、君たちと一緒に歩いていきたい。風が、こんなにやさしいって知らなかったから」


 ユイリはふっと笑い、頷いた。


「じゃあ、そろそろ戻ろうか。精霊界と人間界は、永遠にはつながっていられないから」

「うん。……でも、また来てもいい?」

「もちろん。風はいつでも、君のそばにある」


 ユイリが手を振ると、周囲の風精霊たちがいっせいにユノの周囲を舞い始めた。

 くるくると踊るように、彼のまわりを回り、やわらかな風の帯を作っていく。


『またね、ユノ!』

『今度は風魔法、もっと見せて!』

『君、すごくおもしろい風持ってる!』


 ひとつひとつの光が声を持ち、彼に別れを告げていく。


 ユノはその場に立ち、精霊たちに深く頭を下げた。


「ありがとう。また、必ず来るよ」


 風が舞い、彼の視界が白く包まれる。


 次に目を開けたとき、ユノは草原にいた。

 空はもう夕焼けに染まりかけていて、吹き抜ける風はあの日よりもずっとやわらかだった。

 手をかざすと、風が反応する。

 ふわりと浮かび上がる《浮遊》の魔法。草の間を裂くように生まれる《風刃》。

 確かに、風が『友達』になっていた。


「……行こう。まだ、はじまったばかりだから」


 ユノは草原をあとにし、次なる出会いへと歩み出した。

 その背中を、夕暮れの風がそっと押していた。

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