第16話 ぼくの居場所
夕暮れの村に、にぎやかな声が響いていた。
大鍋の中では野菜と肉が煮込まれ、串焼きが炭火の上でじゅうじゅうと音を立てる。
子供たちは縁側を走り回り、村の大人たちは笑顔で酒を酌み交わしていた。
そして、その中心に――ユノがいた。
「さぁさ、英雄さんのためのごちそうだ!」
「村を救った風の使い手、ばんざい!」
「ばんざーい!」
「ばんざーい!!」
子供たちが無邪気に声を上げ、拍手が広がる。
ユノはその歓声の中で、戸惑いながらも笑っていた。
(昨日まで、ただの『草むしりの少年』だったのに……)
でも、今はもう誰もユノのことを笑わない。
彼を見つめる目は、尊敬と感謝に満ちていた。
「ねぇユノ兄ちゃん! 風の玉また見せてよ!」
「空飛ぶの! あのふわーってなるやつ!」
「もっと魔法見たーい!」
子供たちに手を引かれ、ユノは広場の真ん中に立つ。
「えっと……じゃあ、ちょっとだけ」
彼がそっと手をかざすと、風が集まり、小さな玉となって浮かび上がる。
「《風舞》」
風の玉がきらきらと宙に舞い、くるくると回る。
「うわあああ……!」
「きれーい!!」
子供たちの歓声。拍手。笑顔。
風と遊ぶユノの姿を、村人たちは微笑ましそうに見つめていた。
▽
宴がひと段落した頃、畑番の老人がユノの隣に腰を下ろす。
「いやぁ、ええもん見せてもらった」
「そんな……ぼく、ただ必死に動いただけで」
「必死に動けるってのが、大したもんじゃ。あの魔物を倒せたのも、お前が風を信じてたからだろ」
ユノはうなずく。
「……はい。ユイリが、いてくれたから」
老人はゆっくりと立ち上がり、空を見上げて言った。
「君の力は、この村に『風』を呼んだ。……流れを変えたんだよ」
ユノはしばらく、その言葉の意味を考えていた。
そして、ぽつりと呟く。
「……ぼくも、変わりたかった。変われたのかな……」
▽
夜が深まり、村の広場も静けさを取り戻す。
ユノは縁側に座って、夜空を眺めていた。
無数の星が、静かにまたたいている。
その隣に、風がいる。
『……お疲れさま、ユノ』
「ユイリ……ありがとう。君がいなかったら、僕……何もできなかった」
『違うよ。私が助けたんじゃない。君が、自分の力でここまで来たんだよ?』
「……ここが、帰ってきたい場所になったんだ」
ポツリと出た言葉に、自分でも驚いた。
こんな気持ち、初めてだった。
何も持たず、どこにも居場所がなかった少年が、
今は「帰りたい」と思う場所を、心の中に見つけた。
風が頬を優しく撫でる。
『でも――ここは『始まり』なんだよ、ユノ』
ユイリは、いつものやわらかな声で続けた。
『まだ、旅の途中。これから、もっと多くの風が、精霊が、君を試す……でも、大丈夫。私は最初に君を選んだ。だから――ずっと、そばにいる』
ユノは目を閉じて、静かにうなずいた。
そして、夜空を見上げる。
「……ありがとう。僕、もう少しだけ……信じてみるよ。僕の力と、この風を」
夜風が、優しく吹いた。
その音は、祝福のようで――そして、新たな物語の扉を、そっと開く風だった。
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