第11話 風に導かれて
草原を抜け、森を越え、さらにその先の山道へ。
旅を始めてから数日が経つ。
ユノの足取りは軽くもあり、慎重でもあった。
精霊ユイリの声に導かれながら、彼は風が選んでくれる道を歩いていた。
「この先に、何があるの?」
『それは……風の流れが教えてくれる。君の『居場所』に繋がる道だよ』
草むしりしかできない――そう言われ、追い出された日。
それでもユノは、風と出会い、魔法を覚え、少しずつ前を向けるようになった。
そして今、彼は誰かと生きる場所をユノは求めていたのである。
▽
山のふもとで風が止んだ。
不思議に思って立ち止まったユノの目の前に、小さな石畳の道が現れる。
木々に囲まれた細道の奥。
そこには、木の屋根と煙突がいくつも並んだ、山間の村があった。
「……村だ」
思わず呟くと、ユイリが笑った。
『そう。ここが『ソラノ村』――風が案内した、小さな場所』
ユノはゆっくりと足を踏み入れた。
村はとても静かだった。
人の声は聞こえるが、喧騒はない。
土の匂い、風の音、動物の気配。
人々が自然と共に暮らしていることが、空気から伝わってくる。
(……なんだろう、この感じ。精霊界に少し似てる)
木造の家々、石積みの井戸、土を踏み固めた小道。
村の人々は、ほとんどが農具を手にしていたり、布を干していたり、薪を割っていたりと、それぞれの作業に勤しんでいる。
そんな中、ユノの姿を見つけた子供たちが、興味津々な顔で近づいてきた。
「ねえ、あんた、旅の子? どっから来たの?」
「そのカバン、すっごく大きいね!」
「風、つれてるの?魔法使えるの?」
質問攻めにあって、ユノは少し戸惑った。
「う、うん。ちょっとだけ……」
「わー! 本物の旅人だー!」
「お母さんたちに言ってくる!」
子供たちは歓声をあげて駆けていった。
その様子に笑っていたのは、近くで水を汲んでいた老女だった。
「ふふ、にぎやかになったねぇ。旅の坊や、こんな山奥まで来るなんて珍しいこった」
「……ご迷惑じゃ、ないですか?」
「なんで? あんたが悪さしない限り、ここは誰でも受け入れる村だよ」
老女は、にこりと目を細めた。
「あなたのお名前はなんていうの?」
「ユノ、です。ファミリーネームはありません」
「そうかいそうかい。じゃあユノ坊。まずは、腹ごしらえしていきなさいな」
そう言って、老女はユノの手を引いて、村の中心へと案内してくれた。
▽
村の広場では、小さな焚き火がたかれ、パンや野菜が焼かれていた。
夕飯の支度だろうか、大人たちがにこにこと笑いながらユノを見つめていた。
「おやまあ、小さな旅人さん」
「痩せてるけど、元気そうねぇ」
「この子、風の魔法が使えるんですって!」
「まぁ、すごいねぇ!」
驚いたことに、誰もユノのスキルを問わなかった。
『草むしりしかできません』などと説明する機会すらなかった。
けれどそれが、ユノには少しだけ……心地よかった。
(ここでは、スキルなんて関係なく、『ユノ』として見てくれるの、かな?)
食事の香ばしい匂い、にぎやかな子供たちの声、焚き火のパチパチという音。
ユノの心が、ほんのりと温かく満たされていくのを感じた。
ユイリが、そっと囁く。
『ここなら、君の風は、ちゃんと届くわ』
ユノは、小さくうなずいた。
「……この村なら、なにか、できるかもしれない」
旅を続ける理由が、逃げるためから繋がるため、に変わっていく。
そんな始まりの夜だった。
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