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1.『それぞれの帰還』part 9.

「え? え? お坊っちゃま? 何で? 知り合いですか?」


「……お前な……わざとか? あのガキは過去の俺だ……」


「え……?」



 えええぇぇえぇええぇぇぇえぇ!?


 そっか、()()()()()()()()って……そういうことか!


 私はてっきり誰も関係者のいない遠い過去に来ていたと思ったけど、メガラニカは滅亡した後、王のスキルで謎の空間を行ったり来たりしながら長い間うっすら存続していたのだった。だから、年代的にかなり戻ったとしても、ベアトゥス様にとっては20年前くらいの感覚になるっぽい。


 これまでの事情を聞く限り、平和だった頃のメガラニカにもベアトゥス様は存在しているんだよね。


 つまり、ここは()()()()()()()()()()()ってことになるのだ。


 ベアトゥス様の実家に来ちゃってたんだ、私!!


 だからかぁ……


 お坊っちゃまに何かトゲトゲしい態度取りながら、勇者様があんまり怒んなかったのって……


 ふふふ……


 私は、照れて機嫌の悪そうな勇者様を見ながら、お坊っちゃまの面影(おもかげ)を余裕で脳内再生できるようになっていた。



「お前……またロクでも無いことを考えているな……?」


「いやまさか! ちょっと感動していただけです」


「わたくしも、お坊っちゃまがお屋敷にいらっしゃったときには、驚きを隠せませんでした」


「バカ言え、完璧に隠してただろうが!」


「いえいえ、まるで若い頃の旦那様に生き写しでございましたから、見紛(みまご)うはずもございません」


「執事さん……旦那様の肖像画、このお屋敷にありますか……?」


「どさくさに紛れて、父上を見ようとすんじゃねえ!」



 勇者様とワーワーギャーギャーしながらも、食後に執事さんが邸内を案内してくれて、私は義父の肖像画を無事拝見することができた。


 執事さんの言うとおり、お義父様のビジュアルは、肖像画だけど今のベアトゥス様にかなり似ている。



「どうかどうか、私たちを末長く見守ってください、お義父様……」

 

「何してんだお前?」


「結婚のご挨拶です」


「あのなぁ……肖像画なんか拝んで……いや、いいか。昼前にはこの家出るぞ」


「あ、そういえば、大旦那様って、お爺様のことなんですか? できればご挨拶したいんですけど……」


「いや、爺ちゃんは、まあ……別に見なくて良いだろ」


「え? 執事さん、どういうことです?」


「そうですなぁ……若旦那様がお望みにならないならば……」



 な、なんか確執があるのか……?



「あ、そういえば……ヒュパティアさんはもうお生まれになってるんですか?」


「なんと! 奥様はヒュパティアお嬢様のこともご存じなのですね」



 執事さんは、もの凄い柔軟な姿勢で何もかもを受け止めてくれている。


 私たちにとってはありがたい存在だけど、お屋敷を守るチーフスタッフとして、これでいいのか……?



「ヒュパティアは確か……もう神殿に行った後じゃねえか?」


「左様でございます。ヒュパティアお嬢様は、先月から神殿に通っておりまして、本日は城にお泊まりです」


「あーじゃあ……会えませんね……」



 残念……ちっちゃい勇者様が超可愛かったから、子ヒュパティアちゃんも見たかったんだけど……まあしょうがないか。


 執事さんと話していると、ベアトゥス様がすごく身近な存在に思えてくる。


 なんかアレだね。某ランボーが実家に帰ったときみたいな。え!? お前実家あんの!? みたいな。


 いや、あるだろうけどさ……凄すぎる人に『実家』って単語が結びつかないときあるんだよね、私。


 あれ? 私……よく考えたら現実世界で筋肉映画観まくってたかもしんない……元々筋肉が好きだったのか?


 などと思いながら、みんなで玄関に差し掛かると、外から声がした。



「どれ、ベアトゥスを可愛がってから昼寝でもするか! ガッハッハ!」



 あ……見なくても誰かわかっちゃった……勇者様のお祖父様だ。


 執事さんが焦って私たちを階段の裏に隠し、玄関のドアを開けてご主人様を迎え入れる。



「おかえりなさいませ、ヴァルカバド様」


「おう、出迎えご苦労である! ガッハッハ!」



 ベアトゥス様のお祖父様は、なんとなく初めて会ったときの勇者様に似ていた。


 なんだか(よう)の者って感じで、ずっと笑ってる。


 もしかして、憧れのお爺ちゃんだったのかな……?


 なんて思いながら隣にいる夫を見上げると、口に手を当てて可愛くなっている。



「アレがお祖父様なんですか……?」


「バ……! お前、喋るな!」



 ほとんど誰にも聞こえない囁きだったはずだけど、玄関先の空気が一瞬で変わる。



「ん? 客人か……?」



 勇者様のお祖父様は、ゆっくりとこちらに歩いてきて、押し合っている私たちの前に顔を覗かせた。



「な、ウルジェイではないか!? ……む? そのご婦人は……お前、まさか……」


「いや、違う! 落ち着いてくれ、爺ちゃん……!」


「大旦那様、そちらは特別なお客様でございます!」



 ワンテンポ遅れて執事さんがやってきて、お屋敷を出ようとしていた私たちは、応接間に逆戻りすることになってしまった。





◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇





「ガッハッハ! なるほどな、時間旅行ができるような時代になっておるのか!」



 ベアトゥス様と執事さんの説明により、ヴァルカバドお祖父様は、大体の事情を理解してくれたようだった。


 さすが器がデカいと言うか……このお屋敷の人たちは、皆んな何でこんなにも信じてくれるのか謎だ……



「しかしベアトゥスよ……お前、こういうのが好みだったのか? もっとこう……」

「あー! そういえば爺ちゃん、もう寝なくていいのか!? さっき帰ってきたってことは、また朝帰りなんだろ?」


「ふむ……それを隠すために小さいお前を寝る前に構っておったのだが、気づいておったのか」


「当たり前だ! 酒臭え息吐きかけて、気付くなってほうが無理だろ!」


「ガハハ! さすが我が孫は(さと)いのう! どれ、頭を撫でさせろ!」


「やめろっつってんだろ! 俺はもう大人だ!」



 ベアトゥス様は、お祖父様からちびっこベアトゥス様と同じ扱いを受け、恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 出会ったときからでっかい筋肉勇者だったから、私としてはすごく新鮮……


 この人も、ちっちゃい時があったんだねぇ……ふふふ……



「ふむ、お前の嫁御(よめご)はなかなかの傑物のようだな……精霊女王に気に入られるとは」



 話がホリーブレ洞窟に及ぶと、勇者様のお祖父様は思いのほか識者だってことが判明。人間なのにホリーブレ洞窟のこと知ってた……


 それどころか、ホリーブレの入り口まで行ったことがあるらしい。あいにく中には入れてもらえなかったけど、薄青い光は目にしたと言っていた。



「わかったら、余計なことは言うんじゃねえ! 爺ちゃんのせいで夫婦仲が悪くなったら、どうしてくれる!」


「ガッハッハ! オナゴなら掃いて捨てるほどおるではないか! 喧嘩したらワシに言え! 彼女の友達を紹介してやるぞ?」

「いらねえよ!!」



 ベアトゥス様のお祖父様とのお茶会は(お祖父様は迎酒(むかえざけ)とか言って茶色いお酒を飲んでたけど)、執事さんが呼んでくれた貸切馬車が到着するまで続いた。


 小さいベアトゥス坊っちゃまが、図書館に入り浸っていることについては、お祖父様も心配していたようだ。



「ウルジェイとその嫁御が、急に死んでしまったからのう……寂しさを紛らわせるものが、その本だったのかも知れぬな」



 メガラニカが滅亡したことは伏せ、私たちはみんな元気に暮らしていると言うことだけを告げて、お屋敷を後にする。


 馬車に乗り込むと、ヴァルカバドお祖父様があっけらかんと言った。



「そういえば、昨夜はお楽しみだったのか? またいつでも来いよ!」


「は!? ジジイてめー、余計なこと言うなっつっただろうが!!」


「ガッハッハ! 細かいことは気にするな!」



 このお爺ちゃんはまったくもう……


 勇者様も、思い出のお祖父様との会話がその締めでいいのか……?


 まあ、現実社会でも田舎の親戚の集まりなんかで、えげつないセクハラとか言われまくってたなあ……


 田舎プラス昔の人の相乗効果で、誰も止められなくなっちゃうんだよね。



「すまん、ミドヴェルト……やはり爺ちゃんに会わせるべきではなかったな」


「いえ、楽しかったです。ベアトゥス様のお家が見れて良かったし……」



 しかし、内緒だけど……ベアトゥス様のお父様であるウルジェイ様……ガチ好みだった……!


 なんか、ちょっとベアトゥス様より細身な感じで、本とか持ってメガネ掛けてた……!


 いや待て? ベアトゥス様だって、メガネ掛ければ案外……



「なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」


「い、いえ……」



 焦って目を逸らし、遠ざかる勇者様の実家を見ながら、ベアトゥス様と初めて出会ったときは、みんな居なくなっちゃってたんだなあと思う。歴史好きって観点からその事情を聞いてみたいと思ったけど、私にとっては単なる歴史でも、ベアトゥス様にとっては家族の事情なんだよなあ……と飲み込んだ。


 不意に手を握られて、私は窓から隣の勇者様に視線を戻す。



「嫌いになったか?」


「いえ、まさか……ただ」


「ただ、なんだ?」


「ベリル様は、なぜここに私たちを送ってくれたのかなって……考えてました」


「そのことか。実は俺も考えていた」



 馬車は広場まで来ると、ぐるりと一周して止まる。


 市場に降り立つと、美味しそうな匂いが漂ってきた。


 まだ……帰りたくないな……





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