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1.『それぞれの帰還』part 6.

「このページから読んで」


「えっと、どこかな〜?」


「ここ」


「じゃ、じゃあ読むよ〜? 偉大なるメガラニカ、神に導かれしこの国は……」



 陽の光が暖かく差し込む窓際の長椅子で、私はなぜか読み聞かせをする羽目になる。


 さすが神国メガラニカの図書館というべきか、ナチュラルに宗教書だ。


 男の子が持ってきた本は、絵本というほどではなかったけど、カラフルなイラストがふんだんにあしらわれた高級そうな本だった。


 ちょうど私が探していたような、メガラニカの歴史を織り込んだ本で、何もかもが()()()()()ってことになっている以外はすんなり理解しやすい。



「……さりとて、勇者の剣にて倒れし悪魔は天空の光もて消え去らん、メガラニカの大地に恵みをもたらすものなり……おしまい」



 なるほどね、メガラニカにも悪魔と天使の概念コンビは存在していたようだ。


 ほかのページも読んでみたいなぁと思いながらページを(めく)ると、男の子は寝てしまったようで私に寄りかかって来て、本から小さい手が離れる。


 まあ、こんだけ日差しがあったかいと眠くなっちゃうかもね……


 

「ん……もう終わったの……?」


「あ、起きちゃったかな? お話は終わったよ。眠いなら横になる?」


「ならない……」



 ならないのかよ……


 一応、塾のバイト経験があるから良い大人ぶることはできるけど……私にも限界ってものがあるんだよね。


 もう後10分くらいで、勇者様との待ち合わせ時間なのよ……


 どうしよう……中途半端に関わってしまったので、大人として責任持ってお家に帰るとこ見届けなきゃかな?


 いやいや、最初からひとりで居たんだし、ひとりで帰れるっしょ!


 余計なお世話になっちゃうし、っていうか下の階にお世話係の人いるんじゃないの?



「じゃあ……下の階に行こっか? おうちの人と一緒に来たんだよね?」


「ひとりできた……」


「え?」


「ひとりできた」



 えっと……ネグレクト?


 どうしよ……



「あ、そうなん……だぁー……えっとぉ……じゃあ、ここにいる?」


「一緒にいて……」


「えーっ……と、それはね……」


「一緒がいい」



 うっ……なんか、私の服をつかむちっちゃい手が可愛い……


 懐かれたのか……?


 待ち合わせまでは後5分。


 さすがに見捨てることはできんよ!?



「じゃあ、私に付き合って1階に降りてくれるかな? 階段のとこで待ち合わせしてるんだ〜。一緒に行く?」


「いいよ」


「じゃあ、行こっか!」


「抱っこして……」


「え?」


「抱っこ……」


「はいはい、急ぎますよ〜っと!」



 小さい子だと思ってたけど、持ち上げると結構重い。



「うひゃ!」



 変な声が出て後ろによろめくと、私は何とか踏みとどまった。


 そのまま図書室の本棚の間を、どこのお子さんかわからない子を抱えてよろよろと歩き、何とか階段のあるところまでたどり着く。


 正直、子どもそんな得意じゃないんだけどぉ……


 でも結婚しちゃったし、練習練習! ……って感じで行けば何とかなるじゃろ。


 そんなふうに思いながら、私は階下のベアトゥス様に助けを求める。



「ベアトゥス様、ベアトゥス様、上がって来てもらえますか?」


「おい、何なんだその子……ども……は」



 素早く階段を登ってきた勇者様は、信じられないものを見る目で私を凝視する。



「は、早く代わってくださいぃ……この子、意外に重いんですよ」


「お前……なぜ……いや、まあいい。これからどうするんだ?」


「どうするも何も……この子の保護者を見つけて、お家に帰さないと」


「はあ? こいつはひとりで家に帰れる。そういう年齢だ」


「え、でも……」



 そう言われて、何となくベアトゥス様に抱かれている男の子のほうを見ると、不安そうな目で私に助けを求めるみたいな顔をする。


 何だか可哀想なんだよなぁ……


 それにしても、同じような赤髪の二人は、そうやって一緒に居るとまるで親子みたいだ。



「ふふ……」


「何がおかしい?」


「いや、なんか私たち、今すごく家族みたいだなと思って」


「はぁ!? お前な……!」



 図書館司書らしき人から「んんっ!」と咳払いで注意されてしまい、勇者様は声を落とす。



「おかしなことを言うな」


「すみません、面白くなっちゃって」



 これだけ目立てば、この場にお世話係がいたとしたら、もう駆けつけてきてるはずだよね。


 私は図書館から出ることを決意。この子はひとりぼっちなのだ。親御さんが買い物とか行っててお留守番の可能性もあるので、念のため図書館司書さんに男の子についてなんか頼まれてないか聞くと、何も聞いていないとのことだった。こりゃもう、私たちがお家に送り届けないとダメなやつだ。


 ベアトゥス様は、ブツクサ言いながら男の子を逃げないように肩車している。


 図書館前の広場に出ると、私は男の子にできるだけ優しく話しかけてみた。



「さあて、ボクのお家はどこかな〜?」


「……あっち」


「嘘つけ!」


「嘘じゃない……」


「ちょっと、ベアトゥス様! こんな小さい子を虐めちゃダメですよ!」


「べー……だ。おまえ、嫌い」


「あーそーかよ」



 ちょっと中間反抗期な男の子に、勇者様がキレたらどうしよ……と思ってたけど、案外いい感じに受け流してるな。


 相性はあんま良くないっぽいけど……



「ほら君も、ベアトゥス様に『肩車してくれてありがとう』って言ってごらん? 仲良くなれるから」


「なれねーよ」


「ベアトゥス様は黙ってください」


「……チッ!」


「子どもの前で舌打ちしない! ほらぁ? ボクぅ? 高いところから、いろんなもの見えるねー? 楽しいねー? そういうときは何て言うのかなー?」


「……ありがとう」


「よく言えました、偉いねぇ! うふふ……可愛い♡」



 この男の子は、だいたい5歳か6歳くらいかな?


 賢そうではあるけど、どう見てもひとりで街に出ていい年齢だとは思えない。


 私が褒めると、少し(うつむ)いて、照れたように顔を赤らめた。天使か?


 そのまま下に目線を移すと、なぜか勇者様も一緒に照れている。イミフ。



「取り敢えず、警察とかに相談します? メガラニカでは迷子センターとかないんですか?」


「警ら隊は、子どもなんか相手にせんぞ。迷子セーターとはなんだ?」


「迷子セ・ン・ターです。はぁ、まいいや……もう、この子の言うとおりに歩くしかなさそうですね……」


「じゃ、取り敢えずあっちか」


「ちがう! こっち行く!」


「痛ッテ! 髪の毛引っ張んじゃねえ、クソガキ!」


「こーら! 子どもが怖がるじゃないですかぁ! ほらぁ、坊や? 人に痛いことしちゃダメなんだよ? わかるかな? 君はいい子かな? それとも、もしかして悪い子だったのぉ?」


「……ぼく、いい子……」


「そうなんだぁ〜! いい子なんだ〜! それなら、ほらぁ? ごめんなさいは〜? 上手に言えるかなぁ? ボクには難しいかなぁ?」


「……ごめんなさい」


「すごいね言えたね! 君がいい子で良かったよかった〜! じゃあ、お家に帰ろっか〜! 帰り道は覚えてるかな? どっちに行く?」


「こっち」


「じゃあ、こっち行こうね〜! ベアトゥス様、こっちですこっち!」



 私は、不機嫌な勇者様を何とか引っ張って、男の子の言うとおりにメガラニカの広場をあちこち移動した。


 もう、心の中の某ストリートにいる赤くて可愛いモジャモジャを、可能な限り思い出して成りきるしかない。


 それに、どうせお子様だし、さっきみたいにすぐ寝るだろ……と甘く見ていたら寝なかった……



「はぁ……すみません、ベアトゥス様……私の作戦は……失敗に終わりました……」



 脇道に入ってぐるぐると歩き回り、何もない丘の道で(つまず)きかけたとき、とうとう私の教育係としての自尊心は崩壊した。


 ちょっと上り坂がキツ過ぎて、意味もなく泣けてきたわけじゃないからね!!


 交代で抱っこしてた男の子は、私にしっかりと抱きついて離れない。



「大丈夫か? 無理すんなっての。どれ、代わってやるからソイツを寄越せ」


「嫌、ぼく、こっちがいい」


「お前なあ……いい加減にしろよ?」


「ぼく、こっち!」


「わ、わかりましたぁ! と、とりあえず、あの木のところまで頑張らせてくださいぃ!」



 私だって、中学の頃は運動部で走り込みとかやってたんだ! 自分、まだやれます! やらせてください!!


 謎のテンションになって、20kg近い重さの男の子を抱っこした状態の私は、ヘロヘロになりながら丘を登り切った。


 やった! なんて清々しい気分!!


 登頂って、こんな感じなのかもね……ここは丘だけど。



「ふわぁ……あれ、ここって……?」


「ここは、霊園だ」



 見渡す限り、緑の絨毯(じゅうたん)が広がっている風景に、ちらほらと墓石が見える。


 白い花が咲き乱れて、なんとなく神聖な雰囲気を感じた。



「きれいですね……」


「そうか? 寂しい場所だ」



 まあ、そう言えなくもないけど……


 ん?


 なんで、この子はこんな場所に来たがったんだろ……?





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