3.『火山の巨人イオスパイデ』part 27.
「取り込む……ですか」
少年姿のマーヤークさんは、何となく疑問が残ったような口調で、青髪悪魔ロンゲラップ博士の言葉を繰り返した。
割と無謀なことを平気で言うロンゲラップさんは、人の心無いんかと思うほど理論に忠実だったりするんだけど、それなりに気遣いはあるみたいで相手に合わせて指示を出す。
つまり、この青髪悪魔大先生が指示するということは、実行可能だってこと。
絶対に不可能だろうと思われることは言わない。
私にもいろんなアドバイスをくれたロンゲラップさんだからわかる。いや、わかりたい。そこに優しさが「ある」ってことを。
それは、悪魔として付き合いが長いであろうマーヤークさんも同じらしく、半信半疑のような空気を醸し出しながらも頭から否定するようなことはしない。
「火山のパワーを取り込むというのは何となく分かりましたが、さらにチュレア様のお力までも?」
「理論上は可能だ」
悪魔の暴論と言えなくもないけど……マーヤークさんご本人がやる気になってるなら、私がどうこういう問題ではないだろう。
黙って様子を見守っていると、大人悪魔にすっかり言いくるめられたマーヤーク少年が、チラリとこちらを見る。
なに? 何なに? お姉さんに何か用?
黒髪坊ちゃん刈りの子が不安気な様子に、私は何だか可愛くなっちゃって、ガンバレの意味を込めながら両手でグーを作って頷いてみる。
ダイジョブだよ! できるよ、絶対!
そんな私のことを見ながら、マーヤークさんはさらに眉を顰めた。
あれ? なんかイマイチ伝わってねえな……?
というか、私が受け取りを間違えたのか?
「おい、この悪魔が火山の生まれだということは理解したが、その力とやらを取り込んで、こいつがどこまで強くなるのかは計算しているのか?」
「え……?」
急に斜め後ろからベアトゥス様が首を突っ込んできたので、私は何となく横にズレて勇者様のご発言に注目の姿勢をとる。
この筋肉勇者はまた……
もしかして、最強状態になったマーヤークさんと戦いたいとか思ってんじゃねえだろうな……?
私の心配をよそに、青髪悪魔のロンゲラップさんは淡々と白いページに計算式を書き連ねていく。
「ドラゴン化を懸念しているのなら、ギリギリ届かない程度だな。我々悪魔の中でドラゴンに至った者はまだ居ないが、マーヤークもそこまでは力を吸収できないだろう」
ドラゴン化……?
悪魔なのに……?
「ドラゴンって……竜族のことじゃないんですか……? 私のイメージだと地竜とかがドラゴンなんですけど……」
「何を言う。ドラゴンは竜族ではない。あらゆる種族の頂点に立つ者という意味だぞ」
「はえ? 頂点……?」
「ドラゴンの末裔を名乗る爬虫類種族のせいで、そういうイメージがあることも知っているが、それは間違った認識だ」
「え? そうなんですか?」
ベアトゥス様とロンゲラップさんに次々と否定されて、私はこれまでの知識をアップデートしなくてはいけない状況に追い込まれた。
この異世界のドラゴンは種族ではなく、どんな種族でも、すべての魔族がレベルカンストすると覚醒変化するやつって感じ……らしい。
なんというか……大精霊様みたいなもので、別次元の神的な存在なのだとか。
そんなわけで、ドラゴンが誕生すれば、それが有無を言わさず「魔王」ってことになるみたい。
魔国の王なのに、王様が「魔王」って呼ばれてないのは何でだろーと思ってたが、なんかそんな細かい違いがあったんだね……
そんでもって竜族ってのは、パート家次男のリヴァルくんみたいに、爬虫類系の獣人たちのことなんだって。自称ドラゴンの末裔を名乗ってる彼らは、前王朝でかなり高い地位に居たらしく、なんかテキトーに調子のいいことを言っては嫌われていたそうだ。
それでも今現在、リヴァル君がチュレア様の婚約者候補としてロード・トゥ・チュレア(仮称)に参加できているのは、実力主義の現王朝の方針と本人の努力によるものらしい。
あいつ……頑張ってたんだな。
まあ、性格はともかくとして根性はあるよね。
ボロボロになっても暴れ松と戦ってくれたし。
そんなことを考えながら、私がこの異世界のドラゴンという存在について何とか理解をしようとしていると、マーヤーク少年が覚悟を決めたように姿勢を正した。
「わかりました。お申し付け通りにいたしましょう」
健気に使命を果たそうとしている小さなマーヤークさんの姿を見ていると、可愛くて泣けてくる。
私……頑張る子供に弱いかもしんない……
子供に寄り付かれるのは苦手なんだけど、遠くから眺めていたい気はする。
勝手に感動して、じぃーんとしながら、私がマーヤークさんを励まそうとすると、またまた青髪悪魔大先生がカットインしてきた。
なんでやねん……て思っちゃうけど、ロンゲラップさんのお話なら大事なアドバイスかもしれないので、私は素直に引き下がった。
「この地域の溶岩は、カンラン石のMg濃度が高い。ミドヴェルトが持っている、そのペンダントに使われている緑の石は、ペリドットだからな。マーヤークがカンラン石に親和性があるのはほぼ確定事項だ。だよな……おい、その自覚はあるだろう?」
「ええ、そのようですね。おそらくは……」
ロンゲラップさんは独り言のように話しはじめてから、急に少年マーヤークさんへと話を振った。
ちびっ子マーヤークさんは、何やら思い詰めたように目を伏せたまま答える。
私は誕生石がエメラルドだったもんで、てっきりこのペンダントについた緑の石はエメラルドかなと思って気に入っていたせいもあり、思わずペリドットの辺りに反応してしまった。
「え……カンラン石ってのは、一体どういう石なんですか?」
私が質問をするのは想定外だったのか、青髪悪魔のロンゲラップ大先生は一瞬動きを止め、「そこからか……」みたいな顔をしながらも一応は説明をしてくれた。
「カンラン石は、溶岩を形成する物質が冷え固まった火成岩の一種だ。我々がいるこのさらに下、地下深くの溶岩は、ほぼカンラン石でできている。それがたまたま地表に出てくる地点があって、ここはそういった地域だ。カンラン石の中でも美しく結晶化したものが宝石として珍重され、ペリドットと呼ばれている」
私の目をまっすぐ見ながら、淡々と一気に話し終えると、ロンゲラップさんは「これで満足か?」とでも言いたげな顔で言葉を切った。
「わ、わかりました……ご説明ありがとうございます……」
「ああ、わからないことを放置せずに聞く姿勢は評価できる」
「はっぷ……!」
青髪悪魔大先生に何だか褒められたような気がして、私はもう人生に悔いなしだ。
ちょっと怒られるかと思っちゃったけど、推しに評価されるだなんて……質問してよかった!!
「この石は、僕がマーヤークに贈ったんだよ。捨てないでくれて嬉しい」
マーヤークさんモドキのヤーちゃんは、なぜか頬をうっすら染めながら棚に飾られた緑の石についた小さい傷を見せてくれた。
確かに、そんな感じの大きさの石が私のペンダントには付いているけど……
もしかして、コレ……捨てたいから私にくれたのか? マーヤークさん……
気まずい事実に気づいてしまって、私はうっとりした顔のヤーちゃんを視界に入れないようにしながら話題を変えてみた。
「ところで、火山のパワーはどこで取り込むんですか?」




