3.『火山の巨人イオスパイデ』part 24.
火山の噴火なんて、普通は1個分でも十分に大災害である。
でも冷静に考えたら、現実世界の火山って単体じゃなくて、環太平洋火山帯みたいに謎の繋がりがあるんだよね。
だって、地表の底の底にはマントルがあって、それがちょびっとだけ溶けて漏れ出てくるのが火山の溶岩なのだ。
私は学校の理科で習ったことなんかを思い出しながら、3つの火山が一気に噴火している様を眺めていた。
この異世界もひとつの惑星だ。
それは、精霊女王のベリル様が上空にぐるっと張ってた結界や、サリー船長たちの宇宙船ウツロブネU2-6203から見た光景でわかっていることだった。
でもさぁ、ここまで再現しなくても良くない?
もっとファンタジーな感じでさぁ……月が二つあるとかさぁ……いい感じの設定にしといてくれよ……
いや、溶岩巨人とかファンタジー要素はあるんだが……
災害とか戦闘のない、平和な異世界が良かったな……今さらだけど。
すっかりキャパオーバーになった私が、雄大な景色を眺めながら軽く現実逃避をしていると、ベアトゥス様とラハールちゃんが上空から下りてきた。
「ミーちゃん、大丈夫!?」
「ミドヴェルト! つかまれ!」
「え? あ、ちょ……!」
てっきり地面に着陸してくれると思っていたラハールちゃんは、低空飛行のまま私を拾い上げる。
周囲に張った私の結界は、友人や知人、家族は自動的に受け入れる設定なので、勇者様の手が私に触れた瞬間、ラハールちゃんの大きな羽まで包み込んだ。
いや、そんなことより、高所恐怖症の人間にハリウッドアクションはNGなんですけどぉぉおおぉ!?
ふわりと足が浮いたかと思うと、肩が抜けそうな重力を感じ、私は思わず悲鳴をあげた。
「ひぎゃあぁぁぁああぁぁあぁ……!!」
もう……!
ベアトゥス様に変な声聞かれたぁ〜!!
最悪だよぉ……
勇者様の太い腕にがっちりホールドされ、ラハールちゃんの広い羽の上に引き上げられた私は、すっかり疲れ果ててへたり込んだ。
「すまん、時間が無いと思ってつい……」
「うぅ……だいじょうぶれす……」
鼻水と涙と何かヤバい液体でぐちゃぐちゃになった顔のまま、私は勇者様に抱き寄せられて、もう抵抗する意志もない。
まあ、実際、時間ないし……
この異世界、高所恐怖症に理解ある世界じゃないし……
これって宙吊り型のジェットコースターとか、『バイキング』とかいう船のブランコみたいなアトラクションと似てるのでは……?
軽く腰が抜けているが、噴煙が近づくと私は無理に前を向いた。
もうヤケクソだぜ!
やっちまったことをクヨクヨ悩んでもしょうがないもんね!
ベアトゥス様には、まあまあヒドい部分も見られてるから、今さらだ。
家族って、そういうもんだろ!?
なんかで言ってたよ、迷惑をかけ合うものだって。
……うう……強い心で開き直るしかない……
必死でメンタル再構築中の私に、新たな声が掛けられた。
「あそこに降りる!?」
ラハールちゃんが、軽く振り向きながら噴煙を中心に旋回する。
慌てて手のひらにスマホ魔法を発動して画面を見ると、ロンゲラップ大先生のメモが次々と表示された。
そこには、噴火あるあるの初期段階と、これからどうなっていくかの短期的な予測。そして、私たちのすべき行動に関する指示が細かく書かれている。これも、ヤーちゃんの実地調査による賜物なのだろう……
「降りなくていいみたい! 火山雷が発生してるから注意だって!」
そういえば、メーデー民にはお馴染みの、噴煙内を突っ切った航空機の事故ってあったよな……
でもあれは、ジェットエンジンに噴煙が吸い込まれて、高温でガラス質が溶け、エンジン内部に付着して停止、みたいな話だった。
その点、我らがラハール航空の機体は、エンジンとか付いてないし、問題ないね!
「わかった!」
噴煙に近づいてみると、ところどころピカっとしてて、雷の存在感がすごい。
「見ろ! お前の好きな雷見物ができるではないか!」
ベアトゥス様が、私を元気付けようという意図なのか、肩の辺りを高速でナデナデしながら変にヨイショしてきた。
でもね……残念ながら、安全なお家の中からでしか、雷見物を楽しむ余裕は出ないんですよね……
一応、物理防御結界と魔法防御結界を重ねがけしているけど、怖すぎて無理。
それに私、デカい音も恐怖症なんだよね……
風船の破裂音とか、今、目の前で重低音を響かせながら、ドロドロバキィ!と鳴ってるこの雷とか……
つーか、なんで常にピシュピシュ変な音してんの……?
怖過ぎるんですけど……
火山から上がったサーマル雲は、ある高度まで立ち上ると、それ以上は上に行けないのか、どんどん横に広がりはじめた。
たぶん、精霊女王ベリル様の結界がある辺りだ。
私は、すっかり忘れていた関係各所に電話連絡を入れる。
「……あ、サリフェンリーゼ様ですか? 今、お時間よろしいでしょうか? 火山地帯の噴火についてのお知らせなのですが……ああ、はい……あ、見てる? そうなんですねー! はい……はい……ええ……あ、じゃあ、そのまま観測をお願いしてもよろしいでしょうか? それで……大変申し訳ないんですけれどもー、観測データの一部をコピーして、こちらにいただいても……え? 全部? マジすか!? ありがとうございます! えー! いや助かりますー! ええ……そうですね、ぜひー! 今度、奥様と一緒に美味しいものでも……そうですねー! ありがとうございますー。よろしくお願いいたしますー。ではー……」
一件目の電話を切ると、至近距離で聞いていたベアトゥス様が、不機嫌そうにこっちを見ていた。
でも、仕事中だし、いちいち夫のヤキモチに反応している暇はない。次、次!
「……あ、公爵様? うん、うん、聞きました? そうそう、火山が噴火して……そんでね、一応、王様の命令で今、対処してんですけど……うるせえな、調子こくなよ、マジで……あはは! はいはい……はぁ? いい加減にしろよ……そう、そんでね、そっちは元々寒い地域で作物もアレじゃん。それがさらに悪化する可能性が……そうなんです! え、うそ……知ってる? 偉いじゃ〜ん! え、勉強したことある? ふーん……いや、ハナホジ。はいはい……はいはーい。じゃ、よろ〜」
やべ……いつもの癖で、つい軽いノリになってしまった。
ライオン公爵様は、中の人が現代日本の年下っぽい男の子なので、気を抜くと雑な対応になってしまう。
はっきりと年齢は聞いてないけど、高校生か大学生……なんじゃないか説。
真面目でいい子だけど、それなりに不真面目なところもあるので、注意が必要なのだ。
今も、私が渡したスマホ魔法のデバイスでゲーム中だったらしい。
公爵夫人に離婚されない程度に、ゲーム時間をしっかりセーブしてほしいものである。
ちょっとコワいので、ベアトゥス様のほうは見ないようにして、次!
「あ、もしもし、大臣様ですかぁ〜? え!? 王様!? あ、すみません突然お電話しちゃいまして! ……いえいえ、フワ……王子殿下はお元気です〜! それでですね、ニュースというか、ご報告なんですがぁ……ええ、火山の件で……えっと……え? はぁ……マーヤークさんはお子様状態になっちゃいました……ええ、はい……それで、ちょっと想定外の状況に……え? はい、はい……ええ、ええ……ですから、その後に合流しまして……え? チュレア様が? ……あ、ヤバ! あ、いえ、こっちの話です……あ、大丈夫です〜……はい〜……はい〜……で、報告は〜……あ、はい。後で。わかりましたー!」
電話を切ると、私は思わず、見ないようにしていた勇者様の顔を見てしまった。
チュレア様が何やら大変なことになっているらしい。
魔国の王城は、火山どころの騒ぎではなく、大臣様は全員、それどころか、文官さん達もすべて出払っていて、王様は今、数名の護衛の騎士さんと会議室にいるとのことだった。
だから、ワンコールで即、電話に出れたのか……あの王様にしては、やる気あり過ぎだと思ったわ。
何かの報告待ちだから切る、と言われてしまった。
どうしよ……チュレア様に頼まれたお薬はあるんだし、今すぐ帰還魔法を発動したほうがいいのかな……?
でも、こんな大災害を放置してイチ抜けたなんて、無責任すぎるよね……
だけど、女公爵のチュレア様が暴れたりしたら、火山よりもっと大災害になるのでは……?




